「三河wonder紀行⑧」

『香嵐渓の〝かえで路″』

2006.秋 季刊誌掲載

梅雨の恋しい季節は、まるで束の間の逢瀬を弄ぶように、何とも思わせ振り。

突然雲の幕間がギラギラと照りかえり、ラメを全身にまとったマツケンサンバの一団が現れ出でるようだ。

そんな梅雨の中休み。

夏真っ盛りの陽射しが、ベネチアングラスのようにキラキラと透き通る足助川の川面へと、惜しげも無く降り注ぐ。

瀬音が山間から涼を運べば、川面に夏の青葉の影も踊る。

森も木も昆虫も、そしてぼくら人間だって、みんなみんな夏が恋しくてたまらないんだ。

君はサンダルを片手に、裸足のまま川縁の石を渡り、青春映画さながらにおどけて振り向いた。

川面は太陽を照り返す、まるでレフ板のよう。

写真は参考

君が逆光の渦の中へと溶け入った。

カアー カァー カアー

間の抜けたカラスの鳴き声で、淡い想いの幻は粉々に砕け散ってしまった。

「なんてこったぁ~」。

しばし古い街並みを行くと、鄙の菓子屋を発見。

写真は参考

「この『かえで路』は、死んだ亭主が昭和26年に考案しただよ。素朴な風味の白味噌仕立てのカステラで、芥子の実を振って。だもんできっと懐かしい味がするだよ」。

ショーウィンドーの奥から、豊田市足助町の加東家、初代女将の加藤綾子さん(85)が親し気に笑った。

「家のお婆ちゃんとこの『かえで路』は、今やすっかり足助の名物だもんね」。

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傍らから二代目女将の美子さん(54)が顔を覗かせた。

「あんたよかったら、こっちの座敷で食べていきん。お茶入れたげるで」。

店舗の隣には、漆喰壁に遮られた立派なお座敷と、中庭には飛び石が。

「あれっ?何だろう?あの中途半端な床柱は?」。

「江戸時代ここは造り酒屋で、加茂一揆の時に農民に押し入られ、床柱を切り取られたらしいじゃんねぇ」と、綾子さん。

「酒樽全部割られて、庭中酒浸しだったって」と、美子さんが補足。

「実は戦後になってから、ここを買っただけど」。

もはや切り取られたなどと言う、生易しいものではない。

鉈か斧で捥ぎ取られたような凄まじさだ。

それにしてもこの『かえで路』は滅茶うまの絶品!

写真は参考

それほど甘党ではないぼくですら、1本丸ごと恵方巻のように丸かじりできるほど。

香嵐渓の紅葉を愛で、お抹茶を啜りながらいただいたら、この世の物とは想えぬほど至福の時間が味わえるんだろうなぁ。

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投稿者: okadaminoru

1957年名古屋市生まれ。名古屋在住。 岐阜県飛騨市観光プロモーション大使、しがない物書き、時代遅れのシンガーソングライター。趣味は、冷蔵庫の残り物で編み出す、究極のエコ「残り物クッキング」。 <著書> 「カカポのてがみ(毎日新聞社刊)」「百人の天職一芸(風媒社刊)」「東海の天職一芸(ゆいぽおと刊)」「東海の天職一芸2(ゆいぽおと刊)」「東海の天職一芸3(ゆいぽおと刊)」「長良川鉄道ゆるり旅(ゆいぽおと刊)」

「「三河wonder紀行⑧」」への6件のフィードバック

  1. 一度は行きたい「香嵐渓」
    紅葉シーズンに行くとあまりの渋滞で
    途中で引き返して来た❕って友人が話していた。
    まぁ~⤴覚悟を持って行くしかないのか?
    シーズンOFFに行くのが一番かもネェ!
    余談ですが
    オカダさんは車の運転中に音楽を聴く派?聴かない派?
    私は、聴かない派❕
    何故か?って・・
    そりや~~ぁ⤴あなた、特に女性とドライブに行く時は
    自分をイイ奴だとアピールしたいとねぇ❕
    あの人はイイ人なんだけど・・で、
    終わりたくないでしょう❢

    1. ぼくも車の中では、ホトンドラジオも聞きませんねぇ。
      若い頃はBGMは聴いていたものですが・・・。

  2. 紅葉の名所で有名な香嵐渓。毎年訪れるのですが、もみじが真っ赤に色づくと車の渋滞は避けられない。なので色付く前でも『紅葉まつり』が始まったら行きます。我が家はみんな、ウインナーや五平餅がメインの、花より団子家族なンですもん(๑´ڡ`๑)

    1. 花より団子が一番幸せ模様じゃないですか!
      ぼくも香嵐渓の紅葉を一度も愛でたことがありません。
      残念!

  3. 香嵐渓 何度も行きましたよ。
    実家が豊田市なので 本来一時間もかからないけど さすがに紅葉狩りの頃は…。
    紅色に染まった山々を愛でるだけでも 感動します。ライトアップされた景色は もうロマンティック過ぎて 誰か隣にいて〜って思っちゃうほど(笑)
    久し振りに今年ひとりでぶらりと行っちゃおうかなぁ〜( ◠‿◠ )

    1. 紅葉にしても桜にしても、一番の見頃にその場に居合わせられたら、それだけで幸せ感じちゃいますよねぇ。

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