昭和がらくた文庫75話( 2017.02.23新聞掲載)~「曳き売り豆腐のおまけ」

草野球を終え家に帰ると、決まって路地の向こうから「♪ト~フ~、トフトフ♪」のラッパの音。

参考資料

昭和半ばの夕暮れ時になると、豆腐屋のオッチャンが、自転車でリヤカーを牽きながらやって来た。

写真は参考

すると必ず母に呼び止められ、あちこち凹んだアルマイトの両手鍋と小銭を握らされ、一っ走りさせられたもの。

既に豆腐屋のオッチャンの周りには、子どもたちが屯していた。

皆決まって、ランニングシャツに半ズボン、ゴム草履や下駄ばき姿で、鍋や欠けた丼鉢を抱えたまま。

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オッチャンは水槽に素手を突っ込み、豆腐一丁を掬い上げた。

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「ほな、お揚げさん一枚おまけしといたで」と、オッチャンが意味ありげに囁く。

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しかしその囁きは、ぼくにだけではない。

豆腐を二丁買った者へのおまけでもなく、皆が皆に同様に囁くのだ。

だったらそんなもどかしい事などせず、端っからお買い上げの方全員に「お揚げ一枚進呈」とでも、貼り紙でもしていてくれたらいいのにと、子どもながらにそう感じた。

家に帰ると母も心得たもので、「オッチャン、お揚げさんおまけしとくれたか?」と、両手鍋を覗き込む始末。

ある日の夕方。

「♪ト~フ~、トフトフ♪」のラッパの音。

「あれっ?豆腐屋のオッチャン、いつもよりちょっと早よない?それにラッパの音も、どこか変やない?」と母。

それでもいつものように両手鍋を抱え、ラッパの音のする方へと駈け出した。

すると近所の子どもらが、オッチャンを遠巻きにして立ち尽くしているではないか。

それもそのはず。

昨日までのオッチャンとは、似ても似つかぬ、いかつい髭面。

みんなこのオッチャンから豆腐を買うべきか、お揚げのおまけはあるのかが判断できず、どうしたものかと立ち尽くしていたのだ。

すると髭面のオッチャンが、痺れを切らし「ぼーんたらあ、豆腐買うんか買わんのかーっ!」と、ドスの利いた声を張り上げた。

ぼくらはハチの巣を突いた様に、一目散に鍋釜もって駈け出した。

後日譚。

いつものオッチャンの縄張りに、髭面のオッチャンが割り込もうとした。

しかしお揚げ一枚のおまけの前に、髭面のオッチャンは屈したのだとか。目出度し目出度し。

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投稿者: okadaminoru

1957年名古屋市生まれ。名古屋在住。 岐阜県飛騨市観光プロモーション大使、しがない物書き、時代遅れのシンガーソングライター。趣味は、冷蔵庫の残り物で編み出す、究極のエコ「残り物クッキング」。 <著書> 「カカポのてがみ(毎日新聞社刊)」「百人の天職一芸(風媒社刊)」「東海の天職一芸(ゆいぽおと刊)」「東海の天職一芸2(ゆいぽおと刊)」「東海の天職一芸3(ゆいぽおと刊)」「長良川鉄道ゆるり旅(ゆいぽおと刊)」

「昭和がらくた文庫75話( 2017.02.23新聞掲載)~「曳き売り豆腐のおまけ」」への10件のフィードバック

  1. これこそ昭和の失われた風景ですね。小学生時代アパート前に毎日来ていてよく買いに行かされました。今ではスーパーでもっと美味しい豆腐が味わえるので夏はビールと組み合わせて食べると最高です。

  2. 家から少し離れた所にお豆腐屋さんがあり、子供の頃はお鍋を持ってよく買いに行ってました。ぶ厚くて大きな手のおじさんが、水槽からお豆腐をすくってお鍋の中へ。冬は、手が真っ赤で冷たそうだなぁと思いながら見てました。

    1. 大きな船の中に沈んだ豆腐たちが、とっても涼し気な光景ですよねぇ。

  3. 子供の頃、住んで居た家の3軒隣が「豆腐屋さん」でした。
    朝早くから大豆を煮ている湯けむりが凄かった事を覚えています。
    私「油揚げ」「がんもどき」大好き!
    油揚げはトースターで焼いて生姜醤油でモグモグ
    がんもどきは煮て、煮汁がジュワ~ァ⤴
    たまらんねぇ!
    茶色の食べ物って、大体美味しい!
    例えば「とんかつ」「てんぷら」とかさぁ⤴

    1. ぼくも前世はお狐様だったのでは?と思える程、「油揚げ」「がんもどき」が大好きです。
      お値打ちで栄養もあり、とっても美味しくって最高です!

  4. 『と〜ふ〜 ♪ とふ とふ〜 ♬』
    だったかなー (. ❛ ᴗ ❛.)

    我が家は 取ってが外れた小さめの雪見鍋を持たされました。
    ちょっとだけ焦げ目 ちょっとだけ破れていたりする 油あげやがんもどきが おまけでした (。•̀ᴗ-)✧

    先日も ちり紙交換に新聞紙を玄関先に出していたら、何時もと違う音楽が?? 
    慌てて出てみると 違う車  =_=

    セ〰〰 フ!!!! 家の中に戻し 
    又来週  いつもの方に  ( ◜‿◝ )♡ 

  5. ラッパの音や自転車を停める音や玄関を開ける音や「お豆腐ちょうだ〜い」の声 全てが懐かしく愛おしい。
    小さい頃 ラッパの音が聞こえると 鍋を持って妹と買いに行ってました。行きは素早く 帰りはそーっと(笑)
    今でも時々ラッパの音が聞こえる事があります。軽トラですけどね!

    1. 子どもの頃の愛おしい生活音は、どんな時代になっても忘れることは出来ませんねぇ。
      子どもの頃の記憶の中の生活音は、当時の暮らしの匂いまで蘇られてくれる気がします。

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