「懐かしきパン食い競争」

昭和の半ばは、今と比べると何もかもが、良く言えば「大らか」、言い替えれば何かにつけ「緩い」時代であった気がする。
それを象徴するものの一つが運動会の競技だ。
それにしても、昭和半ばには大人気だった種目が、何やかやと父兄からのクレームとかで、もうお目に掛かれないのが、どうにも切ない。
ぼくがいつか大人になって、子を持つ親となったら何をさて置いても、出場しようと心に決めていたのは「パン食い競争」。

剥き出しのアンパンに直接紐を結わえ付け、7~8mほど間隔の開いた竹棹と竹棹の先端にロープを渡し、そこからアンパンを紐で吊るす。
よーいドンで走者はトラックを50mほど走り、アンパンの下へと駈け込む。
そのまま両手を使わず大口を開け、パンに噛り付いて紐から引きちぎり、アンパンを口に咥えたまま再びゴールを目指す。

今にして思い返せば、恐ろしいほど不衛生で、大変行儀の悪い競技でもあった。
しかし当時は、これがあまたある競技の中でもすこぶる人気。
微かなぼくの記憶によると、このパン食い競争は、昼休みの余興のような存在であった気がする。
子どもたちの応援を出汁に、どこの家庭もトラックの周りに筵を敷いて陣取る。
両親や祖父母に、親類縁者は元より、なぜだか近所のご隠居なんぞも混ざって、弁当のお重を囲んで車座になり、呑めや歌えの賑やかな昼休みだった。

そして宴も酣となった辺りで、赤ら顔してすっかり出来上がった父兄により、パン食い競争が始まる。
我が家の私設応援団は、両親に母方の祖母、そしてお隣のご隠居さんの少人数。
昼休みになると同時に、母が朝早くから作った弁当のお重を広げ、大人たちは湯呑に冷酒でちょっとした宴会気分。
宴も酣となった辺りで場内放送が入り、父兄によるパン食い競争の出場希望者を募り始めた。
するとやおら赤ら顔したご隠居が立ち上がり、「一丁、わしがええとこ見せたろ」と宣もうて、千鳥足で集合場所の入場門へと向かう。
既に出来上がっている父も、「ご隠居、そんな酔狂はやめとかんと、腰抜かすのがオチやで」と茶化した。
「それではこれより、父兄の部のパン食い競争を始めます。よーいドン!」。
いよいよ余興の目玉、パン食い競争が始まった。

すると何と赤ら顔したご隠居が、捩じり鉢巻き姿でヨタヨタと走り出したではないか!
とは言え他の走者も似たり寄ったり。
家族の中のお調子者が大半。
皆一様に赤ら顔した千鳥足の走者ばかり。
応援席からヤジや失笑が飛び交う。
そしてついにご隠居も、竹竿の先端からアンパンが吊り下がったポイントに到達。
ところがこれが、なかなか一筋縄にはいかない。
隣のオッチャンがパンに噛り付くたび、吊り下がるアンパンが上下左右に揺れ、中々思い通りに齧り付けないのだ。

何度か空振りした後、ついにご隠居がアンパンを咥えた。
「よっしゃー、そのまま引き千切って走れ~っ!」。
わが家の応援団も皆立ち上がり、口々に声援を送った。
しかし次の瞬間、会場は笑いの渦に!
ご隠居が咥え千切ったはずのアンパンが、空中を上下にブラ~ンブラン。
しかもよく見ると、アンパンにはご隠居の、総入れ歯が食い込んだまま。

それを見上げたままご隠居はへたり込んでしまった。
そしてブラ~ンブランと揺れるアンパンを睨み付け、口を開けフガフガと言葉にならぬ声を発し、悔しさを滲ませている。
ぼくら家族はもう、他人の振りを決め込み、笑いを堪えるのに必死であった。
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めっちゃ笑わせてもらいました( ◠‿◠ )
ご隠居さんには申し訳ないけど 想像するだけ笑えます。
夢に出てきたらどうしよう⁈
今日一日の終わりを楽しませてくれてありがとうございます♡
ずいぶん昔の事。
まだ車の免許を取って間が無かった頃、信号待ちの先頭に止まっていたのです。
同様に対向車線で信号待ちをしていたドライバーさんは、軽トラのお爺ちゃんでした。
ちょうど昼下がりのポカポカした天気で、お爺ちゃんは呑気に信号待ちしながら大口空けて大あくび。
その途端、お爺ちゃんの総入れ歯が外れ、運転席に転がり出しちゃって!
お爺ちゃんはフガフガ!
笑えて笑えて、ハンドルを握るのもままなりませんでした。
なぜそんな面白い場面に遭遇するの〜⁈
朝から笑わかさないで〜( ◠‿◠ )
おじいちゃん 事故を起こさなかったかな?
今日運転中に思い出しませんように(笑)
時々 対向車線から来る車の女性運転手さんが大あくびをしてるのを見てしまった時は 見てはいけないと思っちゃうけど
目のやり場に困っちゃう事って、確かにありますよねぇ。
ヒューマンウォッチングって結構ぼくは好きかも知れません。
昔から!
自分も入れ歯になる時が来るのかなぁ、なんて事を考える事ありません?最近、『8020』を目指せたらいいなぁと思ってるんですけどね(*´∀`)
父が総入れ歯だったので、ぼくもどうなんだろうと心配したこともありましたが、歯並びはとんでもなく悪いものの、今のところ一本も義歯に頼らず、オンボロながら自分の歯で持ちこたえています。
頑張れ!ぼく。