2006.1 毎日新聞 新年別刷②

「名駅摩天楼計画」②

『板場の心意気!』

 「♪包丁い~っ本 晒しに巻いて 旅に出たの~は 板場の修業~♪」。

ガラス戸の向うには、普段お目にかかることさえ出来ない、板さん御用達とも思える庖丁の数々。

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「祖父が戦前に店を構えて、私は三代目の嫁」。

駅前中央市場の一角、丸五庖丁店の田中由美子さん(51)。

「だんだん寂しくなってきたわね。だって今の若い人達って庖丁使わないでしょ!カット野菜とかあるし。100円ショップの庖丁で、十分って思ってる人が多いでしょう」。

名古屋独特と言う、鰻を割く鰻割(うなさく)庖丁を取り出しながら、由美子さんがつぶやいた。

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ショーケースの中では、鱧切(はもぎり)庖丁からうどんやそばを切る庖丁までもが勢揃い。

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蛍光灯の明りを浴び、鈍い光を放っている。

「それ全部、家の工場で打ったオリジナルなの」。

確かに、柄には丸五と焼印で銘が打たれている。

さすがに売りっ放しではなく、砥ぎも修理も手掛ける専門店だ。

「なんだぁこりゃあ?」。

思わず天井から吊下がるクレーンを見上げ、素っ頓狂な声を上げてしまった。

「ああ、それは廻り砥石。(まぐろ)(さば)く時とか、日本刀のように刃の長い庖丁を砥ぐもの。今じゃあ、あんまり使わなくなったけどね」。

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 数少なかったに違いない、母の嫁入り道具。

長い年月で柄が細り、付け根も朽ち欠けた菜切り庖丁。

母はたったそれ一本で、全ての料理をこなした。

「あの庖丁は何処へ」。

もう二度と食べられない、母の剥いたウサギの林檎が、何故か無性に懐かしくて仕方なかった。

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投稿者: okadaminoru

1957年名古屋市生まれ。名古屋在住。 岐阜県飛騨市観光プロモーション大使、しがない物書き、時代遅れのシンガーソングライター。趣味は、冷蔵庫の残り物で編み出す、究極のエコ「残り物クッキング」。 <著書> 「カカポのてがみ(毎日新聞社刊)」「百人の天職一芸(風媒社刊)」「東海の天職一芸(ゆいぽおと刊)」「東海の天職一芸2(ゆいぽおと刊)」「東海の天職一芸3(ゆいぽおと刊)」「長良川鉄道ゆるり旅(ゆいぽおと刊)」

「2006.1 毎日新聞 新年別刷②」への8件のフィードバック

  1. 先日、テレビで
    浅草かっぱ橋 調理器具とか建ち並ぶ
    ある店で、外国人、人気の包丁店
    日本の包丁は見た目が綺麗で切れ味がピカイチだそうで
    料理に使わなくてもショーケースに入れて飾っているそうです。
    日本の職人技は凄いもんです。
    円安もあって日本人だったら買わないような
    高価な包丁を皆さん買い求めていました。

    1. 高山の鍛冶屋さんを取材した20年ほど前。
      鍛冶屋の大将が仰ってました。
      「この果物ナイフのような包丁は、江戸時代の人斬り包丁の慣れの果てや。研いで鍛えて研いで鍛えて、200年ほどしたらこんな小さな庖丁になって、それでも人様のお役に立つんやさ」と。
      とても説得力を感じたものです。

  2. 雪でも降り出しそうな 寒さですね。

    うさぎの紅りんごに元気になります。近くのスーパーで買い求めるりんごが 今年は甘くて美味しいです。

    1. ウサギのリンゴは、きっとどなたにとっても、お母さんの面影が偲ばれるモノなんじゃないでしょうか?
      それにしても寒波到来ですねぇ。

      1. 毎回熱の出る ワクチン接種が近づいているので 熱が出ても大丈夫なように りんごうさぎを
        冷蔵庫に冷やしておきます。

        1. それはとてもいい考えですねーっ。
          5回目のオミクロン対応のワクチンは、侮れない副反応がある方もおいでのようですから、くれぐれもお大事に!

  3. オカダさんのご母堂さまに対する思慕がいたいほど伝わります。りんごのウサギ、懐かしいなぁ。

    1. とっておきの遠足やら運動会の時にしか、お目に掛れなかったりんごウサギちゃんでしたが!

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