ゆいぽおと「 長良川鉄道ゆるり旅」2011.9.13 ⑪

深戸駅界隈「元台に刻まれし釣師の誉れ『福作』銘~天下の郡上竿」

深戸駅のすぐ南を、長良川が悠然と西から東へと流れる。

写真は参考

何千年、何万年と、何一つ変わらぬ、大自然の営みだけが、ただ淡々と繰り返されているのだ。

「あかんて!そんなへっぴり腰じゃあ!」。

川の流れに合わせ、友釣りの竿を操っていると、背後から突然声がした。

「あんた、友釣り初めてやろ?」。

何と厚かましい不躾な声。

写真は参考

声の主を見定めてやろうと振り返った。

「鮎にはな、鮎の縄張りってもんがあるんやて。そこを狙わんと、ただオトリ鮎を流れに合わせて泳がせとっても、鮎は一向にかかれせん。鮎の縄張りに、新参者のオトリ鮎を放り込んだるで、オトリの鮎を駆逐しようと体当たりしてくんやで。そこを逃さんようにグッと引っ掛けたらんと」。

そう言うと男は川の中へと入り込み、徐に竿を延べた。

するとどうしたことか、川面に銀鱗が跳ね躍り、あっと言う間に友掛けされた鮎が吊り上げられるではないか。

名人はわずかな間に、事も無く3匹を吊り上げた。

写真は参考

すると身を翻し、さっさと河原へと引き上げ、釣竿を仕舞い始める。

ポーン、ポーン、ポーン。

端切れの良い音と共に、7メートルはあろうかと思われる竿の継ぎ手がばらされた。

「カーボン製じゃないんだあ」。

思わずつぶやくと「これはわしが作った、四間もんの郡上竿やさ」と名人。

漆が飴色に輝く郡上竿には、絹糸を巻きつけて描いた、幾何学模様が織り成されている。

写真は参考

「よかったらわしの作業場へ来るか?」。

写真は参考

名人の名は、二代目竿師の福手福雄さん(74)。

写真は参考

釣り好きで鳴らした先代の俵次は、昭和初期、関東の釣客が携えた、組み立て式の竿を真似郡上竿を編み出した。

「ちょうど戦争の影が忍び寄る中、今のように真鍮が手に入らんもんで、継ぎ手には空き缶を巻いて使ったんやて。それでもここらの皆は、『わしもわしも』言うて、空き缶持参で並んどったほどやで」。

先代に劣らず大の釣好きである福雄さんは、中学を出るとすぐ、迷うことなく父と共に竿作りを始めた。

「昔は鮎も値が張って、竿もよう売れたんやて」。

鮎の禁漁期は竿作り。

解禁を待ち侘び、友釣りでもう一稼ぎ。

「まあ、竿作りの準備は、10月初めに竹を切り出し、11月に入ったら大きなトタン板の鍋で、灰入れて竹を煮て油取りをするんやて」。

年の瀬は天日干しに追われ、年が改まったころに竿作りが始まる。

「やっぱり竹選びが肝心やて。はよ出る竹は重いし、遅いと軽なる。枝が3つ出たところで切り出すのが一番やさ。あんまり竹もみあいて(ひねて)まうと、(しな)りが悪なるで」。

材を見抜く、竿師の目は厳しい。

まず四間物の5本継ぎは、「穂先」「穂持ち」「三番」「二番」「元台」と組み、管継ぎを定める。

写真は参考

次に真鍮を何度も火で炙り、真っ直ぐ伸ばして2枚重ねにし、継ぎ手を取り付ける。

そして絹糸を何度も何度も竿に巻き付け、漆で留めて柄を描き出す。

写真は参考

さらに元台には、藤蔓を滑り止めに巻き付ける。

「1本の竿に、900メートルも絹糸巻いたこともあったわ」。

作業場に人が入ると、気が散って糸が緩むため、入り口を締め切ったまま黙々と作業を続ける。

「どうや、これ?」。

福雄さんは、自慢の柄の入った竿を取り出した。

飴色に輝く光沢と、絹巻き模様が絶妙な、竿師の描いた意匠。

そして元台に刻まれた「福作」の銘。

写真は参考

友釣りに魅せられし者の、垂涎の逸品であろう。

しばらく美術品と見紛うほどの、美しさを放つ竿に言葉を失い見入ってしまった。

「そんでも使わな、何にもならん。所詮、魚釣りの道具なんやで」。

福雄さんは何の気負いも無く、あっけらかんと笑った。

今ではカーボン製の竿が主流となり、1年で50本の生産がやっととか。

「そんでも鮎の友釣りには、やっぱり竹竿が一番。でももう跡継ぐもんもおらんで、わしで仕舞いやわ」。

作業場から見下ろす長良川の流れ。

写真は参考

誰よりも長良川と鮎釣を、心から愛し続けた竿師親子二代。

かつて日々の糧を得るための釣道具は、いつしか美術品と呼ばれるほどの美しさを手に入れ、やがて儚く消え入ろうとしている。

郡上釣竿製造フクテ 郡上市美並町三戸

このブログのコメント欄には、皆様に開示しても良いコメントをドンドンご掲示いただき、またその他のメッセージにつきましては、minoruokadahitoristudio@gmail.comへメールをいただければ幸いです。

投稿者: okadaminoru

1957年名古屋市生まれ。名古屋在住。 岐阜県飛騨市観光プロモーション大使、しがない物書き、時代遅れのシンガーソングライター。趣味は、冷蔵庫の残り物で編み出す、究極のエコ「残り物クッキング」。 <著書> 「カカポのてがみ(毎日新聞社刊)」「百人の天職一芸(風媒社刊)」「東海の天職一芸(ゆいぽおと刊)」「東海の天職一芸2(ゆいぽおと刊)」「東海の天職一芸3(ゆいぽおと刊)」「長良川鉄道ゆるり旅(ゆいぽおと刊)」

「ゆいぽおと「 長良川鉄道ゆるり旅」2011.9.13 ⑪」への2件のフィードバック

  1. 釣り竿片手に
    日向ぼっこしながら、竿先を眺めのんびりと
    釣れなくてもそんな一日があってもイイと思う!
    グロテスクなエサはダメだけど疑似餌なら大丈夫
    でもさ~ぁ⤴
    一人で行くのも寂しい・・
    丘釣りだって引き立て役が居ないと
    何だか?シラケるもんねぇ!

    1. 魚釣りは、娘が幼い頃に滋賀県の釣り堀で、マス釣りをしたのが最後ですねーっ。
      そもそも子どもの頃から、苦手な部類でした。
      でも子どもの頃は、父の自転車に二人乗りして、近くの川へ鮒釣りに出掛けたものでした。

ヤマもモ へ返信する コメントをキャンセル

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です