「腕白坊主とお転婆娘のザリガニ釣り」

水ぬるむ春ともなると、昭和の腕白坊主どもとお転婆娘たちの、歓喜の声が用水路の脇に飛び交う。
腕白坊主共は、まるで申し合わせたかのような、半ズボンに継ぎの当たったシャツとつっかけ履きの出で立ち。
方やお転婆娘たちときたら、揃いも揃ってワンピースの裾を太腿のパンツのゴムに巻き込んだ、今にも薙刀でも振るいそうなほどに勇ましい、提灯ブルマー姿。
用水路の浅瀬の水際に裸足で降り立ち、泥んこ塗れになろうとも平気で遊び回ったものだ。
竹箒から抜き取った、竹の細い枝を釣り竿代わりに、木綿の糸に台所からくすねた魚肉ソーセージを、1cmほどに千切りとって括り付け、用水の中へと垂らす。

すると土管の中から、大きな赤いハサミを振りかざし、アメリカザリガニがガサゴソと這い出して来る。

そして大きなハサミを振り翳し、器用に魚肉ソーセージのエサを挟み口へと運び込む。
「今だ!」。
その瞬間こそが、ザリガニを釣り上げる最適のタイミングだ。
グィーンと竿先をもたげる。
するとザリガニは、エサを放してはならじと、「なにくそ!」ってな具合に、強靭なハサミに力を込める。
すると難なく、ザリガニが一丁上がり!
こうして一匹目がつり上がれば、活きたザリガニの頭を素手でもぎ取り、まだピクピクと蠢く尻尾の殻を剥き取る。
そして魚肉ソーセージの代わりに、今度はザリガニの剥き身を括り付け、再び用水の中へと放り込む。
するとザリガニ達は我先にと群がり、共食いも何のその、まんまとこっちの思う壺。
そうなりゃあ、一欠けだけ千切って餌にした、残りの魚肉ソーセージは臨時ボーナス。
ぼくらの腹の中へと収まると言う算段。
いくらも経たぬうちに、穴が開いてあちこち凹んだ、ブリキのバケツの中は、ザリガニがガサゴソてんやわんや。

その数を友と比べあい、どっちが勝った負けたと一喜一憂。
戦利品を颯爽と家へと持ち帰る。
だがどうせ、意気揚々と家に持ち帰っても「こんな食えんようなもん、家に持ってこんでええで、とっとと捨てて来なさい!」と、けんもほろろに母の叱責を買うのは百も承知。
わかっちゃいても、それでもやっぱり自慢げに家へと持ち帰ったものだ。
何故だろう?
やっぱり古より男には、獲物をしとめ家族の元へと持ち帰る、そんな健気な本能が、遺伝子の一部に組み込まれているのだろうか?
ザリガニを捨てて来いと言われ、再び用水路へと向かう直前。
わが家の馬鹿犬、老犬ジョンの小屋の前に、一匹だけザリガニを放り投げてやった。

するとジョンは、鼻先に放たれたザリガニに興味津々。
鼻を近付け臭いを嗅いだり、前足でチョンとちょっかいを出したり。
だがザリガニが大きなハサミを振り翳すと、途端にワンと吠え後ずさる。
「良かったね、ジョン。いい遊び相手が出来て」と、用水路を目指した。
ザリガニを用水路に放し、家へと帰ってみると「キャィ~ン、キャィ~ン」と、いつにないジョンの鳴き声。
慌てて駆け寄ってみると、ジョンの鼻の髭の先で、ザリガニがブランブラン。
ジョンは頭を振ったり、前足でザリガニを取り去ろうとするものの、そうやすやすとザリガニもハサミを放そうとはしない。
ついに進退窮まり、情けない鳴き声を上げるばかりだ。
だがその姿があまりに滑稽で、ザリガニを髭から取り除いてやるのも忘れ、腹が捩れるほどに笑い転げたものである。
今更だけど、あの時はごめんね、ジョン。
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私の子供の頃「アメリカザリガニ」は
木の枝を竿代わりにして「するめ」で釣ってました。
昭和30年代半ばの近所には、まだまだ、田んぼがあちらこちらにあって
ザリガニ釣り師には、結構❢楽しめたもんでした。
今は、もうすっかり、ザリガニ釣り師なんて居ないねぇ
夏休み、タモを持って「蝶」を捕まえたり「蝉」を捕まえたり
ホント!子供の姿を見掛けなくなりました。
虫取りって、子供遊びの原点だと思うねぇ❢
そうそう!
子どもは好奇心の塊でしたものねぇ。
何だって怖いものなし!
でも立派に大人になると、今度はなにも恐れを抱かなかった昆虫が、妙におっかなくなっちゃうんですよねぇ。
母親が「ゲッ!!」って言いそうな物を、子供は持って帰って来たりするんですよねぇ(・_・;) それって、男の子あるあるなのかなぁ。
それそれ、あるあるですって!
ぼくも用水で雷魚を捕まえては家に持ち帰り、自転車小屋の片隅に放り出していたらいつしかウジ虫が大発生して、お母ちゃんにものすごく怒られたものです。
「痛いの痛いの飛んで行け〜」
ジョンくん 痛かったでしょうに…。
ザリガニって 今もいるのかなぁ?
もしかしたら 物凄い高価な物になってたりして…。
ぼくももう一度、童の様にザリガニ釣りに戯れて見たいものです。