「藁の家のオママゴト」

「さあ、あなた。ご飯ですよ!それともお風呂になさる?」。
なにも新婚まもない、ラヴラヴ夫婦の会話じゃない。
昭和も半ば。
それも冬枯れた、田んぼの真ん中での事。

共に小学校に上がったばかりの、幼馴染みのタカちゃんが、ママゴト遊びの途中、こまっしゃくれてつぶやいたのだ。
それに対してぼくは、「じゃあ、ビールでも一本抜いてもらうとしようか?ねぇ、スィート・ハート!」。
当時のぼくは、スイート・ハートの意味も分からず、タカちゃんのシナリオ通りの台詞を、一言も違えずそのまま口にしたものだ。
そうせねば途端に、タカちゃんは機嫌を損ねる。
間違って泣き出そうものなら、それこそ手に負えぬ。
だからぼくはいつだって、従順な執事のように振舞った。
ご近所のタカちゃん家は、周りでも評判のお金持ちでハイカラな家。
だからかタカちゃんの幼言葉の端々には、耳慣れぬカタカナ言葉が混じっていた。
しかしどんなにハイカラであろうが、所詮時代は今と比べようもないほど貧しき昭和の半ば。
しかも片田舎の事ゆえ、オママゴトの舞台は、田んぼの真ん中にポツンと取り残された、藁の家である。

藁の家とは、大型犬の犬小屋くらいの大きさで、切妻造り風に藁を組み上げたもの。
ぼくらはこっそり、切り妻造りの側面から藁束を抜き取り、かまくらの内部のような空間を作り、秘密基地の隠れ家や、ママゴト遊びの家に見立てたもの。
「あら、嫌だ。こんなに残しちゃって。あなたお体の具合でもお悪いの?」とタカちゃん。
段ボール箱を引っ繰り返しただけの、飯台の上に並んだママゴトセットを見つめ溜息を落とす。
とは言え、皿を真似た枯葉の上には泥団子と、草のサラダである。
いずれも端から食べられっこない代物。
「やっぱり、なぁ~んかこんなんじゃ、ムードが出ないわよねぇ。そうだ!明日は、私がビスケットに蒸かしイモと、紅茶を魔法瓶に入れて持ってくるから、ミノ君は玄関に表札を付けといてね」と、タカちゃんは一人ごちた。
翌日。
藁の家の入り口に、かまぼこ板に平仮名で「おかだ」と書いた表札を取り付けていると、大きな荷物を持ったタカちゃんが現れた。

「何だかその表札、センスないわねぇ」と、タカちゃん。
「センス=扇子?」と、いつものように言葉の意味は不明。
しかしながら、決して褒められたんじゃない事は、理解でき思わず口ごもった。
すると何事も無かったかのように、タカちゃんのシナリオ通りのオママゴトが始まる。
初めて目にした魔法瓶とやらから、陶器のティーカップに紅茶が注がれた。

初めて嗅いだ香りと、そのやさしい甘さと暖かさに心が振るえる。
「こうやってお紅茶に、ビスケットをちょっと浸して食べると美味しいのよ、あ・な・た」とタカちゃん。
これがまた何とも言えぬ魔法の美味しさだった。
それからわが家に紅茶や魔法瓶が登場したのは、2~3年も後のこと。
でも母が恐る恐る入れてくれた、ちょっと色の濃いティーバッグの紅茶の方が、やっぱりタカちゃんのハイカラな紅茶より、一味も二味も美味しかった。
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あなた❢ご飯にする?それともお風呂になする?それとも♡・・・
志村けんさんの夫婦コントで「研ナオコさん」とのやり取りを思い出します。
面白かった❢
けど「ご飯・・お風呂・・」このセリフも昭和遺産かも?
この時代、中々、自営業ならともかく
専業主婦でって言うのも生活していけないご時世だと思う❢
最も、主婦の方達も昔に比べれば働き易くなったんでしょうか?
今や、年金暮らしの私・・
一度はこんなふうに言ってもらいたい気もする。
あなた❢ご飯にする?それともお風呂になする?それとも♡・・・
でも、言われたら、言われたで、お尻の穴が、くすぐったいけでねぇ❢
確かに確かに、これまでの人生、おママゴト遊びのような台詞を掛けられたことなんて、ついぞなかった気がいたします。
そんなもんよ!
でもそれもホンモノノ人生って奴なんでしょうねぇ。
たまに、ごっこ遊びの相手をさせられる事があるんですけど、子供の想像力や観察力に可笑しくて脱帽⤴️
子どもには大人になると見えなくなっちゃう、そんな神秘の視力や思考力があるんですものねぇ。
一つ年を取って大人になるにつれ、そんな純粋な眼球と心のメガネも、見なくってもいいものを見ちゃったり、考えなくたっていいことに心惑わされるたび、自ら曇りを生じさせちゃってるのかなぁ。
小さい小さい頃 ブログの写真のように 外でシートを敷いて 妹とママごと遊びをしてました。「あなた〜」な〜んて会話はないけど 葉っぱや泥や小石を使って 専ら料理作りの真似事ばかり。
その甲斐あってか 数年後には台所に立ってました(笑)
楽しかったなぁ〜。あの光景は忘れないです。
誰もが通った道ですよねぇ。
大人に憧れたものまでしたよねぇ。