「火鉢とおニューのセーター」

「あ~あ。折角のおニューのセーターが、雪でベッタベタやないの!」。
―ええ~っ!何を今さら~っ!―
暦の立春は過ぎても、余寒の寒波も侮れない。
今ほど優秀な気象衛星も無く、天気予報の当たる確率など、格段に悪かった昭和の半ば。
恐れ多くも当時のわが家で、天気予報を司るのは、今太閤ならぬカカア殿下の母であった。
つまり前夜のテレビで見た「ヤン坊マー坊天気予報」の記憶と、あくる朝の母の機嫌の良し悪しと、永年の勘働きだけで、その日の予報のお告げが下されたのだ。

やれ、ツバメが低く飛んだとか、やれ、西の山並みが霞んで見えたとか。
そうして母が下したわが家の天気予報には、例えそれがどんなに疑わしくとも、もはや父もぼくも異を唱える事など出来はしない。
だから朝から快晴の日に、ぼくだけ傘を持って登校し、みんなから散々笑われたり、逆に「今日は降れへん!」の一言で、傘も持たずに送り出され、濡れ鼠で帰ったこともしばしば。
すると、「たぁーけやねぇ、この子は。こんな日に傘持ってかんでやわ」と。
―じゃあ、どーすりゃぁいいのよ、まったく!―
しかし、仮そめにもそんなことを口にしようものなら、何倍ものお小言をクドクドネチネチと、いつまでも捲し立てられるがオチ。
だからひたすら、触らぬ神に祟りなしと念ずる他ない。
その日は朝からよっぽど虫の居所が良かったのか、「今日は冬晴れのええ日やで、この白いおニューのセーター着ていき。バス停前の洋品店で、特売やったで買っといたんや」と母。
「おニュー」とは、昭和半ばの造語の一つ。
文字通り新たらしいの「ニュー」に、ご丁寧にも「お」を付けて呼んだものだ。
しかしそれも束の間。
給食の時間になると、北風が強まり一気に伊吹颪が流れ込み、瞬く間に鈍色の空となった。

すると案の定、下校時刻には鈍色の雲の裾が解け、大粒の牡丹雪が降り出したではないか!
白く染まり始めた畦道を、懸命に駆け家路を辿る。
しかし牡丹雪は容赦なくおニューのセーターに纏わり付いた。
「たぁーけやねぇ、この子は。こんな日に選りによって、おニューのセーターなんか着て行くでや」と、母がしれーっとした顔で宣うた。
さすがにこの日ばかりは、母の責任転嫁にただただ舌を巻いたものだ。
「もうさっさと脱ぎなさい!火鉢で乾かしてやるで」と、母は牡丹雪が溶けてベトベトになったおニューのセーターを、火鉢の真上を横切る物干し用の紐に吊るした。
冬場は洗濯物が乾かぬため、わが家の茶の間には物干し用の紐が張られ、冬の日差しで乾き切らぬ、厚手の股引やらメリヤスが吊り下げられていたものだ。

ぼくはいつしか炬燵で、転寝を決め込んでいたようだ。
すると台所から母の声が!
「ちょっと!焦げ臭いやないの!」と。
慌てて目を覚ますと、物干し用の紐があまりの重さに耐えかねて弛み、おニューのセーターが火鉢を覆っているではないか!
せっかく特売品とは言え、やっと買って貰えたおニューのセーターが、たった一日でこげ茶色!
「あ~あ、あんたが居眠りしとるもんでやわ!」と、無常すぎる母の声が、さらに追い打ちをかけた。
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何を隠そう!
私の子供の頃のあだ名が「ヤンマー」でした。
勿論、テレビのCMヤンマーデーゼルの天気予報からあだ名が付きました。
物凄く長寿CMですねぇ!
オカダさんはやはり「ミノ君」でしたか?
昔は、何のひねりもなく大体、みよじか名前からのあだ名でした。
だけどさ~ぁ⤴
そう考えると、落武者って見た目だよねぇ!
まぁ~⤴それもアリか!
でも誰が名付けたんだか、「落ち武者殿」なんて、なんとも時代がかってて素敵なあだ名じゃないですかぁ。
だってそんじょそこらじゃ聞きませんもの!そんなあだ名!
おニューという言葉、久しぶりに聞きました。昭和ですねー!火鉢も昔の実家にありました。祖母が亡くなってからは使うこともなくなり、物置にしまわれた気がします。
あの火鉢のほんのりとした温もりって、穏やかな温かさでしたよねぇ。
火鉢には、お湯を沸かす仕掛けがありました。祖母はそこで得られたお湯でコーヒーを入れてくれたものです。ただし、火鉢に内蔵された大型容器は内部を洗えたのでしょうか。謎です。
火鉢にも色んな種類があるようですものねぇ。
銭形平次親分の長火鉢みたいなのを前に、鯔背に胡坐をかいて盃でも傾けたいものです。
『 ♬ ぼくの名前はヤン坊 ♬ ぼくの名前はマー坊 ♬ 』の天気予報
子供の頃は母が『明日は雨やで 傘持ってかないかんよ〜 』と 夕飯の時に教えてくれましたが、翌朝には すっかり忘れてしまって 、、、
今は 携帯アプリでの アメダスが自転車通勤の私には おお助かり (◍•ᴗ•◍)❤
子供の頃 しもやけで痛く 冷えた足を 寝そべって火鉢に くっつけてました~
( ꈍᴗꈍ)
雪合戦で濡れた靴下や手袋を火鉢の端で乾かすつもりが、焦げてしまった イヤーな思い出も (╯︵╰,)
あの 焦げた臭い 独特ですよね〰〰〰
やっぱりみんな同じような体験をしているものですよねぇ。
いずれも懐かしくて恋しい、昭和の光景ですねぇ。
あっちゃぁ〜!!、災難続きの一日でしたね。でも、お母さんの「焦げ臭い!」のひと声が無かったらオカダさんが丸焦げだったかもよぉ。
仰る通り!
大人になってからは、セーターをタバコの火で焦がしちゃったこともありましたねぇ。
火鉢だ〜。これまた懐かしや〜。
自分の家にはなかったけど 九州に住むおじいちゃんの家にはあって 年末に行くと いつも火鉢に金網を置いてお餅を焼いてくれました。炭の香りやほのかな暖かさ…
良いですよね〜
ウトウトしちゃう( ◠‿◠ )
確かに火鉢でこんがり焼いたお餅って、オーブントースターで焼いたのとは、明らかに香ばしさが違って感じられた気がしますねぇ。