「昭和懐古奇譚~ひっつき虫」(2018.12新聞掲載)

「ひっつき虫」

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冬枯れた畦道や原っぱを駆け回ると、この時期必ずと言っていいほど、「ひっつき虫」がセーターの至る所や、髪の毛にくっついて来たものだ。

全体に棘々の突起があり、ピーナッツ位の大きさをした「オナモミ」の仲間や、ハートマークを半分にしたような、一辺が5mm程の薄っぺらな「ヌスビトハギ」の仲間。

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さらには、細長い2cm程の棒状の「センダングサ」の仲間など。

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もっともそれらの植物の名など、子供の頃には知る由もなく、ただただそれらをひとまとめに、「ひっつき虫」とぼくらは呼んだ。

中でもぼくらは、全体に棘々の突起があり、ピーナッツ位の大きさをした「ひっつき虫」を好んだ。

それを手に仮面の忍者赤影を真似、手裏剣に見立てては、友のセーターや髪の毛目掛け投げつけて遊んだもの。

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ところがそんな忍者ごっこにも、すぐに飽きてしまう。

なぜなら、誰もがヒーローの、飛騨の忍者赤影や白影、そして青影役になるばかりで、誰一人敵役である金目教の、奇怪な忍者役を引き受ける奇特な者などないからだ。

となるといずれも、正義の味方ばかりで、どんなに「ひっつき虫」の手裏剣を、見事に命中させようが皆が皆不死身。

それではさすがに子どもといえど、辟易としじきに「一抜けた~っ!」となるのがオチ。

ところがそれで諦めるかと思えば、そうでもない。

何やかやと知恵を絞り、次なる遊びを編み出すから、子どもは遊びの天才である。

「よーし!せーので、一緒に積み藁に体をぶっつけて、ひっつき虫をどんだけ多く、セーターにひっつけるかで勝負だ!」と、ヤンチャ坊主のチャコの提案で、新たな遊びが始まる。

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「じゃあ皆、セーターに着替えて、またここに集合だ!」と、チャコの合図でみんな一斉に家へと駆け出した。

ぼくも家へと向かう道すがら、新たな遊びへの有利な作戦を思い描いたものだ。

セーターに着替えて田んぼへ戻ると、いよいよ新たな遊びの始まりだ。

「ミノ君のセーター、へ~んなの!」と、友が指摘した。

「あっ、本当だ!ガブガブのブッカブカだし、膝っ小僧まで隠れる長さや!何か女のスカートみたいやあ!」と囃し立てる。

(今のうちに、何とでもほざくがいい!あとで吠え面かくのはお前らや!)と、ぼくは心の中でほくそ笑んだ。

「じゃあ、始めるぞ!題して『ひっつき虫の体当たり競争』よーいドン!」と、チャコが大声を張り上げた。

「1位は断トツでミノ君が優勝!」。

(そりゃそうやて。だってわざわざ、タバコ臭い匂いの染みついた、ガブガブでブッカブカな、お父ちゃんのセーター引っ張り出して、皆に笑われるも覚悟で着て来たんだから。どー見たって皆のセーターの、倍の面積はあるんだから、話になるわけもない)と、ぼくは再び心の中でほくそ笑んだ。

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ところがお父ちゃんのセーターを、そのままタンスにこっそり戻しておいてから、さあ大変!

「うわっ!なんやこれ?」と、お父ちゃん。

日曜のまだ寝静まった早朝。

物音を立てぬよう、鮒釣りに出掛ける支度をしていたお父ちゃんが、素っ頓狂な声を上げ、寝室の裸電球を灯した。

寝ぼけ眼の視界には、体中にひっつき虫をまとった、タバコ臭いセーターを着た、不気味なお父ちゃんの姿があった。

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投稿者: okadaminoru

1957年名古屋市生まれ。名古屋在住。 岐阜県飛騨市観光プロモーション大使、しがない物書き、時代遅れのシンガーソングライター。趣味は、冷蔵庫の残り物で編み出す、究極のエコ「残り物クッキング」。 <著書> 「カカポのてがみ(毎日新聞社刊)」「百人の天職一芸(風媒社刊)」「東海の天職一芸(ゆいぽおと刊)」「東海の天職一芸2(ゆいぽおと刊)」「東海の天職一芸3(ゆいぽおと刊)」「長良川鉄道ゆるり旅(ゆいぽおと刊)」

「「昭和懐古奇譚~ひっつき虫」(2018.12新聞掲載)」への8件のフィードバック

  1. ひっつき虫
    私の子供の頃は「ひっつきボボ」って言ってました。
    身体中、ひっつきボボが付いて取る時にチクチクし痛くて
    取るのに大騒動❢
    仮面の忍者赤影、大好きだった❢
    でもねぇ❢
    正義の味方だった白影が
    ある日、必殺仕事人で、悪代官になっていた時は
    ショックだった。
    白影さん、何で?悪の道に手を染めたの~~ぉ⤴

    1. そりゃあ役者さんだって、すべからく正義の味方のヒーロー役ばっかりじゃ、食べてゆけないじゃない!
      でも子どもの頃って、そんな大人の真の姿を想像できないから、違う時代劇でも前の時代劇の役柄と、知らぬ間に重なって見えてしまうことってありましたものね。

  2. 「ひっつき虫」懐かしいですね。やっぱり 男の子には男の子の遊び方があって 
    「気分爽快!!」

    ミノ君がどうかお母ちゃんに
    叱られませんように

    1. いやーっ、あの世でお母ちゃんに再び出会ったら、そりゃあもうこっぴどく叱られると思いますよ(汗)

  3. 大人になっても「オナモミ」とか「ヌスビトハギ」と言われてもピンとこない。やっぱり「ひっつき虫!!」だよねぇ⤴️

    1. でしょーっ!
      植物学者じゃないんだから、死ぬまで「ひっつき虫」のままでいいですって!
      その方が妙にしっくり来ちゃうんだから。

  4. なんて呼んでたか覚えてないけど 小学生の頃 帰り道で友達の背中めがけてくっ付けてました。
    お喋りしながらさり気なく後ろに下がり何気なくくっ付ける。友達が気付くと 向かい合って投げ合う事に…( ◠‿◠ )
    それだけで帰る時間が楽しくて。
    くっつくだけで面白いなんて ホントあったかい時代だったなぁ〜。

    1. 誰もが誰に教わったわけじゃなく、そんな身近な植物で遊んじゃあ大笑い!
      心に偽りなく素のままで過ごせた、今となっては懐かしすぎるほど純真な子供時代でしたよねぇ。

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