「缶蹴りストライカー」

「トシ君、み~っけ!」。
何につけても鈍くさく、いつも要領の悪いトシ君。
この日の缶蹴りでも、真っ先に鬼役のマー君に見付かった。
だがさして悪びれるでもなく、鬼の陣地に捕らわれたまま、呑気に鼻糞を穿っている。
昭和半ばのTVゲームも携帯電話も無い時代。
あの頃の2月と言ったら、今とは比べ物にならぬほど寒かった。
とは言え、ダウンのジャンパーやフリースも、ましてやヒートテックなる優れた下着など、あろうはずもない。
それこそ半ズボンに、毛玉だらけの擦り切れたセーター一枚。

思えばいつも、膝頭が粉をふいたように、皮膚が乾燥して白くなっていたものだ。
それでも寒さなんて糞食らえってな調子で、絶えず走り回っていた。

お母ちゃんも「そんな薄着なんかで、風邪でもひいたらどうするの!」なんて心配するどころか、むしろ「子どもは風の子!とっとと外で遊んでおいで」と追い立てられた口だ。
鬼役の機敏なマー君は、次なる獲物を捕らえようと、周りを警戒しながら陣地を離れ、鳥居へと向かった。
…まずい!
狛犬の台座の裏側に身を潜めるぼくの方へと、一歩ずつ近付いて来るではないか!
こりゃ一大事。
マー君は、拝殿に向かって左側、つまりぼくが身を隠す反対の狛犬へと、突然踵を返した。
「やった、今だ!」。
ぼくは一瞬の隙を突き、一目散に駈け出した。
だがすぐにマー君に気付かれ、後を追われる。
しかもマー君は、仲間内で一番の俊足だから、ぼくにとっちゃあ分が悪い。
既にもうぼくの横に並んでいた。
しかしどうにかこうにか、マー君が缶を足で踏みつけようとする寸前。
ぼくは滑り込みながら、缶を大きく蹴り出した。
「トシ君、今だ、早く逃げろ!」。
ぼくは缶とは逆の木立へと身を隠した。
そしてこっそり様子を窺う。
するとマー君は、缶を蹴り戻しながら陣地へ向かっている。
はて、肝心のトシ君は?
あっ!
あ~あ。
よりによって缶を飛ばしたその先の、さい銭箱の陰に頭隠して尻隠さずで、潜んでいるではないか?
つまりトシ君は、缶の飛んだ方角に向かったことになり、そのすぐ後ろから缶を取り戻しにマー君が追ったわけだ。
ならばあの如才ないマー君のこと、トシ君の潜伏先を見逃す筈もない。
すると案の定「トシ君、み~っけ!」とマー君の声。
ぼくのせっかくの苦労も水の泡。
一事が万事いつもこんな調子で、ぼくらは寒の砌をものともせず駆けずり回ったものだ。
それから4年。
いつも一緒だったトシ君やマー君とも、何度かのクラス替えでいつしか疎遠となり、互いに6年生になっていた。
そして迎えた卒業前の、最後の球技大会。
真冬恒例、サッカーの試合である。
僅差で迎えた終盤。
相手チームの選手が、機敏な身のこなしで、ぼくらのディフェンスを掻い潜り、見事なミドルシュートで決勝ゴールを決めた。

それがあの、何につけても鈍くさく、いつも要領の悪かったトシ君だったのには驚き。
ぼくは負けた悔しさよりも、トシ君の大いなる成長振りに、ただただ目を瞠った。
このブログのコメント欄には、皆様に開示しても良いコメントをドンドンご掲示いただき、またその他のメッセージにつきましては、minoruokadahitoristudio@gmail.comへメールをいただければ幸いです。
昔の遊びって・・
健康に良いし!お金もかからないし・・
誰が?考えたのか?
ホント!振り返ってみると、今と違って子供心にふれあいを感じられた気がする。
わたしが好きだったのは「はないちもんめ」
♬あの子が欲しい♬この子が欲しい♬
幼い頃、可愛かった、ハナ垂れモもっちは、引っ張りだこだったな~~ぁ⤴
えっ?今は想像も付かない・・
そりゃぁ~❢当時の事、皆さん知らないからねぇ!
言ったもん勝ち・・
やっぱりなぁ!
「はないちもんめ」もフォークダンス同様、あわよくば女子と手をつなげるかもって、どうせそんな姑息な考えで頭ん中一杯だったんでしょうねぇ。
缶蹴り 小学生の頃 通学団のメンバーでよくやってました。先輩に逃げる場所を教わったりしながら。それも薄暗くなるまで。
誰かが缶に向かって走り出すと ワクワクしたりして。
小学校を卒業するまで とにかくよく走り よく動いてました。学校の体育や放課の時間や帰宅後に。まぁ今でも息子を追ってダッシュしてますけどね(笑)
40歳の頃 町内の運動会に出なきゃいけなくて… それもリレーに。
走り切ったけど その時に思い知らされました。
頭の中のイメージと体とは別物だという事を!
そうそう、頭の中のイメージ通りには、この年になるとなかなか思い通りに体が付いてゆかないものですよねぇ。
確かに実感しています。
子供の頃って、けっこう転校して行ったり、して来たりってありましたよね。そういう子は同年会や同窓会にも姿を見せないので会えません。アルバムにだけ残っています、、、。
たまさか同じクラス、同じ学校という括りの中に居合わせただけ。
そんな一期一会がたくさんありましたよねぇ。って、今でもそうですが!