「遥かなるカリーテンプルへの道!」(第8話)

2000年11月7日 毎日新聞朝刊掲載

「ブッダガヤのカリーテンプル建築風景だがや!」

午前8時。

カリーテンプルの建築現場に、隣村から筋張った男たちが集まり始める。

Tシャツに腰巻き、頭にはタオルの頬っ被り。

足元はビーチサンダルか裸足のままだ。

どうやらこれが、カリーテンプル建築に携わる作業員たちの制服のようだ。

もちろんヘルメットもなければ、軍手や安全靴などもってのほか。

子どもの頃目にした光景がよみがえった。

作業員の数は、時間を追うごとに何処からともなく湧き出る様に増え、それぞれ持ち場に散って黙々と作業を始める。

点呼や朝礼はもちろん、日本でおなじみのラジオ体操など一切無し。

まるで業務用の中華鍋を思わせる、鉄製の大きな盥にセメントを山盛りに詰め、軽々と頭の上に乗せ凸凹の足場の悪い地面を飄々と渡る。

そして目指す型枠にいともたやすく流し込んだ。

一方、敷地の片隅では、長い鉄柱を地べたに横たえ、親方と思しき年配の男が巨大なやっとこ鋏を鉄柱に宛がい、若い相方の弟子がこれまた巨大なハンマーを振り下ろし、次から次へと鉄柱を切断している。

しかしどこからどう眺めていても、一向に鉄柱の長さを測っている気配がない。

すべて親方の勘だけが頼りか?

そう言えば現場監督らしき者でさえ、設計図を確認するどころか、設計図そのものも見当たらぬ。

何か問題が生じると、その都度現場監督やらトラストの理事長に親方衆が集まり、話し合いが始まる。

でもしばらくすると「問題ナイヨ。ノン・プロブレム」の決め台詞と笑い声が聞こえて来るだけ。

これで見事、一件落着。

ここにはクレーンや掘削機も生コン車もない。

もっとも隣村までゆけば、それらの重機も手配は可能だ。

しかし「一人でも多くの村人たちに働く場を提供したい。」

それもトラストの重要な役割でもあると、理事長のジャガットは、素焼きのぐいのみから淹れ立てのチャイを一口で飲み干した。

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投稿者: okadaminoru

1957年名古屋市生まれ。名古屋在住。 岐阜県飛騨市観光プロモーション大使、しがない物書き、時代遅れのシンガーソングライター。趣味は、冷蔵庫の残り物で編み出す、究極のエコ「残り物クッキング」。 <著書> 「カカポのてがみ(毎日新聞社刊)」「百人の天職一芸(風媒社刊)」「東海の天職一芸(ゆいぽおと刊)」「東海の天職一芸2(ゆいぽおと刊)」「東海の天職一芸3(ゆいぽおと刊)」「長良川鉄道ゆるり旅(ゆいぽおと刊)」

「「遥かなるカリーテンプルへの道!」(第8話)」への8件のフィードバック

  1. 皆が自分のすべき事がなんなのかを知っている。それも感覚で。感性かな⁈
    そういう素敵な人達がたくさんいるからこそ 働く場を提供したい…に繋がるのかも。

    1. そういったさりげない、これ見よがしではない思い遣りって、こんな時代だからこそなにより大切ですよねぇ。

  2. 私、何を隠そう
    子供の頃の夢の一つに「大工」になりたかった。
    小学校の頃、近所に家を建てていた時に
    若い衆が「親方~ぁ~⤴」って呼んでいた。
    その言葉がかっこう良くて頭にこびり付いて離れなかったんです。
    だけど、小学校一年生の時に、その夢はもろくも敗れ去った。
    図工の時間に自分の手の不器用さに気が付いた瞬間だった。
    でもねぇ・・今じゃ~ぁ⤴
    違った意味で、ポッコリお腹が「親方~ぁ~⤴」です(涙)

    1. 確かに昔の大工さんって、鯔背なもんでしたものねぇ。
      立ち居振る舞いすべてが、まさに職人って感じで。
      咥え煙草で鉋掛けしている姿なんて、格好良かったですもの!

  3. それまでは気にも留めなかったけれど、新しい施設が出来るって事は、雇用先が増えるんだと言う事を気付かせてくれたのは、中部国際空港が出来た時。

    1. 今なんてコロナで、とっても不安定な世ですものねぇ。
      雇用先が増えて、働き手を求める時代に戻って欲しいものですよねぇ。

    1. ぼくもインドを訪ねて、「のらりくらり」と生きたって、それはそれで良いんだって、実感したものです。

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