今日の「天職人」は、岐阜市神田町の「精肉屋」。(平成十八年九月五日毎日新聞掲載)
御節も飽きた三箇日 呑んで食っちゃ寝また飲んで 父は炬燵で高鼾き 母は丹前羽織らせた 鉄鍋ジュッと音立てて 霜降り肉と醤油の香 父は炬燵を抜け出して 早くもビール煽り出す
岐阜市神田町、飛騨牛の岐阜屋。五代目店主の石原達已さんを訪ねた。

「岐阜屋の飛騨牛生レバーは、私のコレステロールを高めた好物で、医者から『食うな!見るな!』って言われた逸品もんなんやって」。友人が自慢げにそう断言。
「それは嬉しい評判です。もっとも飛騨牛の生レバーは、そうそう小売されてませんから。家でも週に二回しか、店頭に並ばない貴重な商品です」。達巳さんは、得意客の評判に満足げ。
元々岐阜屋は、大垣藩士であった初代が、明治初頭に髷を落とし、岐阜市小柳町へと移り住んで牛鍋屋を開業。
やがて明治末期に精肉の小売へと転じた。
達已さんは、昭和二十三(1948)年に岐阜屋の一人息子として誕生。
「二代目以降、養子ばっかで、初めての男子やったんやて。だから小さい頃から、後継ぐもんだと擦り込まれてました」。
名古屋大学経済学部を卒業し、愛知県岡崎市の精肉屋へと修業に。半年後に岐阜屋へと戻り、家業に就いた。
一頭の牛を背割りした半頭分は枝肉と呼ばれ、そこから部位毎に切り落す脱骨作業へ。
さらにすき焼き用やステーキ用にと、用途ごとにスライス。
「昔は馬喰(ばくろう)さんが、産地で牛を買い、生きたまま持ち帰って屠殺場へ。それをバラして、二週間から一ヶ月くらい、白黴が生える頃まで熟成させたもんやて」。
飛騨牛とは、県内で十四ヵ月以上肥育された黒毛和牛を指し、日本食肉格付協会が肉質の等級を定める。
AとかBは、脂の付き具合が薄いとA。厚いものはB。
さらに霜降りの度合が多いものを五等級。四等級から下がるほど、霜降りの度合は少なくなる。
この格付の中でも飛騨牛は、A・Bいずれかで五等級から三等級までを呼ぶ。
「家はいずれも、Aの五か、Bの五しか置いてません」。
創業百年以上を誇る、『飛騨牛の岐阜屋』を名乗る者の誇りにかけて。

「昔はよう高山と岐阜の競りを往復しては、枝肉を仕入れたもんやて」。
岐阜市内にある、県の畜産公社の競りは月曜。高山市では毎週木曜に競りが開かれた。
昭和四十九(1974)年、達已さんは道路を一本南に下った隣町から、同級生の伸子さんを妻に迎え、一男二女に恵まれた。
「友達の友達やったで。結婚するまで女房の実家では、隣町のライバル店の肉屋が贔屓だったんだわ。でも女房が嫁いでからは、家の肉に変わったもんだで、ライバル店から『得意先を奪われた』って、よう嫌味を言われたもんやて」。
ショーケースの向うで、客と対座する妻をこっそり盗み見、達已さんは照れ笑い。
高度経済成長からバブル期へと、高級な飛騨牛は引く手数多(あまた)。
「最盛期の暮れは、一ヵ月で二十頭ほど捌いたろうか。正月のすき焼き用にな。冬場は脂が乗って、肉自体の甘味も増すもんやで」。
しかしバブル崩壊や、O-157にBSE問題と、風評被害の余波を受け売上げも半減。
飛騨牛の生産にも狂いが生じ、ここ二~三年は逆に高騰傾向へ。
「冷蔵庫に何にも無いと、すぐ肉料理やでなぁ」。
妻に悟られぬよう、こっそり声を潜めた。
「一番食べ盛りの時には金が無い。逆に歳いってお金が出来た頃には、量より質で美味しいお肉がちょっとあればよくなるし」。
良質であればあるほどに、肉の水気は少なく、仄かに甘味をまとう、王道を行く飛騨牛。
何はともあれ、特別な日のおご馳走(っつお)だ。
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おはようございます。
・精肉屋の話ですね。
・飛騨牛は、自分のご褒美に買いません。贈答用は、有るかも知れません。
・私は、肉を、買う時は、スーパーで買います。 精肉屋で、買った事が有りません。頻繁に、精肉屋に行く事は、有りません。(用事が有ったら行きます。)
神田町はもとより名鉄岐阜駅から柳ヶ瀬界隈を歩くと目に止まるお店がありますね。以前個性的な喫茶店があって新しい発見だったと満足したことがありました。この店の豚のロースかつを買って家でゆっくり食べたくなりました。路地裏にもかき氷で有名なお店があって街歩きする贅沢な時間を楽しみたくなりました。
そうですよねぇ。
路地裏自体も減ってきちゃいましたが、路地裏には昭和がいまだ息衝いている気がいたします。
この店も老舗中の老舗ですねぇ!
私が子供の頃からあったお店だもんなぁ~
けど、一度も利用した事がありません
小市民の代表と致しまして・・
もっぱら、今ならどれでも3パック980円・・
それで十分です。
そう言えば最近、焼肉屋さんへ行ってないな~ぁ⤴
コロナが収まったら絶対行こう!
その前に「オカダさんのライブ」が先だねぇ⤴
ああっ、ぼくも外食なんてコロナ以来、一度もしてません!
今度焼き肉でも行きましょうか!
コロナがおさまったら!
割り勘で!
って、落ち武者殿がぼくのビール代で、割り勘まけかぁ???
良いお肉に目がいくのは やっぱり年末年始かな〜。
普段は見ないようにしてるし あと 有難いことに我が長男は「お肉」と言いながら 豚もも肉を指差します。鶏肉や牛肉をカゴに入れたとしても「違う!」と言わんとばかりに 豚もも肉のパックを持って来ます(笑) お肉=豚もも肉なんです。次男は 鶏肉好き。
経済的に助かる息子達なんです( ◠‿◠ )
お肉も高いからそれがすべからく何人にとっても最高の美味しい味とは限りませんものね。
ぼくなんて霜降りの立派なお肉だと、ほんの一切れくらいで、もう十分なほどです。まぁ、年が歳だからでしょうか?
でも赤みの牛肉だったら、まだまだ若者にも負けぬほど食べられそうですが!
そう言えばもうトント、焼き肉屋さんにも行ってないなぁ。
コロナの影響もあってか、家食、家呑みばかりです。
あっ、それはコロナに関係なく、昔からどちらかと言うと、家食、家呑み派でしたぁ(苦笑)