『石窯職人の武骨なパン』
2005.秋 季刊誌掲載
キュルキュル!キュルキュル!
初夏の陽射しを遮る、100%総天然色のサンシェイド、新緑の広葉樹。
野鳥たちの声が冴えわたる。

葉裏から太陽を透かし見ると、葉脈がまるで血管のように浮かび上がり、森の生命が静かな営みを続ける。
ガザガサ!
枝先が揺れ、二羽のヒヨドリがお目当ての桜を目指し飛来した。
が、しかし!
白いネツトにその行く手を阻まれ、ヒヨドリたちは右往左往ならぬ、上昇下降を繰り返す。
「こいつらぁさぁ、ヘリがホバリングでもするように、うまいこと空中でサクランボを啄むだよ!今年もほとんどやられちまったぁ」。
人懐っこい笑顔で、石窯職人の磯貝安道さん(56)は、森に帰って行くヒヨドリを見詰めた。

律儀にも、サクランボの小枝に種だけを残して。
待てよ!
何かどっかで見たような光景?
そうだ!
確か数十年前、彼女との初デート。
喫茶店の片隅で向き合ったまま、何をどう話して良いものやら・・・。
今のような「初デート攻略本」なんて何処にも無い冷酷な時代。
それでも何とか彼女の気を惹こうと、しどろもどろ。
吹き出す汗のように、水滴がアイスコーヒーのグラスを滴る。
焦れば焦るほど、話題はどれもショート・センテンス。
長い沈黙だけが、会話と会話の間にドッカと横たわり、グラスの水滴もいつしか乾き切ってしまった。
伏し目がちな彼女の前には、ペロッと平らげられたバナナサンデーの干からびた残骸。

なのに彼女の口は、終始微かな動きを刻み続けている。
どうにも盛り上がりに欠け、形勢不利な状況を跳ね返す術もない。
ましてやこれといった画期的な打開策などあろうはずも無く、ただただ空しく時間だけが気忙しそうに過ぎて行った。
しかしこのまま店を出ようものなら、掛け替えのない飲食代680円が水の泡。
二度と彼女にデートの約束を取り付けることもままならぬ。
焦りのあまり深く考えもせぬまま、言葉が先に重い口を衝いて飛び出した。
「〇子さん、今からもう一軒梯子しない?駅裏の喫茶店でチョコレートパフェでも?」。
「はぁ?・・・」。
そういうと彼女は徐に席を立ち、終始モゴモゴさせていた口から、サクランボの小枝を吐き出し、空っぽの灰皿に放り出し、そそくそと立ち去って行ってしまった。
真っ白な灰皿に、無情にも投げ捨てられたサクランボの小枝。
しかも小枝は、器用に両端が結ばれている。
そう言えば誰かが言ってたっけ!
『サクランボの枝を口の中で結べる奴は、Kissのテクニシャンなんだぞ!』。
いつだって物知り顔をひけらかす、あのいけすかない奴の言葉が脳裏を駆け巡った。
しおらしい素振りで、ペロッとバナナサンデーを平らげといてぇ!
ぼくはKissなんて、一度もしたこと無いってぇのに!
・・・ってぇことは、あの娘がテクニシャンってぇことかよ!
儚い恋心は、無残にも砕け散った。
でも白状すれば、その時ぼくの心の中に巣食った魔物が「灰皿のサクランボの小枝は、さっきまであの娘の口の中に入っていたんだぞぅ~っ!今ならまだ、ファーストKissの出汁が出ているぞぅ~っ!」と、まことしやかに囁きかけてきたものだ。

「さあ、お待たせ!」。
石窯職人は窯の蓋を開け、武骨な焼き立てパンを取り出した。
淡く切ない回想シーンに浸っていたぼくは、職人の声で現実の森へと舞い戻った。
「今日は騙されんかったぞ!」。
「ええっ?騙すって、いったい誰が!」。
「窯だよ、石窯!」。
10t近い総重量の石窯は、地中60㎝を掘り返しステコンと鉄筋を入れ、赤煉瓦を腰高まで積み上げる。

囲った煉瓦の中には、残土を入れて搗き固め、保温のために川砂を被せる。
その上に鉄製の窯を配置し、再び窯の上から直火に強い雌石(めいし)で隙間なく覆う。
そのため窯の蓄熱率が非常に高く、前の日の余熱も失われない。
だから窯内の温度が同じであっても、二つと同じ焼き上がりの石窯パンは仕上がらない。
「だから!石窯パンらぁ」。
そう言われちまっては、いかにももっとも過ぎて、返す言葉すら見当たらない。
が、しかし!
えも言われぬ美味しさが、ほっこりと口の中に広がったぁ!

石窯職人が焼く武骨なパンは、たったの3種。
しかも完全予約制。
武骨パンの神髄「プレーン」は600円。
「レーズン」「クルミ」がいずれも680円。
素材はすべてこだわりのオーガニックという頑固技。
石窯パンと、家庭用石窯造りのご相談は、0564-83-2881エトセ工房まで。
このブログのコメント欄には、皆様に開示しても良いコメントをドンドンご掲示いただき、またその他のメッセージにつきましては、minoruokadahitoristudio@gmail.comへメールをいただければ幸いです。
初デートか~ぁ⤴
当時からモテ男だった・・(注意 勝手に自分がモテ男だと思っているだけ)
いつが初デートだったか?覚えがないけど
取り敢えず、中坊の時、多分?誕生日だと思う
彼女に(中学生)だけど小学校の校庭に来て、と言う事で行って
忘れもしない、スカイブールの手編みのマフラーをプレゼントに貰った。
その小学校の校庭が初デートの場所❕
緊張のしっぱなしで、何も話せなかった(モテ男なのに)
今も純情だけど、あん時は超純情だったな~~ぁ⤴
淡い淡い青春の残像ですねぇ。
そんな瞬間がこの年になると愛おしく感じられるものですよねぇ。
オカダさんにも そんな事がががです。くすっ
次は私が出しますからね。
チョコレートパフェ梯子しましょ そうしましょです。これでは吉本っぽくなっちゃいますね。
今日は思わぬところでパン屋さんを見つけたので 昔から好きな かた〜いパンを買ってきました。明日はほんのりガーリックマーガリンをつけて楽しみます。(オカダさんのブログの力は凄いですね)
歯が立たないような硬いパんに、ガーリックバターなんて、それだけで立派なワインのお供ですねぇ。
それだけで十分なご馳走ですって!
サクランボあるある、懐かしい⤴️若い頃、喫茶店でパフェやクリームソーダを注文した時に、サクランボが乗ってるとその話題に。今の若者もやるのかなぁ。
なかなか難しいものでしたよねぇ。
ぼくもやっぱりご多分に漏れずやって見ましたが、そうそうおいそれとは結べなかったですねぇ。
私も初デートを思い出してみました(笑)
短大生の頃 一目惚れをした社交ダンス部の部長と稽古場からの帰り道 バイクをひきながら歩く部長の少し後ろを歩く…
デートとは言えないけど これが私にとって初めて男性と二人で過ごした時間でした。練習も先輩と組んで踊ってたので 常に心臓がバクバク。
その後 犬山市の入鹿池でWデートでボートにも乗った事があるんですよ( ◠‿◠ )
あの二年間は 楽しくて切なくて悲しくて 今 思い出すだけでもキュンとなります( ◠‿◠ )
なぜだか昔はデートってぇと、ボートに乗ったりしたものでしたねぇ。
ぼくも鶴舞公園の池のボートに乗ったような記憶が・・・!