今日の「天職人」は、岐阜県美濃加茂市の「釜飯立ち売り人」。(平成十九年七月三日毎日新聞掲載)
発車のベルが急き立てる 釜飯売りも大わらわ 窓越しに君 不安顔 つり銭掴み飛び乗った 蒸気を上げて汽車は出る 野山に汽笛轟かせ 二人一つの釜飯は 割り箸キッスの魅惑付き
岐阜県美濃加茂市で駅弁を製造する向龍館。飛騨路名物、松茸の釜飯をホームで流し売る原口民生さんを訪ねた。

高山線美濃太田駅。
高山へと向かう下りホーム。
「間も無く四番線には、普通列車高山行きが…」。アナウンスが流れ出す。その声と同時に、首から四角い盆を吊り下げ、釜飯の立ち売り人もホームの花道へと繰り出した。
「まだ普通列車やでのんびりしとれるんやけど、特急は一分の停車時間に、大急ぎで積み込まんなんのやで」。民生さんは、駅弁に駆け寄る客を巧みに捌きながら笑った。

「この列車が出たら、あっちのホームへ行ったらんなん。さっき向こうで手振っとったで」。
民生さんは昭和二十三(1948)年、警察官を父に五人兄弟の末子として佐賀県で生まれた。
その後父の転勤に伴い鹿児島で高校を卒業。その足で姉を頼り大阪へ。
新聞配達を続けながら自らの天職探しに明け暮れた。
「あの頃は何にでも興味があったで。デザイン学校行ったり、タレントスクールへ通ってみたり」。その後二十四歳の年に、広告関係の仕事に就いた。
「それから二年後やったかな。広告を取りに行った先の、子供向け百科事典の販売会社から誘われて」。転職し岐阜へ。
それから三年後。二十九歳の年に、今度は別の百科事典の出版社から、販社としての独立を持ち掛けられ美濃加茂市へ。
昭和も終盤に差し掛かかり、子供向け百科事典の売れ行きにも翳りが射し始めていた。
ついに三十六歳で見切りをつけ、潔く販社を畳んだ。
「それからは、工場勤めに向いとらんもんで、何やっても長続きせん」。
線路工夫に土木作業員と、本物の天職を追い求め原口さんは流転を繰り返した。
「その日もちょうど仕事探して、ブラブラ歩いとったんやて。そしたら店の窓に急募の貼り紙があったもんで、そのまんま飛び込んだんやわ」。
駅で釜飯を売り歩く前任者が辞めたばかりで、原口さんはその後任となった。
「もともと客あしらいは上手いほうやったし」。原口さんは四十九歳にして、やっと水の合う職に流れ着いた。
飛騨路名物として名高い松茸の釜飯は、竹の子・松茸・鶏肉・わらび等をご飯に混ぜ、じっくりと炊き上げた薫りたつ逸品。
「高速道路が開通して、今ではお客も三分の一だわ.。みんなバスやマイカーだでねぇ」。
昔は売り子だけでも五人もおり、昼前までに百個を販売する盛況振りだったとか。
「今は多い日でも一日百八十~百九十個がやっと」。
昔ながらの陶器製の釜は、昨年末よりセラミック製に、木蓋もプラスチックに変わり果てた。

「それも時代の流れやろ。昔の陶器製に比べたら、こっちの方が幾分軽てええけど」。
原口さんは茶化しながら、帆布のベルトを首に回した。
「ほんでも常連もおるし。『お~い。兄ちゃん、また来たで。一つ土産にもうとこか』って、関西の方も見えるし。病院の見舞いだとか。ホームでは色んな人生とすれ違うで楽しいわ」。
およそ半世紀を掛け、やっとたどり着いた天職「釜飯の立ち売り」。
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「天職一芸〜あの日のpoem239」
「釜飯立ち売り人」
鉄道を利用していた頃を懐かしく思い出しています。
慌ただしさも伝わり そして匂いまで伝わってきます。しかも一瞬にして…
こんな天気の良い日には ガタンゴトンガタンゴトンと高山線の小旅も良いなぁ〜と思ってしまいますね。
各駅停車のローカル線の旅って、気持ちが優しくなれるようで、ぼくも大好きです。
駅弁大会で、釜飯を買った事があります。食べ終わったあとのお釜を、そのまま捨ててしまうのは忍びないと、使う当ても無いのに取っておいたはず。なのに探してみると見つからず(汗)忘れた頃に、ひょんな所から出てくるんだろうなぁ。
家にもお母ちゃんが釜飯の陶器の釜を勿体ないって持ち帰り、金魚かメダカかオタマジャクシの水槽にしていたものです。
こんにちは。
・釜飯立ち売り人のお話ですね。
・釜飯美味しそうですね。
・私は、実際に釜飯を、買った事が、有りません。
松茸・・もう何年?食べていないでしょうか?
あたしが子供の頃、親父の実家が山県市だったんで
おじいさんが新聞紙にくるんでいっぱい持って来てくれたもんです。
子供だったんで松茸の価値も分からないで食べていました。
うなぎ同様どんどん!
絶滅危惧の品種で食べる事がなくなってくるんでしょうねぇ!
まぁ~⤴世の中にはいっぱい美味しい物があるんで・・!
最近以外に美味しいと思ったのが「日清冷凍焼きそば」
焼きそば好きにはたまらん!
マジで⤴「う・ま・い」値段も安い!
騙されたと思って食べてみて!
でも!「騙された」と怒らないで!
味覚は人それぞれだから・・
そうかあ!
「日清冷凍焼きそば」かあ!
ぼくは3食入りのマルちゃんの焼きそばが無性に食べたくなることがあります。
あの粉末ソースの具の無い焼きそば!
あれをちょっと麺が焦げるくらいに焼いて、それをつまみにプッハァです。
へぇ〜! まだ こういう販売を行なってる駅があるんですね⁈
反対側のホームにも走るとは びっくり。接客術も大切だけど 何より体力勝負なんでしょうね。
おじさんに手を振って ワクワクしながら釜飯を買って 発車と同時に蓋を開ける。
もうたまりませんね〜( ◠‿◠ )
一人日帰り旅しちゃおうかな?
あっ、でももう美濃太田駅の松茸釜飯も、店仕舞いしてしまったようです。
それも時代ってやつでしょうか?