「昭和懐古奇譚~社会の窓?から覗く昭和の原風景」(2014.12新聞掲載)

「社会の窓?から覗く昭和の原風景」

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昨年の今頃か、電車内での出来事だ。

行儀よく靴を脱ぎ揃え、5~6歳の少女が車窓を流れ行くネオンの灯りを眺めていた。

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若いお母さんの躾けの良さに感心していると少女の声が。

「ねぇママ、ほらあそこ、社会の窓が開いてる!」。

ぼくはパブロフの犬のように、我が股間を覗き込んだ。

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すると隣にもう一匹、パブロフの犬が!

まったく同時に、隣のサラリーマンも股間を覗き込んでいた。

そしてバツ悪そうに互いに顔を見合わせ「どうも」と。

確かにどう見てもご同輩である。

「私ら子どもの頃は、女の子に『やだ!社会の窓開いてる!』何て指でも指され様もんなら、一日中クラスの笑い物でしたねェ」。

「やっぱりお宅も、昭和半ばのお生まれで?」。

小声で言葉を交わしていると、「やだ、里奈ちゃん。社会と会社が反対こじゃない!」と。

「まずはやっぱりビールですよね。お姉さん、瓶ビールと栓抜きもお願いね?」。

「せ、栓抜きですか?抜いて来ちゃダメなんですか?」。

「ダメに決まってるよ!瓶ビールにもちゃんと、抜き方ってもんがあるんだからさあ」。

電車で意気投合したサラリーマンは、ネクタイを緩めながら「本当今時の若い子は、何にも分かっちゃないんですよねぇ」と、徐に内ポケットから煙草を取り出し、マッチ棒で火を点けた。

やがて社会の窓から昭和談義へと発展。

乗り換え駅が同じこともあり、どちらからともなく、裏通りの鄙びた赤提灯へと縄暖簾を分け入った。

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「おっ、来た来た!」。

彼は瓶ビールと栓抜きを受け取りご満悦。

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やおら栓抜きの角で、王冠を上からカンカンと叩き出した。

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「やっぱり昭和のビールは、こうじゃなきゃ」。

確かに、どんな効能があったかはともかく、誰もが皆、王冠をカンカラカンカラ叩いたものだ。

「それってもしかして、何かの(まじな)いだったんですかねぇ」と問うた。

「さあ?でもこうやって叩くだけで、美味くなる気がするから不思議ですわ」と。

昭和談義に花が咲き千鳥足で店を出ると、なんと初雪が!

車もまばらな路地裏は、薄ら雪化粧。

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彼はコートの襟を立て、駅へと先に歩き出す。

しばらくして真っ白な空き地で立ち止まった。

「こう急に冷えると、つい催しちゃって」。

「いやー、実はぼくもです」。

「じゃあ昔を思い出したついでに、並んで連れションと洒落込みましょうか?」。

「だったらどっちが遠くへ飛ばせるか、久方ぶりに一丁やって見ますか?」。

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酔った勢いで、今にも昭和半ばの飛ばし合いが始まろうとしていた。

「でも子どもの頃みたいに、勢いよく飛びますかね」。

二人で股間をゴソゴソしながら、そんな事を囁きあっいると、突然懐中電灯に照らされた。

「ちょっと旦那さん!こんな所で立小便はこまりますなあ」。

不意に警邏中の巡査に咎められ、一気に酔いも吹き飛び、出るものも出ずにタジタジ。

「もう今は昭和半ばとは違いますから、こんなとこで用を足してもらっちゃ困ります!」。

巡査に侘び駅へと歩き出した。

すると「あっ旦那さん。ちゃんと社会の窓だけは、締めてお帰り下さいね」だって。

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誰が呼んだか「社会の窓」。

確かに言い得て妙な言葉だった。

しかしそれもまた、遠い昭和のあの日の中へと、いつの間にか埋もれ入ってしまったようだ。

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投稿者: okadaminoru

1957年名古屋市生まれ。名古屋在住。 岐阜県飛騨市観光プロモーション大使、しがない物書き、時代遅れのシンガーソングライター。趣味は、冷蔵庫の残り物で編み出す、究極のエコ「残り物クッキング」。 <著書> 「カカポのてがみ(毎日新聞社刊)」「百人の天職一芸(風媒社刊)」「東海の天職一芸(ゆいぽおと刊)」「東海の天職一芸2(ゆいぽおと刊)」「東海の天職一芸3(ゆいぽおと刊)」「長良川鉄道ゆるり旅(ゆいぽおと刊)」

「「昭和懐古奇譚~社会の窓?から覗く昭和の原風景」(2014.12新聞掲載)」への8件のフィードバック

  1. 社会の窓?
    多分、今の若い子は、全く分からないでしょう?
    昔は何故か?
    社会の窓、全開で歩いている人が居たけど
    今はあまり見かけなくなった?
    って言うか!そんな事気にしなくなったのか?
    若い時は・・
    「オイ⤴おめ~ぇ!社会の窓、開いとるてぇ!」
    「オレの暴れん坊将軍!チャックまで開けるやてぇ!」
    「元気やろぅ!」
    なんて言って笑わせたもんですぅ!
    今日は下ネタの投稿になってしまった。
    これしか思い浮かばんかったやてぇ!

  2. 社会の窓が開いてる人に気付いちゃった時、笑い合える相手なら良いけれど、知らない人ならどうしましょう⁉早く自分で気付いてぇ〰〰。

    1. 確かに教えてあげられる相手と、見て見ぬ振りを決め込まねばならない、そんな相手だってありますものねぇ。
      ぼくも見て見ぬ振りしたことがあります。
      逆に見て見ぬ振りをされたことも!
      アッチャー

  3. 最初から最後まで 風景が目に浮かんじゃいました。ホントTHE昭和( ◠‿◠ )
    言えるか言えないか?
    身内なら言えるけど そうじゃないなら言えないですね。ん!言えなかった(笑)
    でも以前 駅で スカートのチャックが開いてる女性を見かけた時は さすがに声をかけちゃいました。
    もし私なら「開いてますよ」ってサラッと声を掛けて欲しいから(笑)

    1. 確かに確かにデリケートな問題ですものねぇ。
      相手の方の風貌にもよって、受け取り方自体も変わっちゃいそうですねぇ。

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