「天職一芸~あの日のPoem 413」

今日の「天職人」は、三重県名張市赤目町の「へこきまんじゅう職人」。(平成23年4月9日毎日新聞掲載)

行者滝から銚子滝 赤目五瀑の修行道              (さや)けし森の曼荼羅に 心(あろ)うて香落渓(こおちだに)              穢れ落として一休み へこきまんじゅう舌鼓           往きに食せばたちどころ 腑に屁が湧きて立ち往生

三重県名張市赤目町のたまきや。2代目女将の玉置弘美さんを訪ねた。

新緑に覆われた赤目渓谷。

行者滝へと続く入り口の店先に、「へこきまんじゅう」の看板。

こんなものを目にすると、もはや滝巡りどころではない。

「中身がサツマイモやで、せやったら『へこきまんじゅうやろ』って、主人が名前付けて。そしたらこれがまた、お通じがようなって便秘にええって、女性の方にえらい評判で」。弘美さんが、へこきまんじゅうを差し出した。

何ともほっこりとした舌触りに、サツマイモ自体のやさしげな甘味。

あっという間に平らげてしまった。

「形は違うけど、餡の無い大判焼みたいですやろ」。

なるほどうまい表現だ。

形は長さ12センチ、幅7センチ、縁の厚さは2センチほどでも、真ん中が3センチほどにこんもり膨らんだ長方形で、愛嬌のある忍者が模られている。

弘美さんは昭和37(1962)年に、兼業農家の長女として誕生。

高校へ上がると柔道部のマネージャーに。

同じ道場を利用する剣道部のキャプテンと目が合うたび、思春期の心が微かに揺れた。

卒業後は、名古屋の専門学校で学び、19歳の年に地元の印刷会社へ入社。

それから4年年後、見合い話が持ち上がった。

「何とお相手が、高校の剣道部のキャプテン」。

半年後に武史さんと結ばれ、やがて2女を授かった。

「もともと主人の両親が、伊賀で最初の民宿しとって。平成になってホテルに建替えて私らに譲り、義母は土産物並べてうどん売ったりしとったんさ。ところが土産も年々売れやんようになって」。

何か起死回生の手立てはないかと、たどり着いたのが忍者型した大判焼。

「せやけど、売れるのは秋だけなんさ」。

鋳型で特注した大きな焼台だけが残された。

「この焼台使って、違うもの焼いたらどないやろ」。

それがサツマイモをふんだんに使った、へこきまんじゅうの誕生だった。

「試作したらえらい好評で」。

1週間後に店頭に並べ販売を開始。

「『名前はなとしょ?』となって、主人が『せやったらへこきでええぞ』って。その場で紙にへこきまんじゅうって書いて貼り出したんさ」。

すると我も我もと飛ぶような売れ行きに。

平成15年のことだった。

今では全国各地のデパートから、実演販売の声が掛かる人気振りだ。

へこきまんじゅう作りは、赤目近郊のサツマイモの皮剥きから。

それを輪切りにして蒸し上げ、生クリーム、卵、砂糖、シナモン、塩、小麦粉を混ぜ合わせ、ミキサーで攪拌。

後は忍者の鋳型に流し込み、2~3分焼き上げれば出来上がり。

「どこも不景気で沈んどった時に、このへこきのお陰で、皆が元気になってな。何や赤目の神さんが『これしなさい』ってゆうてくれたようで」。

誰より郷土を愛する弘子さんは、忍者型のへこきまんじゅうを携え、全国各地を飛び回る。

名所赤目四十八滝を、知らしむる伝道師さながらに。

このブログのコメント欄には、皆様に開示しても良いコメントをドンドンご掲示いただき、またその他のメッセージにつきましては、minoruokadahitoristudio@gmail.comへメールをいただければ幸いです。

投稿者: okadaminoru

1957年名古屋市生まれ。名古屋在住。 岐阜県飛騨市観光プロモーション大使、しがない物書き、時代遅れのシンガーソングライター。趣味は、冷蔵庫の残り物で編み出す、究極のエコ「残り物クッキング」。 <著書> 「カカポのてがみ(毎日新聞社刊)」「百人の天職一芸(風媒社刊)」「東海の天職一芸(ゆいぽおと刊)」「東海の天職一芸2(ゆいぽおと刊)」「東海の天職一芸3(ゆいぽおと刊)」「長良川鉄道ゆるり旅(ゆいぽおと刊)」

「「天職一芸~あの日のPoem 413」」への12件のフィードバック

  1. 「天職一芸〜あの日のpoem 413」もう まいりました。ですね。
    食べてみたくなります。

    新緑の季節をもう少し楽しみたいですね。

    1. これがまた、芋栗南京が苦手なぼくでも、ペロリと平らげられちゃいました。

  2. キャッ!! 注文する時、どうしましょう。そうか「これ下さい。」でいいのかぁ⤴️でも、絶対笑っちゃう(*^^*)

    1. 駄目です!
      ちゃんと商品名を正々堂々と笑いながら言ってこその、へこきまんじゅうなんですから(笑)

  3. これ!美味しそ~ぉ⤴
    商品名がイイねぇ!「へこきまんじゅう」
    これななら、メタボにも安心!カロリーゼロ!
    だって、オナラと一緒に高カロリーがフッ飛んで行くでしょう!
    そう言えば「ワクチン接種券」が届いた!
    やっぱ、私は66歳の高齢者でした。
    あ~~ぁ⤵

    1. 美味しかったよ!へこきまんじう!
      ワクチン早く打てるといいですねぇ。

  4. え〰〰 へ◯きまんじゅう?? 
    なんてスゴいネーミング (⊃。•́‿•̀。)⊃
    でも 自然の甘さ とっても美味しそう

    勇気を持って『 へこきまんじゅうくださいな 』って 言ってみたいですね 
     ( ꈍᴗꈍ)

    名張は【而今 じこん】とゆう お酒が 美味しいんですよね (◍•ᴗ•◍)❤ 

    落武者殿 ワクチンですか〜 

    私も早く2回接種して ピカピカの1年生と年少さんに会いに行きたいよ〜 ❣️ 

    1. へぇ~っ、地酒の而今ですか、知りませんでしたねぇ。
      その土地土地に銘酒ありですねぇ。

  5. 生地も中身もぎっしりなんですね。
    それに 生地も中身もシンプルだけど 実は 物凄く凝ってる。パッケージも。
    『 名前で笑って 食べて満足』
    このキャッチコピーも素敵 ( ◠‿◠ )
    今のコロナ禍 特に必要な気がします。
    「へこきまんじゅう下さ〜い」って 大声で子供のような言い方で注文しよ〜っと!(笑)

    1. 赤目四十八滝見学の折には、片手にへこきまんじゅう、片手にキリン一番搾り?
      こりゃあちょっと似合わないか!
      でもぼくなら平気です!

夢ちゃん へ返信する コメントをキャンセル

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です