「天職一芸~あの日のPoem 395」

今日の「天職人」は、岐阜市美殿町の「天カレーうどん職人」。(平成22年11月13日毎日新聞掲載)

美殿花街宵の口 行き交う人は襟を立て            「お~寒寒」と足早に 暖簾潜って「天カレー!」                  「カレーうどんに天ぷらと 誰が最初に言ったやら        わしもわしもとせがまれて 何時しか店の名物や」

 岐阜市美殿町、手打ちのごと。二代目主の鈴木康司さんを訪ねた。

「岐阜の天カレーうどんを知らんとは、そりゃ潜りや」。

知人にからかわれ、その店を訪ね天カレーうどんを所望した。

すると「明後日休みやに、新聞が天カレーの取材に来るんやと」と、主が仲居につぶやいた。

「そりゃええがね、宣伝になって。なに新聞?」と仲居。

「毎日の天職一芸ゆう、その道一筋のわしみたいなもんの取材らしいわ」。

「ほな天カレー食べさせたるんやろ」。

「でも休やでなあ」。

「なら取材とは別の日に、きっと食べに見えるんやわ。だって食べな書けんやろ。はいっ、お待たせ。天カレーね」。

何と間の悪いことだ。

今さら名乗れはしない。

何はともあれ、天カレーうどんに挑むことに。

大振りの丼には、長さ23㌢もある特大の海老天が1尾、中央に横たわっている。

ルーに浸し一口頬張った。

どうせ衣の嵩上げかと齧り付くと、端しまで身が詰まっているではないか。

一見、カレーと天麩羅に違和感を覚えたが、どっこいこいつが病み付きになる味だ。

カレーと天ぷらうどんが、一度で二度味わえるから堪らない。

2日後、改めて取材に出向き、特大の海老天について尋ねた。

「仕入れした中の、一番大きな海老に合わすで、小さいと2匹分を繋いどるんやて」。康司さんが種明かし。

「あんた一昨日(おととい)、そこへ座っとった人か」。

冒頭の件を語ると、何とも罰が悪そうに笑った。

康司さんは昭和18(1943)年、愛知県大治町で3男坊として誕生。

中学を出ると、名古屋の公設市場のうどん屋で修業に就いた。

翌昭和34年、名古屋駅前の田毎に移り、本格的な修業へ。

「駅前の田毎は、旅館や寿司屋に料亭と、手広う商っとったんやて」。

2年後、栄のうどん屋へ。

ところが昭和40年、店の立ち退きで職を失った。

「ちょうどその頃、ここで田毎を開業するでって誘ってまって」。岐阜での寮生活が始まった。

「たった10坪の店に、職人と仲居で10人以上もおったんやで」。

昼から夜中まで、客足が引かなかった。

昭和43年、近くの喫茶店で勤めていた、文子さん(享年60)に惚れ抜き結婚。

二男を授かった。

「朝昼晩と、コーヒー浸けやわ」。

平成14年、先代の引退を受け主となった。

柳ヶ瀬美殿町名物の、天カレーうどんの決め手は、鰹、室鯵、鯖節を長時間煮詰めた出汁と、徳大の海老天。

注文が入ると玉ねぎ、ネギ、かしわの角切り、蒲鉾を出汁で煮てカレー粉を加える。

そして一煮立ちしたら、水溶き片栗粉で餡に。

次にうどん玉を釜揚げし、丼に移して海老天を載せ、カレー餡を掛ければ出来上がり。

「20年ほど前に、お客さんが『カレーに海老天載せてくれ』って。そしたら、他のもんまでわしもわしもって。品書きに無い物は出せません、なんて偉そうな事いわんと、お客さんの好みに合わせるのが職人やて」。

客の我侭から生まれた、庶民好みの名物天カレー。

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投稿者: okadaminoru

1957年名古屋市生まれ。名古屋在住。 岐阜県飛騨市観光プロモーション大使、しがない物書き、時代遅れのシンガーソングライター。趣味は、冷蔵庫の残り物で編み出す、究極のエコ「残り物クッキング」。 <著書> 「カカポのてがみ(毎日新聞社刊)」「百人の天職一芸(風媒社刊)」「東海の天職一芸(ゆいぽおと刊)」「東海の天職一芸2(ゆいぽおと刊)」「東海の天職一芸3(ゆいぽおと刊)」「長良川鉄道ゆるり旅(ゆいぽおと刊)」

「「天職一芸~あの日のPoem 395」」への16件のフィードバック

  1. うどんのお汁が飲みたいので、今までに一度もカレーうどんを注文をした事が無いかも。しかし、家でカレーが残ったら『カレー焼きうどん』を作ります。まず、フライパンでキャベツを炒め塩、胡椒をしたらうどんを投入。酒、砂糖、醤油で軽く味を付けたらお皿に移して、温めたカレーを掛けて出来上がり。旨し⤴️

    1. ヘェーッ!『カレー焼きうどん』ですか!
      これまた最高の残り物クッキングじゃあないですか!

  2. 田毎⤴
    うん⤴あったあった!
    でも、お店には入った事がない
    近くに銭湯があったんので・・
    店の前をよく通りました。
    カレーうどん、たまらん!美味そ~う⤴
    こんなに美味しそうなら、銭湯に入らずに
    カレーうどんの出汁に入りたかった!

    1. 天カレーは病みつきになりそうな、庶民の贅沢なおごっつぉでしたよ!
      あの裏路地も、再開発ですっかり陽が差し込んじゃって!

  3. おはようございます
    うまそうな天ぷら
    一度行ってほしいとこあります
    名古屋市烏森駅近く
    佐屋街道沿いにある
    天幸
    ッて言う
    うどん屋?
    表に向けて旨そうな天ぷらが並んでます

    1. それって烏森駅から佐屋街道を尾頭橋方面に向かって、信号一つ越えた右側のお店?

      1. そうそう
        なんか気になるんですわ
        昔からあって
        やたら
        天ぷらがうまそうで…
        まるで作り物みたい

  4.  ❖ 田毎さんね〜 ❖ 
    私も 田毎さんの天ぷらうどんには母との思い出がありますよ (◍•ᴗ•◍)
    歯科矯正をしていた 小学3年から3年間 、治療終わりに母と一緒に食べて帰りました (◍•ᴗ•◍)❤ 

    ご近所のうどん屋さんとは何か?違う!
    とは 多分 わかっていた?? 
    子供だった 〰〰  (◠‿◕)  

    今なら 天カレーうどんかな〜 ❣️

    1. お医者帰りのお駄賃ランチ、素敵ですねぇ!
      きっとお母様も楽しみにされていたことでしょうね。

  5. 潜りやわ〜 私 (笑)
    これまたお初です。” 天カレーうどん”
    海老天も大きいし とろみもかなりあるようで。
    食べ応えありそう( ◠‿◠ )
    ちょっと真似して作ってみようかな⁈

    1. なんせ天婦羅にしてもフライにしても、衣好きのぼくにとっちゃあ楽園天国そのものでしたぁ!

  6. 偶然、当コラムに行き当たりました。今夏、日置江の田毎に行きました。天ころうどんをいただきました。お隣のテーブルでは人々が煮込みうどんを食べておられました。紙製の前掛けをかけて食べておられました。秋本番。鍋焼きうどんが食べたくなりました。

    1. 秋が深まりゆくこの季節、鍋焼きうどんで暖を取りつつ、熱燗でもキュッといきたいものです。

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