今日の「天職人」は、名古屋市千種区の「羅紗(らしゃ)張り職人」(平成十八年七月十八日毎日新聞掲載)。
ビリヤード台横座り 葉巻くゆらす伊達男 点取る女給に目配せて ツバをもたげるハバナ帽 キューを巧みに操れば ハイカラモガが遠巻きに 台を囲んで大歓声 ナインボールのマス割りに
名古屋市千種区で、ビリヤード用品全般を扱う日本玉台本社。ビリヤード台の羅紗張り職人、加藤大一郎さんを訪ねた。

「昔のビリヤードは、呉服屋さんや料亭のご主人とか、旦那衆の粋な遊びだったでねぇ」。
大一郎さんは昭和十八(1943)年、五人姉弟の末子として誕生。
ビリヤード用品の製造から輸出入を手掛ける家業、多くの職人たちに囲まれて子供時代を過した。
昭和三十四(1959)年には、直営のビリヤード場も開業。
大一郎さん十六歳、青春時代が幕を開けようとしていた。
「まだあの頃は、ゲーム取りさんとか、点取りさんと呼ばれる女給さんが沢山おってねぇ。時給よりもチップの方が多い、そんな風俗営業の時代だったで」。
大学の頃から職人の手伝いを始めた。
「しばらくすると、ポール・ニューマン主演の映画『ハスラー』が公開され、ボーリングブームに引っ張られ、全国各地でビリヤードブームも巻き起こったんだわ。だから関東や九州まで、台の設置で出張ばっかり」。
一台四百㌕にも及ぶ台を、分解してトラックに山積みし、全国各地を巡った。
「現地に着いて台を組み立て、水平取ってからいよいよ羅紗張り」。
まず石板(せきばん)の水平を確かめ、台の脚の水平を取り直す。
そしてウール七十%、ナイロン三十%の羅紗布を使用して石板を包むように張り込む。
「この羅紗生地の割合が、一番玉も滑るんだわ。逆にウール百%では、キューの先が当たると破れやすいし、ナイロン五十%だと、今度は玉が滑りすぎるで」。
羅紗の織目が真っ直ぐになるよう、縦目と横目を水平に張り、石板の土台に釘で打ちつけて止める。
石板の多くは、厚さ二十五㍉のブラジル産スレート。
現地ブラジルでの磨き方が荒いと水平は狂い、台の設置時に磨き直すこともしばしば。
「スレートは、湿気を吸っても水平が狂うでね」。
永年の勘だけを頼りに、四方に羅紗を張る力を加減する。

昭和四十二(1967)年、北海道出身で名古屋の短大を出たばかりの弥生さんが、大一郎さんの元へと永久就職。
「姉の旦那と家の主人が友達だったから、それで」。二人は、一男一女を授かった。
しかしオイルショックと共に、一世を風靡したボーリングもビリヤード熱も、アッと言う間に失墜。
それから苦難の時代は十四~十五年も続いた。
昭和六十一(1986)年、映画「ハスラー2」が封切られると、瞬く間に各地にプールバーが出現。
深夜営業も解禁となり、オールナイトで酒を飲みながら、ビリヤードを楽しむ若者等で賑わった。
「ビリヤードは、運動神経と記憶力のスポーツ。玉がどこに当たって跳ね返って、次にどう転がってどこへ当たったか。そんな何十万通りもあるコースと、キューを打ち出す時の力加減。それを身体で覚えんとねぇ」。 大一郎さんがキューの先で、玉を狙う真似をした。幾つかの大会で賞を手中に収めた兵(つわもの)だ。
「七十万円程のビリヤード台を、一台買うくらい練習すれば、少しはモノになるかしら」。妻が傍らで笑った。
ナインボールを順に、ローテーションで入れ込む技を「マス割り」。
完全無欠の技を目指すハスラーの憧れだ。

羅紗張り職人の狂いのない目と勘は、ハスラーが繰り出す玉筋とボールの行方を占う。
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おはようございます。
・羅紗(らしゃ)張り職人のお話ですね。
・羅紗張り職人さんが、見えた事知りませんでした。ブログで、勉強になりました。
・羅紗張りは、ビリヤードの台の皮を張る職人さんだったのですね。
・ビリヤードの台が、しっかりしてないと的が狙えませんね。
・私は、ビリヤードを、した事有りません。
羅紗張りって 張り着ける作業だけじゃなく生地の割合まで神経を張らなきゃいけないんですね。
プロのハスラーには 全てお見通しなのかも⁈
凄い技を見せるハスラーもカッコいいけど 裏方さんもカッコいい!
裏方さんって、表方さんを惹き立てるための、必要不可欠で重要なお仕事ですよね。
羅紗張り職人
そんな職人さんがあったとは・・
知りませんでした。
ビリヤードは奥が深くて頭使うからボケ防止にはイイかも?
でも、あたしみたいなパァ~プリンには難しい!
ギターコードだって中々覚えられないのにねぇ⤴
そうそう、最近さぁ~歳取って、指が硬くなって来たせいか
コード押える指が届かない~~ぃ⤵
あぁ~⤴イヤだイヤだ!
いやいや、まったく!
ぼくも握力用のエキスパンダーが手放せません!って、怠けてほとんどやってませんねぇ。
90年頃、隣町に住む友人がプールバーを開業しました。田舎に似つかわしくないその店は、そんなに長続きはしませんでしたが、何度か行ったものです。当時はトムクルーズ&ポールニューマンの「ハスラーⅡ」が大ヒットした後だったので、こんな僕でも少しはビリヤードをしたものです!
やっぱり若い時分は、映画の影響とか、ダイレクトに受けたものでしたよねぇ。
主人公を気取って!
オカダさん皆さんこんにちは。羅紗張り職人さんのお話・・どの世界にもその道に通じた「職人」がおみえ
なんですね~私も職人の端くれとしてブログを拝見してて関心しっぱなしですわ・・ビリヤード台に横座り
して葉巻を燻らす伊達男・・まるで昔の日活映画の世界ですね宍戸錠とか小林旭あたりがウィスキーのグラスを片手に玉をついてる・・・昭和の世界ですね!
ビリヤードはやっぱり、TVゲームで!なぁ~んてことにはいきませんものねぇ。