「三河wonder紀行⑮」

『俄か仕立ての浜採(はまど)り』

2008.夏 季刊誌掲載

三河湾に面した幡豆郡吉良町の白浜新田。

内海の穏やかな波頭が、早春の陽光をキラキラと弾き返し、綿毛のように柔らかな海風を連れて来る。

競い合うかのように咲き始めたばかりの桜の花びらも、麗らかな春の陽気を一身に浴び、何とも心地よさげに揺れている。

「ああっ!」。

写真は参考

時代がかった小屋の前に立札。

入浜式塩田の跡とか。

昔はこんな長閑な環境の中で、日がな一日かけて塩作りしていたのかぁ。

なになに・・・。

写真は参考

「吉良公の時代には、にがり分の少ない良質の塩が豊富に取れ、饗庭塩(あいばじお)と呼ばれ矢作川を川舟で遡った。そして足助で中馬と呼ばれる木曽馬に荷を載せ替え、長野県の飯田や駒ケ根を越え塩尻を目指した。だから塩の終点、塩の尻って今でも書いて塩尻」なのかぁ。

ここは吉良町歴史民俗資料館に併設する、吉良文化広場に復元された入浜式塩田。

この左官職人が使うような「平」って名の道具で、沼井(ぬまい)の砂を塩田全体に撒いたのかぁ。

ぼくは塩焼き小屋の中から平を取り出し、屁っ放り腰で写真の砂撒きを真似て見た。

写真は参考

しかしどうにもこうにも、手も足もてんでんバラバラ。

「あかんあかん!そんな屁っ放り腰じゃあ!砂撒きだけで一日かかってまうらぁ」。

麦藁帽子に黒の長靴姿。かくしゃくとした老人がどこからともなく現れ出で、手取り足取りの実技指導を始めた。

このご老人こそが何を隠そう、吉良の饗庭塩造りの名人、渡辺友行さん(82)だ。

写真は参考

かつては白浜地区で2反7畝(せ)に及ぶ巨大な塩田を誇った、浜採りの末裔である。

「そんでも昭和28年の13号台風で、この辺りの塩田はまるっきし壊滅だぁ」。

事実上、吉良の饗庭塩は、この世からその姿を消した。

「そんでもなぁ、地元の人らがもう一回塩田を復活させよまいって、5月から毎月第4土曜日に一般参加で塩作りを始めることになっただぁ。そうやって若い人らに昔の塩作りを伝えるのが、当時を知る年寄りの努めらぁ」。

麦藁帽子の庇を持ち上げ、吉良の浜採りは塩焼けた赤ら顔を綻ばせた。

ぼくも来年は参加させてもらって、饗庭塩を手塩にかけて作って見るかぁ!

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そしたら三河湾で揚がったばかりの魚を、手作りの饗庭塩を振って塩焼きにして、キリン一番搾りでプッハァ~ッてかぁ!

塩田にはぼくの影が長く伸び、頭上で鳶が呑気にクルリと輪を描いた。

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投稿者: okadaminoru

1957年名古屋市生まれ。名古屋在住。 岐阜県飛騨市観光プロモーション大使、しがない物書き、時代遅れのシンガーソングライター。趣味は、冷蔵庫の残り物で編み出す、究極のエコ「残り物クッキング」。 <著書> 「カカポのてがみ(毎日新聞社刊)」「百人の天職一芸(風媒社刊)」「東海の天職一芸(ゆいぽおと刊)」「東海の天職一芸2(ゆいぽおと刊)」「東海の天職一芸3(ゆいぽおと刊)」「長良川鉄道ゆるり旅(ゆいぽおと刊)」

「「三河wonder紀行⑮」」への8件のフィードバック

  1. 塩と言えば・・
    戦国時代、「敵に塩を送る」って有名な話ですねぇ❕
    上杉謙信が武田信玄に塩を送った。
    どんだけ~ぇ⤴上杉さんの懐が広いのか?
    まぁ~⤴この歳になって・・
    あの人は懐が広い❕なんて言われないでしょうが
    せめて「一日一善」心掛けたいもんです~ぅ⤴

    1. 「一日一善」は、ぼくも心掛けたいと思っています。
      大谷選手のように、さりげなくグランドのゴミを拾ったりとか。
      小さな小さな「一日一善」を目標に、頑張るぞう!

  2. 自分で塩を作る事が出来るなんて良いですねぇ。ビール片手に魚の塩焼き、シメは塩むすび、なんてのもいいなぁ⤴️

    1. 熱々ご飯の塩むすびなんて、実に最高ですねぇ!
      でも掌が真っ赤になっちゃいますけどねぇ。

  3. 母親の実家 碧南から赤い電車に乗って いとこ達と 吉良吉田へ行ってました。

    魚商をしていたおばあちゃんの家では シャコを茹でたりする時に使っていたのが、もしかしたら?  

    ジャムの空瓶から手づかみで、パラパラしていましたから 『何入れたの』と聴いた事を覚えています ♡(灬º‿º灬)♡

    お刺身や飛騨牛 饗庭塩で食べてみたいな〜 (◕ᴗ◕✿)

    1. 塩も専売公社が無くなって、能登や二見、そして吉良や、各地で浜採りの塩作りが行われるようになったようですから、各地の塩の味の違いも味比べをして見るのも楽しそうですよねぇ。

  4. 塩って 物凄い種類があるんですよね⁈
    味も舌触りも全然違う。
    それに 辛くなったり 甘さを引き立てたり 味を引き締めたり 水分を引き出したり 食材の旨さまで引き出したり…
    いろんな働きをしてくれるから不思議!
    身体にとって塩分は必要だけど 年齢を重ねてくるのと比例して 取り過ぎには注意かも知れませんね。

    1. とは思いつつ、ついつい塩味の旨さにほだされ、もう一振りって掛けちゃうんですよねぇ。
      岩塩の粗塩なんてぇのも味わい深いものですよねぇ。

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