「天職一芸~あの日のPoem 254」

今日の「天職人」は、津市美杉町の「郵便配達人」。(平成十九年十月三十日毎日新聞掲載)

月末近い下宿屋で 即席麺を二つ折り          冷や飯混ぜて炊き上げて 朝晩二食餓え凌ぐ       月が替われば軒先で バイクの音に耳澄まし      「書留です」の一声を 首を伸ばして待ち侘びた

津市美杉町の郵便配達人、境光司さんを訪ねた。

写真は参考

「『ええなあ、あんたら郵便屋さんとオマワリさんは。誰からも“さん”付けで呼んで貰えるんやで』って、農協や役場の奴らによう羨ましがられたもんやさ」。光司さんは得意げに笑った。

正式には、郵便事業㈱津支店興津配達センターの外務員だ。

光司さんは農家の長男として、昭和27(1952)年に同町で誕生。

中学卒業を間近に控え両親が離婚。

高校を出ると大阪へと向かい信用金庫に入行。

三年間の寮生活が始まった。

しかし古里に残る年老いた独り暮らしの母が気掛かりで、二十一歳の年に職を辞して帰省。

「半年ほどは母が勤める久居の瓦屋で、二㌧車転がして配達しとったんさ。母親は瓦の営業やさ」。

半年ほどすると、今度は興津郵便局のアルバイトに。

「叔父が勤めとったもんやでさ。『忙しいで手伝(てったい)いに来てくれんか?』『ほな、行きますわあ』ってな調子で」。

22歳の年に興津郵便局の職員補充で国家公務員試験に合格。

「そうは言(ゆ)うても郵便配達はせなかんし、貯金も簡保も何でもせんならんのやさ」。

来る日も来る日も、川上、石名原、杉平、三多気、興津、そして奈良県境の太郎生の混合区約千二百世帯を駆け巡った。

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「四人で一区三百戸を配達すんやで」。

区域内千二百世帯の道順から、どこの誰が何人家族でどうしているかを克明に記憶する毎日。

「そんでもそれは企業秘密やさ。今しは個人情報の守秘義務があるでなおさらやけど」。光司さんは、オートバイのサイドミラーを見つめながら呟いた。

「そんでも昔はのんびりしとったもんやさ。『昼飯用意したるで食べてきい』とか、『お茶飲んで一服してきい』って。中には『餅搗いとるで上がって待っとり』とか、子供が懐いてもうて『オッチャン来てくれたわぁ』ってなもんで」。つくづく昔が懐かしげだ。

毎朝8時15分に津から郵便車が到着。

すぐさま荷降ろし。

次に配達順に区分する「順立て」へ。

そして午前10時には郵便局を出発し、受け持ち地区の巡回配達を終え、午後3時半頃局へと戻る。

その途中午前11時40分には、局に残った者が集まった郵便物を津へと発送するため、郵便車に積み込む「差し立て」作業が待ち受ける。

郵便局の外務員としての勤めも板についた昭和56(1981)年、同町出身の秀代さんを妻に迎え二男をもうけた。

雨の日も風の日も、台風だろうが、郵便配達に休みは無い。

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「40㌢の大雪の日は、鞄を肩に掛けて行ける所まで歩いて配達すんやさ。郵便が届くのんを、心待ちにしてくれとる人がおる以上」。

多い日は二千通とか。

「郵便は翌日配達が基本やで」。

既にこの道33年の郵便配達人は、どこか誇らしげに遠くの山並みを見つめた。

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投稿者: okadaminoru

1957年名古屋市生まれ。名古屋在住。 岐阜県飛騨市観光プロモーション大使、しがない物書き、時代遅れのシンガーソングライター。趣味は、冷蔵庫の残り物で編み出す、究極のエコ「残り物クッキング」。 <著書> 「カカポのてがみ(毎日新聞社刊)」「百人の天職一芸(風媒社刊)」「東海の天職一芸(ゆいぽおと刊)」「東海の天職一芸2(ゆいぽおと刊)」「東海の天職一芸3(ゆいぽおと刊)」「長良川鉄道ゆるり旅(ゆいぽおと刊)」

「「天職一芸~あの日のPoem 254」」への9件のフィードバック

  1. 郵便屋さん 大変お世話になってます。
    時々 夕方以降の配達もお願いしたりしてるので 足を向けて寝られません。
    雨の日も雪の日も…
    当選賞品を届けて頂いた時なんか 玄関先で一緒に喜んでくれて 笑い合ったりしましたよ( ◠‿◠ )

    1. ってことは、切手セットのようなものじゃなくって、もっともっと豪華な賞品でしたね!

  2. 大型な物じゃないけど お米とかお皿セットとか調味料セットとかホットサンドメーカーとか。
    宝くじは なかなか当たらない(笑)
    まずは 買わなきゃ…ですね!

  3. 月に一度の登場、元気にしてますよぉ⤴️
    『天職一芸』のコメントじゃ無くてごめんなさいm(_ _)m
    今日、名古屋駅に行って来たのですが、名鉄百貨店とタカシマヤの、赤福のお店の前は《朔餅(ついたちもち)》を求める人で長蛇の列。何時もながらの光景でした。

  4. 郵便配達さんは、偉いですねぇ!
    雨の日も風の日も配達!
    あたしなんぞ!ヘタレだから・・
    今日は雷が鳴っているから、配達するの止めたぁ~⤴
    きっとそうだと思う!
    まぁ~⤴ヘタレはヘタレだわぁ!
    でも、ヘタレだって、あたしの場合「性格」がイイから⤴
    プラスマイナスゼロ!
    誰も言ってくれないから自分で言う!

    1. いえいえ、ぼくが太鼓判を押させていただきます!!!
      他はともかく、性格はバツグン!
      どう?たまにゃあ良い事言うでしょ!

  5. 今晩は。

    郵便配達員のお話ですね。

    天気,季節問わずに郵便配達員さんにお世話になっています。

    郵便配達員さんお疲れ様です。

    懸賞,市役所等のお知らせ等,配達助かります。有難うございます。

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