「天職一芸~あの日のPoem 376」

今日の「天職人」は、三重県伊勢市常磐の「いばら饅頭職人」。(平成22年7月3日毎日新聞掲載)

母は部類の餡子好き 畑仕事の帰り道              菓子屋の前で品定め おはぎさわ餅柏餅             中でも特に好物の いばら饅頭目がのうて            端午の節句過ぎるのを 今か今かと待ち侘びる

三重県伊勢市常磐、いばら饅頭の島地屋餅店。三代目女将の島地きよさんを訪ねた。

「柏餅が終わると『いばらまだ?いばらまだ?』ゆうてな。端午の節句が終わると、もう待ちきれやんお客さんらが、買いに見えるんやさ」。きよさんは、にっこり笑って表通りを見つめた。

きよさんは同県度会町の農家で、8人姉弟の長女として昭和10(1935)年に誕生。

「あんな頃は、『産めよ増やせ』の時代やったでな」。

農業を手伝いながら高校を出ると、花嫁修業の和裁を学んだ。

昭和31年、21歳で島地家に嫁入り。

一男三女を授かった。

「主人は教員を目指しとったんやけど、18歳の年に義父が亡くなって、家を継がんなんゆうて進学を断念したんやさ。何でもな、義父はえらい酒飲みやってな。戦時中は満足な酒も手に入らんやろ、それで仕方無しにメチルに手出して。せやで今際の際の言葉は『あっ、真っ暗になってしもた』やったとか。周りにおるもんらが、慌ててマッチ擦って見せたそやわ。それから統制が解除されるまでは、干したサツマイモを粉にして、お団子にしたりしてな。闇物資は取り上げられるで、そりゃあもう大変やったらしい」。

いばら饅頭は、元々伊勢地方に伝わる庶民の菓子で、昔は田植えの済んだ野上がりに、各家々で作られた。

「どこの家もなあ、子どもらが山行って、いばらの葉を取って来たもんやさ」。

いばらとは、サルトリイバラの楕円形の葉で、サンキラ(山帰来)の葉とも呼ばれる。

根は、利尿、解熱、解毒に効果がある生薬だ。

いばら饅頭作りは、毎朝5時半からの仕込みに始まる。

まず小麦粉を熱湯で手煉りしながら、砂糖と1つまみの塩を加える。

写真は参考

「砂糖を加えやんと、皮が割れてもうて、水泡が出るんやさ」。

次に自家製の餡を1玉ずつに握り、それを生地で包餡し、塩漬けいばらの葉2枚で挟むように包み、10分間蒸し上げれば完成。

写真は参考

毎朝7時半には店が開き、ほっこり蒸し上がったばかりの、いばら饅頭が店頭に居並ぶ。

毎朝100個前後が製造されるが、残念ながら売り切れ御免の商品である。

「今しは、仕込から製造まで、みんな嫁がしてくれるでな。せやで今日こさえた分だけ、1日かけてボチボチ2人で売らしてもうとんやさ。大量生産する大手とちごて小商いやで」と、きよさん。

「でもなあお義母(かあ)さん『それが安心やでええっ』て、そんなお客さんがおるんやで、ありがたいことやに」。嫁の朗子(あきこ)さんはそう言いながら、冷えた麦茶といばら饅頭を勧めた。

いばらの葉を1枚めくり、無作法にもかぶり付いた。

するといばらの葉が仄かに香り、艶と張りのある皮の向うから、柔らかな餡が口の中にまったりと広がる。

伊勢人の、秋口までのお愉しみ。

市井(しせい)の銘菓、いばら饅頭もう一つ。

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投稿者: okadaminoru

1957年名古屋市生まれ。名古屋在住。 岐阜県飛騨市観光プロモーション大使、しがない物書き、時代遅れのシンガーソングライター。趣味は、冷蔵庫の残り物で編み出す、究極のエコ「残り物クッキング」。 <著書> 「カカポのてがみ(毎日新聞社刊)」「百人の天職一芸(風媒社刊)」「東海の天職一芸(ゆいぽおと刊)」「東海の天職一芸2(ゆいぽおと刊)」「東海の天職一芸3(ゆいぽおと刊)」「長良川鉄道ゆるり旅(ゆいぽおと刊)」

「「天職一芸~あの日のPoem 376」」への7件のフィードバック

  1. 同じように葉っぱで包まれてる桜餅や草餅は一般的で何処でも食べられますが、いばら饅頭はその土地に出向かないと口には出来ない一品なのでしょうね。

  2. いばら餅
    って初めて聞くし、食べた事ない・・
    岐阜には多分出回ってないかも?
    でも、今は「桜餅」だわなぁ~⤴
    オカダさん桜餅をくるんである葉っぱ
    食べる派、食べない派
    あたしゃぁ~食べる派!
    桜餅の餡子と塩漬けした葉っぱとの相性が大人の味だねぇ⤴
    餅と言えば、熟女の皆さんは、若い頃「もち肌」でしたか?
    今でも十分「もち肌」
    そりゃそうだぁ!
    オカミノファミリーの皆さんは、モチモチでした。
    知らんけどぉ!

    1. ぼくも桜餅の葉っぱを美味しくいただいちゃいます。
      年に一度は、やっぱ桜餅を食べなきゃ!

  3. いつでも食べられるのもいいけど その時期にしか食べれない… さらに その食べ物で季節が分かるなんて 素敵ですよね!
    私の母も上下葉っぱで挟んだお饅頭をよく作ってくれました。葉っぱの形が似ています( ◠‿◠ )
    いばら饅頭… 他の葉じゃなくて いばらの葉を使ってるっていうのは 何故なんだろう?
    小さな事が気になってしまう 悪い癖(笑)

    1. いばらの葉には、殺菌作用があるって伺いました。
      確か柏餅の柏の葉も同様に殺菌作用があるそうですが、柏の葉かいばらの葉のどちらかの生育域の違いがあり、柏の葉の代用としていばらの葉を使ったとか、そんな話を耳にした気がいたします。

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