今日の「天職人」は、愛知県知立市の「茶碗屋女将」。(平成十九年六月二十六日毎日新聞掲載)
嫁入前の荷造りが 遅々と進まぬそのわけは 別れを惜しむ物ばかり 父母に兄妹泣き笑い 「想い出なんか置いて行け」 やる方もなく父が言う 一つ頷(うなず)き妹は こっそり隠す欠け茶碗
愛知県知立市の恵比寿屋、三代目女将の小久江(おぐえ)好子さんを訪ねた。

旧東海道。
池鯉鮒(ちりゅう/知立)の宿。
黒く色褪せた町屋がわずかに残る。
「『今日の弘法さんは、何頭走ったか?』って言うくらい、昔はこの左馬の茶碗が痛風除けのお土産としてよう売れたって」。好子さんは、店先のご飯茶碗を取り上げた。
「新しい窯に初めて火入れする時、左馬の茶碗を焼いて窯元が縁起物として配ったのが本物。これはそのご利益にあやかろうと真似た茶碗だわ」。
好子さんは岐阜県土岐市の沼田家で、昭和十五(1940)年に誕生。
「陶器処で生まれて、まさか茶碗屋に嫁に来るとは」。
戦後復興が急を告げる中、高校へと進学。
「当時、主人は大学を出たものの就職難で、土岐の製造会社に勤務しとったんやわ。そんな関係からか、私の家庭教師だったんだわ」。
それが縁で結婚を誓い合ったのかと問うてみた。
「ぜ~んぜん!そんな気さらさらあれへん」。
高校卒業後は、タイピストの専門学校へと通い、昭和三十四(1959)年に名古屋の三菱重工へ入社。
「会社の中を歩いとったら、そこでまた主人とピタ~ッと逢って」。
それからはご主人善彦さんの猛攻が続いた。
しかし「電話があっても居留守使って、結納も親に返してくれって頼み込んだほど。まだ若かったし結婚なんて考えられんかったでねぇ。でも赤い糸で繋がっとるかも知れんとは、何となく感じたんやわ」。
店の前に一台の軽トラックが止まり、老人が満面に笑みを浮かべ降りて来た。
「ねぇ、善彦さ~ん。あんた私を浚(さら)いに来たんやったよねぇ」。「そうだよ~っ!」と、照れるでもなく夫。
何とも聞いているのが馬鹿らしいほどの鴛(おしどり)ぶりだ。
「みんな釣った魚に餌やらんって言うけど、この人はボーナスが出るとポーンと渡して、お前の好きなもの買って来いって。私がそんなことよーせんの知っとるもんで」。
昭和三十七(1962)年に結婚し二女を得た。
恵比寿屋の創業は明治初期。

「茶碗屋としては三河地方で一番古いらしいわ。祖父がよく自慢しとったで。それが証拠に、あれが当時のイナイ棒(天秤棒)だわ」。好子さんが天井の梁を指差した。直径五㎝ほどの天秤棒が何本も梁の上に横たわる。
「義父は早朝四時頃から自転車に乗って、瀬戸の作家を巡って買い付けに出掛けとったらしいでねぇ。だで目利きも鋭かったわ。私らはあかん。駄物以外わからへん」。
ご飯茶碗に抹茶茶碗、湯呑に急須や土鍋まで、ありとあらゆる陶器が山積みだ。

「祖父の代からの古い瀬戸物が一杯あるもんで『売ってくれんか』とか、『古瀬戸やけど買うてくれんか』とか、いろんな人が見えるわ。でも『財産無くすで古い物には手を出すな』が義父の遺言やったで、売り買いようせんわ」。
棚の上に居並ぶ狸の置物。
「杖は転ばぬ先の杖。笑顔は厄除け。大福帳は喰いっぱぐれないように。大きな金玉は金運に恵まれるようにって、縁起物の神の化身だわ」。
陶器の産地から三河へと、赤い糸に導かれ早四十五年。
女将の口から澱みの無い売り口上が流れ出た。
このブログのコメント欄には、皆様に開示しても良いコメントをドンドンご掲示いただき、またその他のメッセージにつきましては、minoruokadahitoristudio@gmail.comへメールをいただければ幸いです。
おはようございます。
・茶碗屋女将のお話ですね。
・色々な茶碗,瀬戸物が、ありますね。狸の置物可愛いですね。
・一般のお客さん,業者さんが、買いに来るのかな?
・天井に急須が置いていますね。危ないですね。
あら!恵比寿屋さんだ!
何度か伺った事があります。
「知立」ではなく『 池鯉駙』のほうがピッタリの店構えです。
隙間なく陶器が並んでて ついつい1つ2つ余計に買っちゃうんですよね。
食器を見ながら どんな食材が合うかなぁ〜って考えてみたり 十数秒立ち止まって 料理をのせた場面を想像してみたり(笑)
こういうお店が少なくなってるので 行くと妙に落ち着くんですよ( ◠‿◠ )
とにかく宝箱みたいなお店だから、眺めているだけでも楽しいものですよねぇ。
仰る通り!
所狭しと陶器が・・
それでも収まらない陶器は宙を舞う!
イイ感じ⤴
我が家には、陶器の器、あるっちゃあるけど!
いつも使うものは一緒で・・
まだ!お子ちゃまな、あたしは
プラスチックの器が多いでちゅ~⤴
コップは勿論!プラスチックで100均でちゅ~⤴
まあ、プラスチックだったら、手元がくるって落としたって割れないから、それはそれでいいかも!
でもプラスチック製のエビフライとかにソース掛けちゃだめですよ!