「メリケン粉ってうどん粉?」

昭和半ばの茶の間の洋食と言えば、言わずと知れた「お母ちゃんのカレー」を置いて他にない。
どの家庭にも、それぞれお母ちゃんの味があったはずだ。
わが家がカレーの日は、直ぐに分かった。
だってどう見ても3人家族にゃ手に負えぬ、大きな真鍮色したアルマイトの鍋が、ガスコンロの上でグツグツ煮立っていたのだから。

それにカレーの日は、月末の父の給料日後と相場が決まっていた。
「ちょっとお父ちゃん。ボーッとそんなとこに突っ立っとらんと、メリケン粉取ってまえん」と母。

「えーっと、このうどん粉のことか?」と父。
母のメリケン粉に対し、父はすかさずうどん粉と切り返す。

すると母は、カレールーを半分だけ鍋に入れ、ひとしきり掻き混ぜる。
そして今度は、父曰くうどん粉であるところのメリケン粉を、鍋の上から振り掛けるようにして入れ、再び掻き混ぜながら塩を摘み入れ味を調えた。
大人になって分かったのだが、それはカレールーの箱に書かれた、レシピ通りではなく明らかな掟破り。

本来なら全部入れなければならないカレールーを、母は半分だけにケチり倒し、うどん粉ならぬメリケン粉で水増ししていたという事だ。

だからわが家のカレーの色は、食堂入口のショーウィンドーで見かける、蝋細工のカレーの深い茶色とは異なり、妙に薄っぺらなレモン色をしていた。

だが母はそうして、厳しい家計の遣り繰り算段をしていたのだろう。
「いっただきー…」。
手を合わそうとした寸前。
間の悪い事にお向かいのオバチャンが、コロッケのお裾分けを持ってやって来た。

特に長話で知られるオバチャンである。
すると嫌な予感は見事的中。
皿に盛り付けられたカレーライスを前に、父と二人成す術も無くお預け状態。
どれほどオバチャンの、碌でもない与太話が続いたろうか。
次第にカレーの表面が、波を打ったような状態に固まり始めた。
まるで大きなオブラートで、覆い被せたようにである。
大人になってそれも判明したのだが、カレー粉をケチって小麦粉で水増ししたから、小麦粉がカレー表面を覆う被膜となったのだ。
「ゴメン、ゴメン」と母が、卓袱台に着いた頃には、カレーライスもすっかり冷め、オブラートの幕が張り巡らされ、目も当てられなかった。
メリケン粉とうどん粉、それに小麦粉。

どれも同じではあっても、ぼくの愛した昭和には、やはりメリケン粉やうどん粉の呼び名の方が、親しみもあり懐古的でお似合だ。
そう言えば、子どもの頃のカレー皿が、今も1枚だけ手元に残っている。
やや深めの大皿で、底に大きなバラの花がいくつも描かれた、大量生産の安売り品だ。

母の遺品整理の際に、押入れの隅で見つけた代物。
今でも時折、お母ちゃんのカレーを真似、その皿に盛っては見るが、母のあの味には到底及ばない。

どれだけ母のメリケン粉や父のうどん粉の隠し味を足そうにも、記憶の彼方のお袋の味には、もう二度とたどり着けそうにない。
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カレーって
大体の家庭が市販のカレールーを使っているのに
何故か?
味がそれぞれの家庭で味が違うと思う
不思議です、家庭によって愛情のスパイスが違うのか?
私は、沢山ジャガイモが入っているのが好き!
そう言えば、よほどの事がない限り外食でカレーって食べない気がする。
カレーで有名な○○一番も20年以上食べてない!
どちらにしても家カレーが一番美味しいねぇ!
確かにその家その家のカレーの味ってぇのがあるんでしょうねぇ。
それもまた、紛れもないおふくろの味。
ぼくも外食でカレーなんて、もうかれこれ随分食べてませんねぇ。
子供の頃、オリエンタルカレーの宣伝カーが近所に来てました。腹話術を見せてくれた後、カレールーの販売。その日の朝には、空からビラが撒かれ上を見ながら拾い集めたりして。そんな時代もあったんだよねぇ。今じゃ考えられんけど。
ありましたねぇ。
セスナで大空から、間延びしたアナウンスが聞こえてきたものでした。
懐かしい!
あったあった、セスナ機からのビラ撒き。子供同士で拾いに走り回りました。今では考えられない光景ですね。僕らのところは家具屋さんの広告でした。
うどん粉カレーもいいですね。今のカレーはスパイシー過ぎると、オジイの僕は思います。
うどん粉カレーももう一度食べたいにゃあ変わりありませんが、やっぱり胸焼けしちゃいそうですねぇ。
カレーといえば我が長男の笑い話が…。
食べる事が大好きな長男は 私が料理を作ってると 『今日のおかずは?』って感じでキョロキョロウロウロ。
なんなら冷蔵庫からお肉を出してくる。
ある日 ジャガイモと玉葱とにんじんを切って煮込み始めたら 自らカレー粉を持って来て「カレー!」とアピール( ◠‿◠ )
「でもね 今日は肉じゃがなんだよ。ごめんね。」と言いながら糸蒟蒻を鍋に入れると そっとカレー粉を置いて部屋に戻って行きましたとさ。
そりゃあまた物分かりがいいじゃないですか!
一瞬ぼくは、肉じゃがをカレーに仕立て直されたのかと思っちゃいましたぁ。