「天職一芸~あの日のPoem 37」

今日の「天職人」は、三重県答志島の、「離島医師」。

答志港に汽笛を残し 最終便の船は出る         家並の陰に身を隠し そっと手を振る島乙女       儚い恋の片想い 恋の病は医者要らず          切なさ胸を潰さぬように そっと忍ばす恋忘貝(こいわすれがい)

三重県答志島の離島医師、中村源一(もとかず)さんを訪ねた。

「海女薬はうち独自の調合薬で、目眩(めまい)や頭痛に効き、息が長(なご)なる海女の秘薬なんやさ」。おまけに薬袋に鮑のシールを貼り、大量祈願する念の入れようだ。

*イメージ

中村さんは、この答志島で船舶燃料店を営む家の長男として誕生。高校時代は伊勢市に下宿し、その後上京し医師免許を取得。都立病院に医師として勤務した。

その頃答志島では、島の医師が高齢のため引退し、町は躍起になって中村さんを呼び戻そうと、白羽の矢を放ち続けた。二十八歳になった中村さんは、平成元(1989)年、開業を決意。父の案内で新居を兼ねた病院に着いた。「ここならええやろ。海水浴場も真ん前やし。日当たりも抜群や」。真新しい三階建てのビルを指差し、父は胸を張った。「でも後から聞いたら、親父がぼくの名義で借金こさえて・・・。阿呆らし」。中村さんが苦笑い。

「顔はカルテみたいなもんやでなあ」。中村さんは、道端ですれ違う島人の、わずかな顔色の変化にも気付き、癌を早期に見つけ出したことも一度や二度ではない。また嫁姑問題を持ち込む患者も多い。「ここらあは、家が小さい割に、三世代も四世代も一緒に暮らしよるでな。たまには年寄りの愚痴も聞いたるんやさ。それでスーッと胸のつっかえが取れるんやで」。中村さんの治療は、医学書の領域を超える。それと患者のお婆ちゃんから何度も「先生の写真が欲しい」とせがまれたこともしばしば。「お婆ちゃんらと道ですれ違いますやろ。そうするといきなり手を合わせて拝みよるんですわ」。

中村先生は、病の患者と向き合うだけではない。海に囲まれたこの島の暮らしと、この島に生きるすべての島人を見つめ続ける。それが冒頭の海女薬の発想だ。

病に苦しむ者に触れ、常に穏やかな口調で語り掛ける。柔らかな笑みを白衣に纏う中村先生こそが、島人たちにとっての「医王(いおう)」そのものだ。

*「恋忘貝」は、鮑の別名。

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投稿者: okadaminoru

1957年名古屋市生まれ。名古屋在住。 岐阜県飛騨市観光プロモーション大使、しがない物書き、時代遅れのシンガーソングライター。趣味は、冷蔵庫の残り物で編み出す、究極のエコ「残り物クッキング」。 <著書> 「カカポのてがみ(毎日新聞社刊)」「百人の天職一芸(風媒社刊)」「東海の天職一芸(ゆいぽおと刊)」「東海の天職一芸2(ゆいぽおと刊)」「東海の天職一芸3(ゆいぽおと刊)」「長良川鉄道ゆるり旅(ゆいぽおと刊)」

「「天職一芸~あの日のPoem 37」」への7件のフィードバック

  1. おはようございます。 離島医師のお話ですね。

    ・離島のお医者さん島民の方にはとっても助かりますね。神様見たいな方ですね。(中村さんは、医王(いおう)そのものですね。)

    ・中村さんは、TVで放送していたDr.コトー診療所の主人公見たいなお仕事を、しているのですね。

    ・もし中村さんが、体調不良になったら島民さんが困りますね。お医者さんが居ないの無いのだから。

    ・中村さんは、後からお父さんに借金が、あった事聞いたのですね。
    中村さんのお父さんは、最初に借金が有ると言うと中村さんが、来なくなると思ったのでしょうね。

    ・お医者さんで、離島医師になる方は少ないのでしょうね。交通めんも不便ですね。(交通が限定されるかも知れませんね。)

    ・恋忘貝は鮑の別名だったのですね。知りませんでした。勉強になりました。

  2. ドクターコトー、頭が下がる思いです。 

    私が生まれ育った所は、中央線、名鉄瀬戸瀬、地下鉄、市バス、名鉄バスと交通の便も良く、近くには商店街も有り、とても便利な地域でした。それが当たり前の生活をしてたので、私は田舎暮らしは無理かなぁ。ましてや孤島なんて。
    以前、友だちとウオーキングで行った先がかなり田舎。「この家、大きい!」「この家、新しくて綺麗!」と友だちははしゃいでいましたが、「私は田舎で暮らすのはちょっと無理かなぁ」と言うと「私の実家はもっと田舎なの」と友だちが。「う〜〜!」私は言葉も出ませんでした(-.-;)

    1. 田舎暮らしの達人さんなんて、ちょっと憧れる想いもしますが、やっぱり日々暮らすとなると、ぼくなんかのようなヤワな奴にゃあ、やっぱり無理っぽいですねぇ。

  3. きっと このお医者さんは 内面から滲み出る愛に溢れた方なんでしょうね( ◠‿◠ )
    島の方々は 先生が居てくれるだけで安心だし いつまでも元気でいよう…と思うんじゃないでしょうか。
    先生の顔を見るだけで 話しをするだけで…
    よくわかる気がします。
    今のお医者さんって 患者さんの顔を見ないでパソコンを見ながら喋ってますからね(泣)
    このお医者さんのように寄り添って下さるだけで 心のトゲがなくなり 自分にも優しく そして周りにも優しくなれると思います( ◠‿◠ )

    1. 今のお医者さんは、触診されませんものねぇ。
      ぼくの子供の頃は、三角形のゴムの付いた指揮棒のような物で、膝の窪みの所をトントンって叩かれたものです。
      すると膝下が先生の方へと蹴り上がって!
      「よーし、脚気は大丈夫だな」とか言われて!

  4. 私も田舎暮らしは無理!
    ネオンの灯りが見えないとねぇ!
    うんなぁ~⤴事はありません!
    オカダさんじゃ~あるまいし!
    「恋忘貝」って鮑の別名だったとは
    恋を忘れるほど、美味しいって事!
    だったら、たぁ~べぇ~ない!
    恋ほど、せつなくて、ワクワクウキウキする事ってないと思う!
    皆さん、恋をしようぜぇ~~!

    1. あ~あ、ついにお年甲斐も無く、あの凶暴なウイルスに頭がやられちゃったのでは???
      でも、こーなっちゃ皆でなんとか乗り越えねばなりませんねぇ。

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