「天職一芸~あの日のPoem 428」

今日の「天職人」は、三重県四日市市の「大入道せんべい職人」。(平成23年7月30日毎日新聞掲載)

狸囃子か腹太鼓 里の童も化かされて              酒と肴の供物下げ 狸の穴で額ずいた              それを見ていた子狸が 里の菓子屋で子に化けて         大入道の焼印の 煎餅盗み腰抜かす

三重県四日市市で昭和8(1933)年創業の、四日市名物大入道せんべいの宝来軒。三代目煎餅職人の森秀明さんを訪ねた。

せんべいの袋の中に入った、厚紙を切り抜いた大入道。

裏面には、大入道の謂れ書き。

大入道は頭が青々と剃り上がり、太い眉に大きな(まなこ)

団子っ鼻に真っ赤な舌が、顎の下へと垂れ下がる。

白黒縦縞模様の着物に赤い帯。

厚紙の一方を上へ押しやると、大入道の首がドロロンと伸びる、極めて簡単な、昔ながらの仕組みである。

しかしこの大入道。

どこからどうみても怖いと言うより、むしろ滑稽であり親しみさえ感じてしまう。

「昔、四日市の港には、蔵がようけありましてな、そこへ狸がやって来ては蔵荒しをしよって。地元の衆が困り果て、狸を驚かそと大入道を作ったんやさ。ところが狸もしたたかで、逆に大入道に化けられる始末。これはあかんと、大入道に細工して首がドロロンと長くなるようにしましたんさ。それでさすがの狸も驚いて、尻に火い付けて逃げ帰ったとか」。秀明さんが、その由来を語った。

「今も、文化2(1805)年に作られた、高さ5㍍、首の長さ1.6㍍、着物36反の超大型の大入道が、山車に乗って町を練り歩きますんさ」。

秀明さんは昭和39年に3人兄弟の長男として誕生。

昭和59年、製菓の専門学校を出ると、名古屋の洋菓子店に住み込み修業へ。

「6畳一間に4人住まい。朝4時半から夜中の11時まで。面接の時に親方は、そんなこと一言もゆうとらなんかったのに。とにかくよう殴られましたわ。親方はえらい任侠道に憧れとって。部屋へ呼ばれると極道映画のビデオ見せられ、『お前らなあ、任侠も菓子の道も同じや』って。せやでぼくがおった6年の内に、10人が夜逃げしてもうて」。

平成2年、5年の満期にお礼奉公の1年を勤め上げ、家業へ戻った。

「ちょうど祖父が他界しましてな。そしたら親方がどこぞかで、黒のベンツのレンタカー借りて来ましてな。『これ乗って里へ帰って来い!死んだ爺さんに、ええとこと、男気見せたらんかい』って。今思うとええ親方でしたわ」。

祖父が遺した大入道せんべいを、来る日も来る日も父と共に焼き続けた。

平成11年知人の紹介で、鈴鹿市から悦子さんを妻に迎え、やがて一男二女が誕生。

 78年続く郷土の味、大入道せんべいは、今も祖父の代と変わらぬ配合と作り方が続く。

まず卵、砂糖、蜂蜜、バター、小麦粉、膨張剤を配合しミキサーで捏ねる。

次に生地を鉄板に敷き、その上から鉄板を被せて挟み、両面がこんがりするまで焼く。

焼き上がったところで、大入道の絵の焼き鏝で焼印を入れれば完成。

「簡単なようですが、季節によって寒暖も湿気もちごてきます。せやでその都度、配合も微妙に変えやんと」。 

盆暮れの無沙汰を侘びる手土産は、今も変わらぬ大入道。

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投稿者: okadaminoru

1957年名古屋市生まれ。名古屋在住。 岐阜県飛騨市観光プロモーション大使、しがない物書き、時代遅れのシンガーソングライター。趣味は、冷蔵庫の残り物で編み出す、究極のエコ「残り物クッキング」。 <著書> 「カカポのてがみ(毎日新聞社刊)」「百人の天職一芸(風媒社刊)」「東海の天職一芸(ゆいぽおと刊)」「東海の天職一芸2(ゆいぽおと刊)」「東海の天職一芸3(ゆいぽおと刊)」「長良川鉄道ゆるり旅(ゆいぽおと刊)」

「「天職一芸~あの日のPoem 428」」への10件のフィードバック

  1. 未だ食べた事はないですが一度食べてみたいですね。お煎餅は好きで堅いのから柔らかいのまで好きやな(*^-^)
    入道くんは四日市のご当地キャラのお父さんだとか\(^-^)/

    1. ぼくはどっちかって言うと、ちょっと湿気ってグニャリとした煎餅が大好きですが、それってヘン?

  2. 大入道せんべ
    以前「ウドちゃんの○○ゴメン」でやってた気がする。
    確か?商店街に大入道にオブジェがあって
    ウドちゃんが感激していた!
    四日市、行った事がありませんけど
    コンビナート夜景ツアーへ一度行きたいと思います。

    1. けっこうコンビナートのクルージングをしたいって方って、いらっしゃるものですねぇ。

  3. 一箱に1個入っているのかしら、大入道。欲しい⤴️欲しい⤴️この大入道が欲しい⤴️って言ったらお煎餅に失礼かしら。

    1. あらら、そっちですかぁ!
      あの泣く子も黙りそうな大入道がお気に召しましたかぁ!

  4. このお煎餅は もしかして クッキーのような風味なの?
    ほのかに甘くて 少しだけ柔らかいって感じかな。
    好きなタイプかも( ◠‿◠ )
    でも 超大型の大入道は…
    実際に見たら 夢に出てきそう(泣笑)

    1. お煎餅自体は、極めて普通に美味しいお煎餅でしたが、なによりあの異様さを誇る大入道にゃあ、ちょっとたじろいじゃいますよねぇ。

  5. I wanted to thank you for this fantastic read!! I definitely enjoyed every little bit of it.
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