

蔓を頼りに薮に入り 宝探しの三国山
美味し山薬滋味豊穣 摺って自然薯掬そうや

土岐津鶴里年初め 家長振る舞う出世芋
子らの行く末希う 縁起担ぎの親心
「香港フラワーの花束」

昭和半ばの冬のある日。
玄関脇の小さな花壇で、父は通りすがる老婆と、親しげに立ち話を交わしていた。
すると父は、花壇から花を摘み取り、老婆の両手にそっと握らせるではないか!
いかな子どもとは言え、さすがに見てはならぬ光景かと早合点し、自転車小屋の戸口に隠れ顔を伏せたものだ。
すると老婆はよほど嬉しかったのか、奇妙な金切声を発し、切り花を胸に抱えてうっとり見詰めながら、トボトボと去って行った。
その事件の2ヶ月前。
子供会のクリスマス会が開かれた。
もちろん一番の愉しみは、プレゼント交換の抽選会。
己の持参した物以上の戦利品を獲ようと、世話役のおばちゃんの一挙手一投足に固唾を飲んだ。
「次は、23番!」。
おばちゃんがぼくの番号を呼び上げた。
「どうか神様、玩具でありますように!」と、心の中で八百万の神々に念じる。
そして恭しく、長細い段ボール箱を受け取った。
外観から察するに、間違いなくプラモデルだと確信。
徐に包み紙を破り、段ボールの上蓋を開いた。
すると現れ出でたる物は、確かに同じプラスチック製品には違いないが、ぼくの淡い期待は瞬時に吹き飛んだ。

それは当時一世を風靡した、「年中枯れないホンコンフラワー」。
どこの家でも、便所の一輪挿しやら、お茶の間の白黒テレビの上とかで、埃を被り見向きもされず、放置されていたあれである。
せめて女子に当たるならまだしも。
しかし八百万の神々は、そう易々と「勝手な時だけの神頼み」を、お許しになるほど甘くはなかった。
仕方なく家に持ち帰ったものの、放ったらかしのままで、すっかり忘れ果てていた正月明け。
冬枯れたままの小さな花壇に異変が。
真っ赤なバラや黄色のディジー、それにピンクのライラックに赤のカーネーションが、吹き荒ぶ木枯らしをものともせず、なぜかそこだけ春爛漫の百花繚乱ではないか!

目の錯覚かと花弁に触れれば、「汚れても洗えば元通り」が売りの、あの「ホンコンフラワー」だ!
父は冬枯れた花壇の侘しさを見かね、空き缶に石を敷き、そこにホンコンフラワーを差し、上からコンクリートを流し固め、ご丁寧に花壇の中に埋め込んだのだ。
「こんならどんなに北風が吹いても飛ばされんで」と。
ホンコンフラワーを抱え嬉々とした、老婆の姿が見えなくなるのを待ち、ぼくは自転車小屋から顔を覗かせ父に問うた。
「あれっ?せっかくお父ちゃんが植えた、あのホンコンフラワーは?」。
すると父は、「日曜のたんびにやって来る、独り暮らしだと言う婆さんがおってな。あの花眺めては、いつも飽きもせんとニコニコして、『♪は~るが来た、は~るが来た』って、嬉しそうに歌うんや。だで『そんなにお好きならどうぞ』って、さっきペンチで切って差し上げたんやわ。こんな凍えそうな日でも、あんな安物のホンコンフラワー眺めとるだけで、お婆さんは本物の春が来たように、温もりを感じるんと違うやろか」と。

父はいつまでも、老婆の去った道を見つめていた。
―いつか来た道―
それは遠からず誰しもが、やがて行く道。

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ホンコンフラワー
懐かしい!
昔、我が家にもありました。
ガラスケースに入ったフランス人形
それと同じくガラスケースに入った日本人形
その間には花瓶に入ったホンコンフラワー
整理タンスの上に飾ってありました。
そんな感じで飾ってあったのは我が家だけ?
世界遺産ならぬ昭和遺産だと思う!
どこのお宅にも年がら年中枯れない、ホンコンフラワーがあったものでしたよねぇ。
子どもの頃のわが家の和式の便所にも、誇りまるけのチューリップが一輪挿しに入っていたものです。
あの造花、香港フラワーって言うんだ。我が家にもありましたよ。お水不要、しかも枯れない。だからついつい、放ったらかしにしちゃうんですよねぇ。
愛でるのは最初の内だけ。
枯れもしなきゃ、萎れもしないんですもの。
その点ホンモノの植物は、切り花になって命を絶たれてしまったとは言え、花瓶の底の水をひたすら汲み上げ、命の灯火が燃え尽きるまで、美しくいようとしてくれるところが健気なんでしょうね。
イントロの自然薯は東濃の名産品なのですね。私は去年、長芋を畑に植えました。その年は、病気にかかったためか、枯れてまって放ったらかしにしていたら、今年は見事に葉が茂りました。ムカゴもよーけ出来ました。晩秋の収穫が楽しみです。
ご尊父さま、優しい方だったのですね。ホンコンフラワーのお話はホッコリしました。
ムカゴの炊き込みご飯なんて、なんともハーベストな感じがしちゃいますねぇ。
これまた懐かしい!
我が家のトイレにも 小さなクリスマスリースのような形をした緑色のものに赤い花がついた飾りが置いてありました。
少し白っぽくなってたっけ(笑)
今でも100円ショップに まるで本物のような花々がたくさんありますよね⁈
本物じゃないとわかってても 近づいて見てしまいます。
老眼だからですけどね!( ◠‿◠ )
本当は心と時間と暮らしにゆとりを持てたら、野辺に咲く草花を一輪摘んで、食卓や玄関に飾ったりしたいものです。
しかしそんな野辺も周りにありませんけどねぇ。
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