今日の「天職人」は、岐阜県高山市赤保木町の「飛騨の赤巻き職人」。(平成22年4月17日毎日新聞掲載)
膳が並んだ大広間 白無垢姿姉ちゃんが 上座で今日はすまし顔 叔父のめでたに声合わせ 鯛に天麩羅山の幸 どれもご馳走迷い箸 だけど一番好物は 「の」の字赤巻き蒲鉾や
岐阜県高山市赤保木町の坂井かまぼこ店、赤巻き職人の坂井宏司さんを訪ねた。

春の山王祭が終わったばかりの岐阜県高山市。
やっと山々に囲まれた町のあちらこちらで、春らしさが息吹始めた。
町の中心からわずかに外れた、田畑の広がる閑静な一画。
そこに控えめな看板を掲げた、目当ての店はあった。
そっとガラス戸から中をのぞき込む。
天井から回転式の、大きな木製の物干しが吊り下がっている。
なんと洗いたての真っ赤な越中褌が、傍らから扇風機の風にヒラヒラと揺れているではないか?
思わず店を間違えたかと、もう一度看板を見上げた。
「これは赤褌とは違がいますに。『の』の字の赤巻きゆうて、昔から飛騨の人らが食べはる蒲鉾ですんさ」。宏司さんは、左官の鏝のような長細い包丁で、赤い蒲鉾ダネをステンレス製の鏝板に延ばしながら大笑い。

「その赤巻きの赤の方を干して、白と合わせて『の』の字に巻くよに仕込むんやさ」。
傍らの蒸籠から、蒸し上がったばかりの鏝板を母怜子さんは取り上げ、厚さ3ミリほどの赤い蒲鉾を剥がし取り、ビラビラの状態のまま器用に物干しへと吊り下げた。
宏司さんは昭和39(1964)年、2人姉弟の長男として誕生。
高校を出ると、同市にあった蒲鉾屋へ見習い修業に。
「店の跡継ぎがおらんで、やがて店が持てるゆうて」。
平成2年に26歳の若さで独立開業。
主力商品は、北陸から飛騨一円で好まれる「赤巻き」と「白蒲」。
「赤巻き」とは、食紅で着色した赤のすり身に、白のすり身を肉厚に塗り延ばし、それを「の」の字に巻き上げたもの。
一方の「白蒲」は、底板のない無着色の蒲鉾。
いずれも凝固剤や保存料は一切使用されず、噛んだ時にキュッキュッと鳴るあの嫌な音も無く、ふんわりもっちりと心地よい。
飛騨で唯一の「赤巻き」作りは、北海道産のタラの切り身に鰹節、味醂、塩を加え、石臼で磨り潰し、紅白それぞれのすり身にする作業に始まる(赤のすり身には、調味料と共に食紅を加える)。
次は鏝板に赤のすり身を、練り庖丁で3㍉ほどの厚さに塗り延ばし、蒸籠で蒸し上げる。
そして鏝板から赤のすり身を剥ぎ取り、物干しに吊るして冷まし2日間冷蔵。それを3分の1に裁断し、白のすり身を厚さ5㍉に塗り延ばし、「の」の字に巻いて20分蒸し上げれば完成。

「火で軽く炙って、わさび醤油で食べると、これがまた酒とよう合うんやさ」。
宏司さんが左手で盃を煽る真似をした。
「赤巻きが紅白でめでたいで、昔は結婚式の折り詰めに使ってもらえたんさ。でももう今はあかん」。母はこっそり溜め息をついた。
「人様のお祝いばっかり作っとるでか、未だに嫁の来てがおらんのやで。まあはよ嫁貰ってまわんと、私ももう年やでな」。
我が春忘れ、「の」の字一筋20年。
飛騨の赤巻き職人に、季節はずれの春よ来い!
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年末になると普段はお目に掛らない蒲鉾がスーパーに並びます。大きさも違いお値段もこれまた高い。つい奮発して買っちゃいますが あれって何が違うんだろう?
素人のぼくが言うのは僭越ですが、すり身に使っている白身魚によるように思います。
鯛だけの練り物が王様で、近海ものの白身の雑魚を混ぜたものや、輸入品の白身魚や深海魚などを混ぜたものなどによって、自ずと値段の違いが生じているんじゃないでしょうか?
練り物好きにはたまりませんねぇ!
「おでん」なんか大好き⤴
我が家は「みそおでん」「関東風おでん」両方作ってくれます。
オカダさんはどっち派?
私も、練り物の様な男になりたいもんです!
えっ?
練り物ような男とは・・味のある男だよぉ!
家はもっぱら関東煮の方ですねぇ。
でも居酒屋では、あの甘っ辛い味噌おでんやどて煮を注文しちゃいますけどね。
味のある男かぁ!!!
ぼくも落ち武者殿を見習わねば!
そうそう、写真のような中華そばに入っていましたね!でも、赤巻きという名前は初めて知りました。歯応えが良くて美味しくて最後の方に食べていました。
結婚式の折詰も懐かしいですね。確かに紅白の蒲鉾が入ってました。下の段がお赤飯で上の段が、蓋が盛り上がっている、ごっつぉ!でしたね。
もういっぺん食べてみたいなぁ!
もうとんと結婚式の引き出物の折り詰めって見かけませんよねぇ。
それなりに一つ一つに縁起が込められていたのにねぇ。
ナルホド、飛騨の忍者赤影のルーツはこれかあ!
えっ、なんで飛騨の赤巻きが「仮面の忍者赤影」???
もしかして「青影」が鼻の先に親指を当て、片手をジャンケンのパーの状態にして反転させ「大丈夫」というアレのことですか?
謎か深まるなぁ。
どこを切っても「の」の字。
まるで金太郎飴みたい。( ◠‿◠ )
紅白の蒲鉾や松竹梅などの絵柄が入ってる蒲鉾があるわけだから こういう蒲鉾があっても不思議ではないんだけど 私にとって これまたお初の物だから やっぱり不思議(笑)
一瞬 「なると?」 って思ったけど「なると とは 紅白が逆だ!」と 瞬時に頭の中で問いと答えが駆け巡りました(大笑)
お醤油で甘辛く煮ても、飛騨の酒にはよく合いますよ。