「遥かなるカリーテンプルへの道!」(第9話)

2000年11月14日 毎日新聞朝刊掲載

「ブッダガヤのバザールだがや!」

ブッダガヤの朝はひときわ早い。

大塔東側のバザールには、何処からともなく人が湧き出で、空気の濃度も一気に薄まる。

もぎたての野菜がいっぱい詰まった頭上の籠を、他人の軒先に我が物顔で下ろし、麻袋を地べたに広げ何食わぬ顔で店開きを始めた、サリー姿のオバハン。

値札もなけりゃあ、秤も無く、もちろん気の利いたセールストークなど以ての外。

ただただひたすら地べたに座り込み、日がな一日客を待つ。

野菜を全て売り尽くせば、今日一日の仕事はお仕舞い。

明日の分までついでに稼ごうなどとは、微塵も考えていない様子だ。

やがてあちこちから朝飯の煙が立ち上り、サラサの葉を乾燥させ形成した小皿に、カレーとライスや、チャパティー(丸い小麦の無発酵パン)を盛り付け、人々は道端にしゃがみこんだり突っ立ったまま食事に勤しむ。

食べ終えれば、葉っぱの小皿はそのまま足元にうっちゃられ、元の枯葉となってやがて土に還ってゆく。

日本寺に20年以上も勤めているチャリタル爺さん(年齢不詳)に連れられ、ぼくは彼の家を訪ねた。

娘夫婦と孫、三世代で暮らす家は最近、政府の援助で建て替えたというコンクリート製。

間取りは、平屋で6畳二間ほどと、軒先に囲いの付いた竃があるだけと質素な造りだ。

ここで家族9人が寄り添い合って暮らす。

むろん冷蔵庫やテレビなど、無用の長物である。

そう言えば、バザールを観察していると気が付く。

村人たちは決して余分な買い物をしない。

その日の必要な最低限の食材だけを調達するだけだ。

ぼくらのように、明日明後日とか、向こう一週間分などと、買い置きなど一切しない。

方やわが家の冷蔵庫の奥の院には、いつから君はそこにいたのだとでも言いたくなるような、黄緑色の芽を吹きだした玉ねぎを見かけたりする。

いくらスーパーの安売りだったとはいえ、いやはや。

余分なモノに囲まれることが豊かさだろうか?

村人たちの暮らしぶりを思い出す度、ふと考え込んでしまう。

しかしぼくは、それを妻に決して指摘をしない。

だって「ここは日本!インドじゃないのよ!」。

そんな一言でさっさと片付けられるのが落ちだからだ。

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投稿者: okadaminoru

1957年名古屋市生まれ。名古屋在住。 岐阜県飛騨市観光プロモーション大使、しがない物書き、時代遅れのシンガーソングライター。趣味は、冷蔵庫の残り物で編み出す、究極のエコ「残り物クッキング」。 <著書> 「カカポのてがみ(毎日新聞社刊)」「百人の天職一芸(風媒社刊)」「東海の天職一芸(ゆいぽおと刊)」「東海の天職一芸2(ゆいぽおと刊)」「東海の天職一芸3(ゆいぽおと刊)」「長良川鉄道ゆるり旅(ゆいぽおと刊)」

「「遥かなるカリーテンプルへの道!」(第9話)」への12件のフィードバック

  1. バザールではありませんが
    一度「フリーマーケット」をやってみたい
    えっ?なにを売るかって
    そりゃ~ぁ⤴勿論❢
    ヤマもモ愛の大安売りだい❢
    きっと、爆売れ間違いなし❢
    オカダさんも一口、のせてあげてもイイよ❢

    1. そりゃあ「フリーマーケット」ならぬ、「不倫マーケット」ってんじゃないですかー?

  2. 「明日、あさってとか向こう一週間分」の買い物もそうですが、先の心配をして生きてきたオジイの一生でした。心配の先取りで「いま」を確実に生きた実感はあまりありませんでした。今からでも遅くないで、「いまここに」スタイルで生きていきたいと思う69歳は神戸町に住むイカじじいであります。

    1. ついつい、当たり前のように、寸分たがわぬように「明日」や「明後日」がやって来るものだと信じ切っているのは、自分勝手な幻想なんでしょうねぇ。

  3. 無かったら無いで過ごせたのかも知れないけれど、一度便利さを知ってしまったら元の生活には戻せなくなってますねぇ。家電製品然り。スマホだって、もう無い生活なんて考えられないよぉ。

    1. 文明の利器によって、人間力がだんだん削られているのかも知れませんなぁ。

  4. 豊かさ…
    その時は 物だったりお金だったりするのかも知れないけど 最期は…
    なんか違う気がするんですよね。
    最近 両親を見ながら つくづく考えさせられてます。

    1. モノにしてもお金にしても、適度にあればそれで十分なんじゃないでしょうか。
      まあ、確かに負け惜しみは認めちゃいますが!
      でも持て余すほど、モノやお金があればあったで、それはそれなりに大変そうですけどねぇ。
      これまたやっぱり無い物ねだりですが!

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