今日の「天職人」は、岐阜市今小町の「化粧品屋」。(平成十九年二月二十七日毎日新聞掲載)
ヨチヨチ歩き七五三 君は晴れ着に紅注して カランコロンと下駄鳴らし 得意満面千歳飴 お宮参りのその後は 帯も曲がって裾開(は)だけ みたらし団子頬張れば 紅もいつしか醤油色
岐阜市今小町、化粧品の白牡丹。店主の白橋政子さんを訪ねた。

鼻をくすぐる甘い香り。入り口を一歩跨げは、そこは女の園。政子さんは、明るい笑顔を惜しげもなく振りまいた。
とても齢(よわい)八十には見えぬ達者な岐阜美人。
「私なんて田舎の娘やで、ボワ~ッとしとるだけ。そりゃあ化粧品や道具は売るほどあるけど、元の土台がこれやで綺麗になるにも限界があるんやて」。再び愛らしい笑顔を広げた。
政子さんは大正十四(1925)年に、同県美濃市で酒屋を営む後藤家の、六人兄姉の末っ子として誕生。
高等女学校から専攻科を卒業し、十九歳で国民小学校の教壇に立った。
それから三年。見合い話が持ち込まれた。
「あんな頃は、男一人に女はトラック一杯の時代やで。好きな人なんて選べませんわ」。たった五分のお見合いで、交わした言葉は一言「コンニチワ」。
実家の父が諭した。
「運命は命を運ぶと書くやろ。自分で運ぶもんや」と。
昭和二十二(1947)年、白橋敏夫さんと結ばれ、三女に恵まれた。
「稲葉神社で結婚式挙げたんやて。でも同じ日に三組も結婚式があって、どれが主人なのかわからへんのやわ。今でも娘に言われます。『何で他の婿さんに付いてかんかったの』って」。
翌年、店を開店。
「まだ配給の時代でした。ちょこちょこっと化粧品や石鹸が入って来ても、あっと言う間の一時間で売り切れ」。
資生堂に当時、権利金三千円を納め、登録番号六番を得た。
「銀座の資生堂まで年二回、美容の勉強会に」。しかしその無理が祟ってか、早産で最初の子を亡くした。

徐々に統制が解除され、戦後の復興も本格化。
「まああの当時は、朝六時に店開けて夜十時まで。休みはたったの元旦一日。娘を背負って店番したもんやわ」。
年に一度の待ちに待った休日となる元旦。決まって朝早くに一人の女性が訪れた。
「歌手の中条清さんのお母さんなの。よりによって元旦の朝やって来て、お遣い物の化粧品や石鹸の詰め合わせを買いに。本当はありがたいんやけど、こっちはやっと訪れた年に一度の公休日やで。それでも邪険にするわけには行きませんでしょう」。政子さんは懐かしそうに笑った。
昭和三十(1955)年代に差し掛かると、化粧品も飛ぶような売れ行きに。
「当時五千円したヘアブラシが、一日で百本売れたんやわ」。昭和四十(1965)~五十(1975)年代がピークとなった。
来年で開店六十年。今では客も二代目三代目に様変わり。
「やたらと暗~い顔して、まるで家出?って格好で入って来て。ご主人と喧嘩したとか、姑とやりあっちゃったとか。色々聞いてあげて宥(なだ)めたり。夕飯でも食べて行きなさいって言うと『あっ、帰ってご飯の仕度せんと』ってすっかり元気になって急いで帰って行くんやて」。
人それぞれに抱えた悩みや憂い。
女は苦悶を化粧で覆い隠し、まるで悩み知らずのような慈悲深い笑みを湛(たた)える。
「『化粧品も買えたけど、お母さんの話し聞けて元気も買った気がするわ』って言われるのが一番嬉しいんやわ」。

八十一歳現役の美容部員は、顔の化粧だけじゃなく、心の奥のくすんだ滲みさえ見事に消し去る。
持ち前の笑顔と人柄という、心の化粧法で。
このブログのコメント欄には、皆様に開示しても良いコメントをドンドンご掲示いただき、またその他のメッセージにつきましては、minoruokadahitoristudio@gmail.comへメールをいただければ幸いです。
おはようございます。
・化粧品屋のお話ですね。
・81歳で現役は、すごいですね。
・私は、化粧品屋(化粧品の専門店)に、行った事が有りません。
ドラッグストアーの中にある化粧品コーナーは、見た事有ります。
・学生の時に、授業で、化粧(メイク)を、受けた事が有りました。
・私は、化粧品を、買った事有りません。化粧していません。
これまた素敵なお仕事ですね!
お客様にお化粧の仕方などを伝える事によって 知らない間にお客様の気持ちをふわ〜っと明るくしてしまうんですから。
お客様自身も気付かなかった自分に出会うことだってあるんですから。
私もお化粧をすることは好きで 未だに試行錯誤しながら 今の年齢の自分と向き合いながら鏡に向かってます(笑)
普段のメーク、マスク直用時のメーク、大切な方に会う時のメークetc。
よく『お化粧することは鎧を着けてる事と同じ』と言いますが 本当にそうだなぁと思います。お化粧をしながら その後の事を考え 気持ちも高まっていく感じ。仕上がった時には「よし!」って。
女性は大変なのだ!
そうですよねぇ。
女性は、口紅やアイシャドー一つで、雰囲気が変わってしまうものなんですものねぇ。
でも鏡と向き合うことは、鏡の中のもう一人の自分と対話できる、貴重なひとときかも知れませんよねぇ。
女性はイイよねぇ~⤴
多少、○細工でも、化粧を駆使して何とか?
なるもんですから・・
注)オカミノファンの美熟女の
皆さんの事ではありませんので・・
男は心意気で○細工もギリギリ何とか?
なるかもしれないけど・・?
我々日本人の男性も化粧する習慣があれば良かったのに!
そうすれば、あたしなんか、後「ズラ」さえあれば何とか?
普通の男で居られただろうに・・・
あー、やめてやめて!
想像するだに、アナオソロシヤ!
いいですね。女性の化粧品。匂いもいいし。美容部員さんの活躍で女性の心理にもプラスの面を与えてあげることができて素晴らしいお仕事だと思います。母親が資生堂の「花椿」という雑誌を愛読していたことを思い出しました。
そりゃあ、何ともお洒落なお母様ですねぇ。
家のお母ちゃんは、頭にタオルの鉢巻きで、化粧するのは年に数回だったように記憶しています。