「天職一芸~あの日のPoem 423」

今日の「天職人」は、愛知県豊橋市駅前大通の「立呑み酒屋女将」。(平成23年6月25日毎日新聞掲載)

朝陽眩い夜勤開け せめて非番の(つき)(ずえ)は             ちょいと寄り道立呑み屋 人目忍んで縄暖簾           煮物摘んでコップ酒 赤ら顔した馴染み客            小皿叩いちゃ与太話 お国訛りの里自慢

愛知県豊橋市の駅前大通。昭和23(1948)年創業の「立呑みあさひ」。二代目女将の斉藤久代さんを訪ねた。

豊橋市駅前大通では、オフィス街からサラリーマンやOLが吐き出され、ランチへと足早に行き交う。

その一角、昭和の風情を遺す、旭屋(あさひや)酒店と隣り合わせる「立呑みあさひ」。

まだ昼前だと言うのに、馴染み客が一人二人と暖簾を潜る。

「私が嫁に来た昭和も半ばの頃は、朝7時になるとシャッター開けとったじゃんね。もう8時前には、夜勤明けのタクシーの運転手さんやら国鉄さん、それにお巡りさんらで、よう賑わっただ。まあ今は午前11時からだけど」。

「昭和2年に義父が酒屋を始めて。まだそんな頃は、どこの酒屋でも一杯売りの立呑みもしとったらあ。それこそ味噌舐めて摘みにして。それで戦争が終わってから、義母が酒屋の片隅を仕切って、ちょっとした手料理を肴にこの立呑みを始めただ」。

久代さんは昭和13年、田原市で5人兄妹の次女として誕生。

高校を出ると洋裁学校へ。

昭和35年、見合いで(かず)(なり)さんの元へと嫁入り。

馴れ初めはと問うと「どやったろう?主人に言わせりゃ『俺が貰ってやっただ』だし、こっちは『わしが来てやっただ』らあ」。

やがて一男二女を授かった。

明治気質の舅姑と子どもらの世話、そして夫の家業を手伝いながら、立呑み屋の切り盛りに明け暮れる毎日。

「元々人が好きだったもんで、全然苦にならんじゃった。話し上手の常連さんらに、ついつい乗せられちゃうだあ」。

天性の聞き上手に、更に磨きがかかった。

「おばちゃ~ん。白半に(ちち)一、それと天ぷらね」。

40代ほどだろうか?

二人連れの女性客が、慣れた調子で注文を通した。

「白半、乳一か?白はレモンサワーのこと。半は焼酎100mlで、一が200ml。乳は牛乳割りのことじゃんね」。

店内の造りは、昭和23年の開業当時そのまま。

「この辺りは空襲で丸焼けだったじゃん。だもんで義母の在所の鳳来町から、材木運んで建てただに」。

半世紀以上の人いきれと、紫煙が滲み込んだ、赤茶けたカウンターと、ボックスの止まり木。

もちろん椅子など一脚も見当たらぬ。

およそ20人ほどが屯ろう、大人の秘密基地さながらだ。

「昔からのお馴染みさんも、今は年金生活者。『夕方の忙しい時に来ると、年金払っとる人に悪いで』って、最近は昼間のうちに来てくれるじゃんね」。

昔は女性が尻込みした立呑み。

ところが今では逆に、20代の若い女性が、オヤジ文化を愉しむと言う。

下は20代から、85歳の隠居まで。

老若男女が愛し続ける立呑みあさひ。

立呑みには酒呑みの、哲学と矜持もある。

「縁あって止まり木に隣り合わせたら、愉しく酒酌み交わさんとかん。無粋な肩書きひけらかすなんて、以ての外だらあ。看板も肩書きも、重たい鎧なんか外して、さあ心を裸にして一杯やってきん」。

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投稿者: okadaminoru

1957年名古屋市生まれ。名古屋在住。 岐阜県飛騨市観光プロモーション大使、しがない物書き、時代遅れのシンガーソングライター。趣味は、冷蔵庫の残り物で編み出す、究極のエコ「残り物クッキング」。 <著書> 「カカポのてがみ(毎日新聞社刊)」「百人の天職一芸(風媒社刊)」「東海の天職一芸(ゆいぽおと刊)」「東海の天職一芸2(ゆいぽおと刊)」「東海の天職一芸3(ゆいぽおと刊)」「長良川鉄道ゆるり旅(ゆいぽおと刊)」

「「天職一芸~あの日のPoem 423」」への8件のフィードバック

  1. 知ってる知ってる、行った事ある、って 呑みに行った訳じゃありませんよ。子供の頃、母に連れられて酒屋さんへ。その片隅で、立呑みしているおっちゃんたちを見かけ、母に「なに?」って聞いちゃった(^o^)

    1. ぼくの中学の同級生のお酒屋さんも、レジで立ち飲みやってましたもの!

  2. 立ち呑み
    「オヤジ取り敢えずビール一本ねぇ!あと枝豆と冷奴」
    なんて事を言いたい、そんな憧れはあるねぇ⤴
    今はコロナの影響で居酒屋さん等!大変!
    皆さん「自粛!自粛!」って
    もうイヤになるけど我慢しょうねぇ!
    いつか?オカダさんのライブ♫でヤイノヤイノと盛り上がりましょう⤴
    イェ~~イ♬

    1. そうだよねぇ!
      こんなぼくたって、外呑みしたのっていつだったか?
      みんなでマスク外していつの日か、死ぬまでにもう一度!

  3. 蛇の目の盃 テンション上がる〜 
    (◍•ᴗ•◍)❤
    利き酒して周りた〜い  ☆☆☆

    今夜もひとり 冷酒で晩酌中 ♥
    先ずは 三重県産の焼き海苔と菊芋の味噌漬け (✷‿✷)  
    岐阜県産枝豆は 1ネット ¥400 
    まだまだ パクパク食べれませんね (+_+) 

    以前 おかげ横丁で ゆで卵をツマミにお酒を呑んでいる殿方達と遭遇した事がありますが、オカダさんも見かけた事 ありますか?

    あさひさんのメニュー スゴイ !!

    柿の種、韓国のり、鎌倉ハムKウインナー   、ベビーチーズ、梅干し、
    待たなくてイイの ( ◜‿◝ )♡
    なんて優しい店主  (. ❛ ᴗ ❛.) 

    1. さすがにおかげ横丁のゆで卵を肴にのんでるオッチャンは見かけたことありませんねぇ。
      でも立ち呑みにゃあ、庶民的な肴が一番ですものね。

  4. いいなぁ〜 立呑み。
    美味しいお酒や手料理を味わいながら 隣の人とちょっと袖が触れ合ったりして。
    私も家呑みばっかり。
    家が小料理屋と化してます(笑)
    いつかまた外呑み出来ますように( ◠‿◠ )

    1. 立ち呑みのあの距離感が、ぼくも何となく好きです。
      あのゆる~い感じが!
      ぼくもコロナが鎮静化したら、立ち呑みアサヒと、近江の近江ホルモンの店を訪ねたいと思っています。

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