「ひっつき虫」

冬枯れた畦道や原っぱを駆け回ると、この時期必ずと言っていいほど、「ひっつき虫」がセーターの至る所や、髪の毛にくっついて来たものだ。
全体に棘々の突起があり、ピーナッツ位の大きさをした「オナモミ」の仲間や、ハートマークを半分にしたような、一辺が5mm程の薄っぺらな「ヌスビトハギ」の仲間。


さらには、細長い2cm程の棒状の「センダングサ」の仲間など。

もっともそれらの植物の名など、子供の頃には知る由もなく、ただただそれらをひとまとめに、「ひっつき虫」とぼくらは呼んだ。
中でもぼくらは、全体に棘々の突起があり、ピーナッツ位の大きさをした「ひっつき虫」を好んだ。
それを手に仮面の忍者赤影を真似、手裏剣に見立てては、友のセーターや髪の毛目掛け投げつけて遊んだもの。

ところがそんな忍者ごっこにも、すぐに飽きてしまう。
なぜなら、誰もがヒーローの、飛騨の忍者赤影や白影、そして青影役になるばかりで、誰一人敵役である金目教の、奇怪な忍者役を引き受ける奇特な者などないからだ。
となるといずれも、正義の味方ばかりで、どんなに「ひっつき虫」の手裏剣を、見事に命中させようが皆が皆不死身。
それではさすがに子どもといえど、辟易としじきに「一抜けた~っ!」となるのがオチ。
ところがそれで諦めるかと思えば、そうでもない。
何やかやと知恵を絞り、次なる遊びを編み出すから、子どもは遊びの天才である。
「よーし!せーので、一緒に積み藁に体をぶっつけて、ひっつき虫をどんだけ多く、セーターにひっつけるかで勝負だ!」と、ヤンチャ坊主のチャコの提案で、新たな遊びが始まる。

「じゃあ皆、セーターに着替えて、またここに集合だ!」と、チャコの合図でみんな一斉に家へと駆け出した。
ぼくも家へと向かう道すがら、新たな遊びへの有利な作戦を思い描いたものだ。
セーターに着替えて田んぼへ戻ると、いよいよ新たな遊びの始まりだ。
「ミノ君のセーター、へ~んなの!」と、友が指摘した。
「あっ、本当だ!ガブガブのブッカブカだし、膝っ小僧まで隠れる長さや!何か女のスカートみたいやあ!」と囃し立てる。
(今のうちに、何とでもほざくがいい!あとで吠え面かくのはお前らや!)と、ぼくは心の中でほくそ笑んだ。
「じゃあ、始めるぞ!題して『ひっつき虫の体当たり競争』よーいドン!」と、チャコが大声を張り上げた。

「1位は断トツでミノ君が優勝!」。
(そりゃそうやて。だってわざわざ、タバコ臭い匂いの染みついた、ガブガブでブッカブカな、お父ちゃんのセーター引っ張り出して、皆に笑われるも覚悟で着て来たんだから。どー見たって皆のセーターの、倍の面積はあるんだから、話になるわけもない)と、ぼくは再び心の中でほくそ笑んだ。

ところがお父ちゃんのセーターを、そのままタンスにこっそり戻しておいてから、さあ大変!
「うわっ!なんやこれ?」と、お父ちゃん。
日曜のまだ寝静まった早朝。
物音を立てぬよう、鮒釣りに出掛ける支度をしていたお父ちゃんが、素っ頓狂な声を上げ、寝室の裸電球を灯した。
寝ぼけ眼の視界には、体中にひっつき虫をまとった、タバコ臭いセーターを着た、不気味なお父ちゃんの姿があった。
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ひっつき虫
私の子供の頃は「ひっつきボボ」って言ってました。
身体中、ひっつきボボが付いて取る時にチクチクし痛くて
取るのに大騒動❢
仮面の忍者赤影、大好きだった❢
でもねぇ❢
正義の味方だった白影が
ある日、必殺仕事人で、悪代官になっていた時は
ショックだった。
白影さん、何で?悪の道に手を染めたの~~ぉ⤴
そりゃあ役者さんだって、すべからく正義の味方のヒーロー役ばっかりじゃ、食べてゆけないじゃない!
でも子どもの頃って、そんな大人の真の姿を想像できないから、違う時代劇でも前の時代劇の役柄と、知らぬ間に重なって見えてしまうことってありましたものね。
「ひっつき虫」懐かしいですね。やっぱり 男の子には男の子の遊び方があって
「気分爽快!!」
ミノ君がどうかお母ちゃんに
叱られませんように
いやーっ、あの世でお母ちゃんに再び出会ったら、そりゃあもうこっぴどく叱られると思いますよ(汗)
大人になっても「オナモミ」とか「ヌスビトハギ」と言われてもピンとこない。やっぱり「ひっつき虫!!」だよねぇ⤴️
でしょーっ!
植物学者じゃないんだから、死ぬまで「ひっつき虫」のままでいいですって!
その方が妙にしっくり来ちゃうんだから。
なんて呼んでたか覚えてないけど 小学生の頃 帰り道で友達の背中めがけてくっ付けてました。
お喋りしながらさり気なく後ろに下がり何気なくくっ付ける。友達が気付くと 向かい合って投げ合う事に…( ◠‿◠ )
それだけで帰る時間が楽しくて。
くっつくだけで面白いなんて ホントあったかい時代だったなぁ〜。
誰もが誰に教わったわけじゃなく、そんな身近な植物で遊んじゃあ大笑い!
心に偽りなく素のままで過ごせた、今となっては懐かしすぎるほど純真な子供時代でしたよねぇ。