草野球を終え家に帰ると、決まって路地の向こうから「♪ト~フ~、トフトフ♪」のラッパの音。

昭和半ばの夕暮れ時になると、豆腐屋のオッチャンが、自転車でリヤカーを牽きながらやって来た。

すると必ず母に呼び止められ、あちこち凹んだアルマイトの両手鍋と小銭を握らされ、一っ走りさせられたもの。
既に豆腐屋のオッチャンの周りには、子どもたちが屯していた。
皆決まって、ランニングシャツに半ズボン、ゴム草履や下駄ばき姿で、鍋や欠けた丼鉢を抱えたまま。

オッチャンは水槽に素手を突っ込み、豆腐一丁を掬い上げた。

「ほな、お揚げさん一枚おまけしといたで」と、オッチャンが意味ありげに囁く。

しかしその囁きは、ぼくにだけではない。
豆腐を二丁買った者へのおまけでもなく、皆が皆に同様に囁くのだ。
だったらそんなもどかしい事などせず、端っからお買い上げの方全員に「お揚げ一枚進呈」とでも、貼り紙でもしていてくれたらいいのにと、子どもながらにそう感じた。
家に帰ると母も心得たもので、「オッチャン、お揚げさんおまけしとくれたか?」と、両手鍋を覗き込む始末。
ある日の夕方。
「♪ト~フ~、トフトフ♪」のラッパの音。
「あれっ?豆腐屋のオッチャン、いつもよりちょっと早よない?それにラッパの音も、どこか変やない?」と母。
それでもいつものように両手鍋を抱え、ラッパの音のする方へと駈け出した。
すると近所の子どもらが、オッチャンを遠巻きにして立ち尽くしているではないか。
それもそのはず。
昨日までのオッチャンとは、似ても似つかぬ、いかつい髭面。
みんなこのオッチャンから豆腐を買うべきか、お揚げのおまけはあるのかが判断できず、どうしたものかと立ち尽くしていたのだ。
すると髭面のオッチャンが、痺れを切らし「ぼーんたらあ、豆腐買うんか買わんのかーっ!」と、ドスの利いた声を張り上げた。
ぼくらはハチの巣を突いた様に、一目散に鍋釜もって駈け出した。
後日譚。
いつものオッチャンの縄張りに、髭面のオッチャンが割り込もうとした。
しかしお揚げ一枚のおまけの前に、髭面のオッチャンは屈したのだとか。目出度し目出度し。
このブログのコメント欄には、皆様に開示しても良いコメントをドンドンご掲示いただき、またその他のメッセージにつきましては、minoruokadahitoristudio@gmail.comへメールをいただければ幸いです。
これこそ昭和の失われた風景ですね。小学生時代アパート前に毎日来ていてよく買いに行かされました。今ではスーパーでもっと美味しい豆腐が味わえるので夏はビールと組み合わせて食べると最高です。
昭和半ばの正に生活音そのものでした。
家から少し離れた所にお豆腐屋さんがあり、子供の頃はお鍋を持ってよく買いに行ってました。ぶ厚くて大きな手のおじさんが、水槽からお豆腐をすくってお鍋の中へ。冬は、手が真っ赤で冷たそうだなぁと思いながら見てました。
大きな船の中に沈んだ豆腐たちが、とっても涼し気な光景ですよねぇ。
子供の頃、住んで居た家の3軒隣が「豆腐屋さん」でした。
朝早くから大豆を煮ている湯けむりが凄かった事を覚えています。
私「油揚げ」「がんもどき」大好き!
油揚げはトースターで焼いて生姜醤油でモグモグ
がんもどきは煮て、煮汁がジュワ~ァ⤴
たまらんねぇ!
茶色の食べ物って、大体美味しい!
例えば「とんかつ」「てんぷら」とかさぁ⤴
ぼくも前世はお狐様だったのでは?と思える程、「油揚げ」「がんもどき」が大好きです。
お値打ちで栄養もあり、とっても美味しくって最高です!
『と〜ふ〜 ♪ とふ とふ〜 ♬』
だったかなー (. ❛ ᴗ ❛.)
我が家は 取ってが外れた小さめの雪見鍋を持たされました。
ちょっとだけ焦げ目 ちょっとだけ破れていたりする 油あげやがんもどきが おまけでした (。•̀ᴗ-)✧
先日も ちり紙交換に新聞紙を玄関先に出していたら、何時もと違う音楽が??
慌てて出てみると 違う車 =_=
セ〰〰 フ!!!! 家の中に戻し
又来週 いつもの方に ( ◜‿◝ )♡
車の排気音で違いが分かっちゃうなんて、大したもんですねぇ!
ラッパの音や自転車を停める音や玄関を開ける音や「お豆腐ちょうだ〜い」の声 全てが懐かしく愛おしい。
小さい頃 ラッパの音が聞こえると 鍋を持って妹と買いに行ってました。行きは素早く 帰りはそーっと(笑)
今でも時々ラッパの音が聞こえる事があります。軽トラですけどね!
子どもの頃の愛おしい生活音は、どんな時代になっても忘れることは出来ませんねぇ。
子どもの頃の記憶の中の生活音は、当時の暮らしの匂いまで蘇られてくれる気がします。