毎日新聞「くりぱる」2004.3.28特集掲載③

素描(スケッチ)漫遊(まんゆう)(たん)

「シュークリームと整理券?」

「美味しいって評判の、シュークリーム屋に行って見ませんか?」。

ナビを務めるY子さんの甘い誘惑にほだされて、歩き疲れた身体に鞭打ちながらも、その店を目指した。

写真は参考

さすがに評判だけあって、店内に人が溢れている。

やっとのことショーケースの前に進み出て、店員から声が掛かるのを待った。

しかし待てど暮らせど、一向に呼ばれる気配がない。

ましてや「いらっしゃいませ」の、お愛想もない。

「○○番の方どうぞ」。

「???」。

ふと銀行のロビーにでもいるのかと、自分の耳を疑った。

しかし鼻先には、相変わらず甘い香りが立ち込めている。

「ハイッ」。

女性客がレシートのような紙切れを差し出した。

相対する店員は、20代前半の今時の娘。

「ご注文の()(ほう)どうぞ」「お後の()(ほう)は、宜しかったでしょうか?」。

「お会計の()(ほう)、失礼します」。

やっぱりこいつは、紛うことなき「ホウホウ星人」に違いない。

もうこの時点でぼくの心から、シュークリームを味わう気持ちなど消え失せてしまった。

店内の客は、何時呼ばれるとも知らず、苛立ち顔。

一方、無愛想なしかめっ面で、淡々と自分の仕事をこなす、バイトのホウホウ星人たち。

何かが狂ってる、そんな気がしてならない。

もう少し観察してやろうと、整理券の発券機とやらを探し出した。

写真は参考

銀行にある、あのぶっきらぼうな機械と同じだ。

「『いらっしゃいませ』さえ、機械に言わせなければならぬほど、客が来て迷惑なのか?」。

ふと、そんな訝しさが芽生えた。

慇懃に下賜付かれるのも迷惑千万だが、店員のシカトよりはましだ。

本来この手の商品は、ショーケース越しにアレコレ品定めしている時間が、最も楽しみのはずでは?

腹立たしさでお腹も一杯。

あっ、また客だ。

自動ドアが開き、春の爽やかな風が吹き込んだ。

これ見よがしに広げられている雑誌の、紹介記事風の広告ページが風にめくり飛ばされた。

「奢れるもの久しからずや~人の噂も七十五日」とか。

また2ヶ月半したら、ぶらりと覗いてみるのも一興か。

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投稿者: okadaminoru

1957年名古屋市生まれ。名古屋在住。 岐阜県飛騨市観光プロモーション大使、しがない物書き、時代遅れのシンガーソングライター。趣味は、冷蔵庫の残り物で編み出す、究極のエコ「残り物クッキング」。 <著書> 「カカポのてがみ(毎日新聞社刊)」「百人の天職一芸(風媒社刊)」「東海の天職一芸(ゆいぽおと刊)」「東海の天職一芸2(ゆいぽおと刊)」「東海の天職一芸3(ゆいぽおと刊)」「長良川鉄道ゆるり旅(ゆいぽおと刊)」

「毎日新聞「くりぱる」2004.3.28特集掲載③」への6件のフィードバック

  1. 甘い物好きの私・・
    勿論 ❢シュークリームは、外せないひとつです。
    シュー皮の食感が何とも言えない。
    それと、菓子パン「ネオ小倉マーガリン」これは絶対 ❢
    忘れていけないのが・・
    ○○ザキパン「シューロールパン」十勝牛乳入りホイップ&カスタード
    これ⤴マジで美味い ❢
    でもねぇ ❢
    これがまた、中々売ってない、見つけたらホント・ラッキー
    一度騙されたと思って食べてみ~ぃ⤴

    1. まだぼくが若かった日の事。
      花屋のアルバイトで、先輩と一緒に3時のおやつでも買ってちょいと一服と、ヤマザキパンの店に立ち寄ったことがありました。
      先輩はトラックから降りると、一目散に店内に入って缶コーヒーを片手に、シュークリームに噛り付きながら、店のおばちゃんにお金を払わんとしていたのです。
      しかし!
      「おい、このシュークリーム、クリームが入っとらんぞ!」と。
      近寄ってよく見てみると、シューの皮だけがボロボロと口の周りから零れ落ちているじゃありませんか!
      するとおばちゃんが、「あんた、それどこから取ったの?」と。
      先輩は、透明のアクリルケースを指差しましたが!
      「そりゃあ、あんた!ディスプレイしてある、蝋細工のシュークリームやで、クリームなんて入っとれへんわさぁ」とおばちゃん。
      先輩は、口の中でモサモサしている蝋細工のシャー皮を、必死に吐き出していたことがありました。
      どんな味だったんだろう?

  2. ずいぶん昔、テレビ局が来るくらい人気のジェラート屋さんが近くにあったので行ってみたら、店主が無愛想で怖っ!!
    後々知ったのですが、それは有名な話だったみたいでした(笑)

    1. そう言う不愛想すぎる店ってありますよねぇ。
      妙に馴れ馴れしい店も困りものですが、不愛想すぎるのはちょっと・・・。

  3. ブログを読んで大笑いしました。
    いくら有名な商品であろうが その時点で興醒めです。商品を作った方が悲しむんじゃないかなぁ〜。
    銀行の社員さんの対応が 格段上ですよ。
    普段 買い物や外食時 時々気になるスタッフさんに出会う事が…。
    無愛想な人は論外だけど 私が気になるのは 「○○円になります」とか「お待たせ致しました。○○になります!」の 『なります』の言葉。
    いつも悶々としてしまいます(笑)
    あと レジ打ちをしながら スタッフさん同士でお喋りをしてた時は さすがにブチ切れ クレームおばさん発動してしまいました。
    私自身が 飲食店やスーパー等で接客の仕事をしてた経験があり 年齢を重ねてきたということもあるので 気になっちゃうんですよね。
    『 この店員さん 最高!』と思える方に出会えた時は もう嬉しくって 何度も「ありがとう」って言ってしまいます(大笑)
    なんなら 上司の方に伝えたいぐらいです。
    見習おう!とも思いますよ( ◠‿◠ )

    1. そうだ!
      ぼくも人のふり見て我がふり直そう~っと!
      って、もはや時間切れかぁ?

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