「天職一芸~あの日のPoem 412」

今日の「天職人」は、岐阜県関市下之保の「玉味噌職人」。(平成23年4月2日毎日新聞掲載)

権現山の山裾で 春告げ鳥が歌い出しゃ             軒の玉味噌縄暖簾 母が解いて仕舞い込む            縄を外した玉味噌は 飴色焼けのお数珠玉            桶の秘伝のタレに浸け 冬が来るまで一眠り

岐阜県関市下之保で、この地に伝わる玉味噌を作り続ける丹羽益子さんを訪ねた。

「まあ、とにかくいっぺん食べてみんさい。食べたことない人は、真っ黒なドーナツ見たいやでびっくりするやろが。でもこうして、玉味噌を崩しながらネギと鰹節を混ぜ、ちょっとお醤油垂らすんやて。それを炊き立てご飯に載せたら、素朴で懐かしい味がするに」。

「私ら子どもの頃は、正月が終わると、近所のもんらが皆して大釜で大豆炊いて、温かい内に丸め藁縄に通し、囲炉裏の上で乾燥させたもんや。そして5月15日のオンゾカイモチの日に、塩水に漬け込んで皆しておはぎをいただいて。ここらじゃ麦ご飯に、玉味噌載せておかずにしたり、味噌汁作ったり。それでもちゃんと()()(大きく)なったでな」。

益子さんは昭和17(1942)年に、5人姉妹の長女として誕生。

中学を出ると、同県可児市の修練農場に寄宿し、1年間農業を学んだ。

翌年、武儀高校の別科へ進学。

「まあ、洋裁や和裁を習って、2年間の花嫁修業やわ」。

18歳で農協の事務職に。

4年後、職場に一人の男性職員が採用された。

やがて益子さんの夫となる鉄夫さんだ。

「私はぜんぜん気が付かんかったのに、いつの間にか上司が主人に、『婿入りどうや?』と世話焼いとったみたい。主人は次男坊やったで、『他の土地へ養子にやってはどもならん』と」。

周りの計らいでトントン拍子に婚儀も整った。

昭和41年、鉄夫さんが婿入りし、やがて一男一女が誕生。

昭和半ばの高度経済成長で、静かな山里の暮らしも一変。

この地特有の玉味噌も、次第に作り手が減少した。

「そりゃあ手間かけて玉味噌造るより、スーパーで買った方が遥かに安いし、誰れの口にも合うように出来とる。そんでも玉味噌は、野良仕事に持って行くと、これがまた旨いんやて」。

平成7年、近くに道の駅が誕生。

「月に2回、朝一に玉味噌出すと、これがまたよう売れて。その都度母に『造っとくんさい』と頼み込んで」。

2年後、味噌醸造の許可を得、益子さんの本格的な玉味噌造りが始まった。

この地に伝わる玉味噌造りは、正月開けに関市武儀地区の大豆を水に浸す作業から。

そして薪で8時間ほど蒸し上げ、臼で搗いて擂り潰し、丸めて中央にドーナツ状の穴を開ける。

翌日藁縄に通し、タカキビの殻で止め、縄暖簾状に8個ずつ吊り下げ、3月末まで陰干しへ。

4月になると乾燥した玉味噌をザッと洗い、醤油と米糀を入れた桶に漬け込み、12月の出荷まで寝かせる。

「昔は塩味だけやったに。今は食べやすいようにと、醤油と糀で味付けて」。

味噌のようだが味噌でもない、それが武儀の玉味噌。

素朴な味わいに、鰹の旨味とネギが絡まり、飯の甘みを引き立てる。

「お代わり!」と、ついつい茶碗を差し出した。

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投稿者: okadaminoru

1957年名古屋市生まれ。名古屋在住。 岐阜県飛騨市観光プロモーション大使、しがない物書き、時代遅れのシンガーソングライター。趣味は、冷蔵庫の残り物で編み出す、究極のエコ「残り物クッキング」。 <著書> 「カカポのてがみ(毎日新聞社刊)」「百人の天職一芸(風媒社刊)」「東海の天職一芸(ゆいぽおと刊)」「東海の天職一芸2(ゆいぽおと刊)」「東海の天職一芸3(ゆいぽおと刊)」「長良川鉄道ゆるり旅(ゆいぽおと刊)」

「「天職一芸~あの日のPoem 412」」への9件のフィードバック

  1. 話変わって、すみません!
    今日25日、イオンへ月に一度のマッサージに行って来たんですが
    自粛ムードなんてもんではありません!
    ヒト・ヒト・ヒト・全く自粛なんて無関係!
    そう言う私も出かけたんですが、イカンね~ぇ⤴
    オカダさんのように「おにぎり」持って
    公園へ行きサブレーちゃんとたわむれていた方が罪はありませんねぇ!
    こんな風では以前のような生活に戻る事は・・・?
    自分は大丈夫!なんて事を思わないように⤴
    今日は深く反省の日曜日でした。

    1. マッサージなんて羨ましい!
      でも自分の体の老化には、それなりにメンテナンスしてあげにゃあなりませんものねぇ。
      良かったじゃないですか!
      確かにどこもかしこも、コロナなんてどこ吹く風?って感じで、ちょっと去年よりも恐ろしいものです。

  2. ほんと人が多いわ
    完全に………
    ッていいながら
    わたしも外出してますが…
    あっ、マッサージと言えば
    ノリで
    シックスパット買ってしまった…

    で、玉味噌ッて
    それを入れると即席味噌汁できるの

  3. 「天職一芸〜あの日のpoem 412」
    「玉味噌職人」
    なんとも可愛らしいですね。食欲のない時にもこれならご飯が進みそうです。

  4. 想像だけど 玉味噌って 割と濃いめの味?
    切った厚揚げの上に崩した玉味噌をのせ その上にとろけるチーズをかけて焼くと めっちゃ美味しい気がするなぁ〜。
    納豆と合わせても美味しいかも⁈( ◠‿◠ )

    1. 玉味噌自体は、塩っ辛さも天日干しで抜けてしまった感じです。
      だからお湯で戻して味噌の香を楽しみつつ、お醤油でお好みの味に調えるようです。
      仰る通りチースとも相性よさそうです。

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