「三河wonder紀行②」

『ガリバーの国のロールケーキ?』

2005.春 季刊誌掲載

「鬼は外、福は内」

家々の引き戸が、ガラガラガラっとけたたましい音を立て、開いたり閉じたり。

町内のあちらこちらで、子どもたちの声が上がったものだった。

でももう、そんな昭和中ごろの風景は、記憶の片隅に消え入ろうとしている。

節分の豆まきは、もともと柊の枝に鰯の頭を刺して戸口に立て、鬼打豆と称す炒り大豆をまいた習慣に由来するとか。

写真は参考

近年ではそれが簡略化し、柊の枝に刺さったグロテスクな鰯の頭という、豆まきの儀式を鬼気迫るものとして演出したはずの装置も、住環境の変化で不要になったとでも言うのか、なかなか見かけられなくなってしまった。

でも何でそれが鰯だったの?

鰺や秋刀魚じゃあ役不足?

でも鬼を駆逐する戸口の飾りが、「魚」偏に「弱」いと書く鰯とは何とも心許ないものではないか!

新春恵方詣りの駅貼りポスターを眺めながら、ぼくはしきりに首を傾げていた。

しばらくすると・・・。

「あのう・・・」。

「あっ!あれっ?」。

別にプラトニックでとても清らかな関係の、文通相手と初めて出逢ったような逢瀬の一コマではない。

今回の旅のナビゲーターである、岡崎市のNさんとJR安城駅で落ち合った瞬間の一コマである。

はてさて一体ぼくは、これから何処へ導かれるのやら。

「いつも車で通りながら眺めてるだけだから・・・ええっと・・・」。

早速一抹の不安がぼくを襲う。

「確か・・・こんな感じの、古びた商店街の途中だったような気が・・・」。

Nさんは交差点で立ち止まり、あっちをキョロキョロ、こっちをキョロキョロ。

それに釣られてぼくも一緒にキョロキョロ。

時折り通り過ぎる車の運転手までもが、何かあったのかとノロノロ運転。

それでも何とかかんとか、目指す洋菓子工房「Tin-Ker-Bell」を発見!

写真は参考

「なんじゃあ、こりゃあ!」。

昔のTVドラマ「太陽にほえろ」のジーパン刑事の殉職シーンを気取ったわけではない。

とにかく馬鹿でかいロールケーキが、メルヘンチックな宝石箱のようなショーケースの最上段に、その巨体を横たえていた。

写真は参考

長さ50cm、幅20cmの生地を巻き上げた、直径7cmのつわもの。

「ちょっと待ってよ!こんなの誰が一気に食べるっちゅ~の!」。

妄想が暴走してゆく。

「米粉の生地を、コメのカスタードクリームと生クリームで巻き上げ、イチゴとキーウィにオレンジをトッピングしました」と、オーナーの香村政人さん。

その名も「長すぎるロールケーキ」とは、いかにも分かりやすすぎ。

お代は2000円ポッキリ。

「子どものお誕生日とか、ホームパーティーにはピッタリでお値打ちかも!」と、Nさんもすっかりその気に。

2004年の5月から販売を始め、口伝に噂が広がり、今では1日に15本ほども売れる人気商品だ。

物は試しと1本買い込んで見た。

う~ん、なんとも言えぬ重さがズシリ。

2000円の重みが、しみじみと感じられる。

でも待てよ!

ラベルの片隅の文字に目が留まった。

「本日中にお召し上がり下さい」だって!

ええっ!わが家はたったの3人家族。

それを今日中に食べきれと言うのか!

写真は参考

ああっ、ガリバーならきっと一口なのに!

「ならばいっそ、今年の節分の恵方である西南西を向いて、ガリバーの国のロールケーキとやらを、一息に喰らい尽くしてやるか!」。

独りよがりのぼくの空しい叫びを『この愚か者めが!』と、春一番が嘲笑うように吹き飛ばしていった。

このブログのコメント欄には、皆様に開示しても良いコメントをドンドンご掲示いただき、またその他のメッセージにつきましては、minoruokadahitoristudio@gmail.comへメールをいただければ幸いです。

投稿者: okadaminoru

1957年名古屋市生まれ。名古屋在住。 岐阜県飛騨市観光プロモーション大使、しがない物書き、時代遅れのシンガーソングライター。趣味は、冷蔵庫の残り物で編み出す、究極のエコ「残り物クッキング」。 <著書> 「カカポのてがみ(毎日新聞社刊)」「百人の天職一芸(風媒社刊)」「東海の天職一芸(ゆいぽおと刊)」「東海の天職一芸2(ゆいぽおと刊)」「東海の天職一芸3(ゆいぽおと刊)」「長良川鉄道ゆるり旅(ゆいぽおと刊)」

「「三河wonder紀行②」」への10件のフィードバック

  1. ほんの今しがた(午前8時)、スーパーに行ってきました。
    いつもの寿司コーナーが恵方巻に占領されて・・
    私の好きな助六はいずこへ?~~⤴
    何処も見当たらないので、結局「海鮮海苔巻き」
    気になったので「恵方巻の由来」を調べたら
    てっきりお寿司屋さんが発祥だと思ったら
    海苔業者が販売促進の為だったとは・・
    普段、海苔って全く食べない
    温泉旅館で朝出て来る海苔を食べるくらいで
    そうでなければ全く食べない❕
    でも、なんか?
    海苔って色んな栄養があるらしく
    オカミノファミリーの美熟女の皆さん
    美肌効果もあるらしいので是非!
    今度、お会いする時に、ビックリさせて下さい。

    1. コロナもなんのその!
      恵方巻が売り場を埋め尽くしていましたかぁ!
      でもコロナが去って福来れって心境にもなりますよねぇ。

  2. 『長すぎるロールケーキ』は、ホールケーキより切り分けやすそうだから絶対いいよ。ケンカにならない。あ〜、食べたい٩(♡ε♡ )۶

    1. ぼくなんてお母ちゃん譲りの、端っこ文化で育ったからか、こんな巨大なロールケーキがあっても、ぼくはその端っこを食べちゃうんだろうなぁ!
      きっと!

  3. 先程 新年に向け 盛塩を取り替える為玄関を開けたら 子供達のはしゃいでいる声が 何処からか聞こえきて 心温まり 嬉しくなりました (◍•ᴗ•◍)❤
    『鬼は外 福は内』と 豆まきしていたんですね ( ◜‿◝ )♡
     
    私は 袋入りの豆を玄関に置き 『鬼は外 福は内』と 小さな声で言い その後 ビールのつまみにしましたよ ☆

    それにしても ながーい ロールケーキですね~ 。◕‿◕。
    子供達は 目をまんまるくして、おお喜びするでしょうけどね (◠‿・)—☆

    今年は オムライス巻きとか 豚まん巻きとか 色々
    ビックリ  ビックリ ヽ((◎д◎))ゝ

    私はお昼に 回るお寿司屋さんの 食べきれるサイズの海鮮巻を頂きました (◕ᴗ◕✿)

    1. ぼくは自分で巻く、手巻き寿司風のサーモン巻きをいただきましたぁ!
      『鬼は外 福は内』と、心の中でつぶやきながら!

  4. 昨日のスーパーは お昼前から 恵方巻き目当てのお客さんがいっぱい。
    私は 息子と一緒だったので 混む時間を避けて行ったけど それでも人多し。
    まるでクリスマスか年末年始のよう。
    昨夜 息子一人ずつと一緒に 毎年恒例の豆まきをしました。長男は「鬼は外」と呟きながら 掴んだ豆を地面にポイ!一箇所だけが豆だらけ(笑)。次男は 少し遠くに投げてから 残った豆と私の顔を見ながら「食べてもいいですか?」と。毎年同じ風景だけど これからも健康で季節の行事を体感しながら 楽しんでくれたら嬉しいなぁ〜と思っています。

    1. 四季折々に日本人として、とっても大切な時々のイベントってありますものねぇ。
      それを家族で過ごせるって、当たり前のようでありながらも、当たり前の事じゃなく、特別な事かも知れませんよねぇ。
      健康と笑顔に、感謝感謝!

  5. 今年も柊に焼いたイワシを刺して鬼の顔を描き黒い点々を13ケ月ぶん描いて玄関に飾りました。

    友達は子供の頃は
    この柊を家々の玄関から貰って来て 何本集めたか見せあっこしてたと聞いて驚いていたけど
    友達と同じ地区の出身とゆう
    少しお姉さまから
    「この描いた紙はどうしているの?」と尋ねられて 教えて頂いたのは この紙を集めてとっておいて 歯が痛くなった時にこの紙で頬の上からなぜていたとのことです。

    1. へぇー、それも面白くって素敵な庶民信仰と言うか、言い伝えですねぇ。
      何物にも祈りの気持ちが宿るという。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です