
郡上八幡の町中を後に、川沿いをのんびり南へと向かう。
つい先月までは、わずかに歩を踏み出すだけで体中汗まみれだったのに、川面を滑るように吹き抜ける風がなんとも心地よい。
両岸に迫る小高い山は黄色く色付き、鱗雲の空に鳶が悠然と輪を描く。

『こんな景色でも眺めながら、温泉三昧と洒落込みたいものだ』と、ちょうどそんなことを思っていた矢先、街道沿いに現れた一軒の店に目が吸い寄せられた。
通りに面した大きな硝子窓から中をこっそり覗き込む。
そこには少し陽に焼けた四角い槙風呂が。

我が家に初めて内風呂がやって来た日の記憶が鮮やかによみがえる。
もう40年以上も経つだろうか。
我が家は父母とぼくの三人家族。
伊勢湾台風で全てを失い、名古屋の片隅にあった公営住宅で暮らしていた。
新築平屋の一戸建てと言えば聞こえはいいが、実情は六畳二間に小さな台所と汲み取り式のトイレだけ。
当然、風呂など贅沢な設備は無く、近くの銭湯へとせっせと通ったものだ。
「いつかは内風呂を!」。
それが両親のささやかな夢だった。
父は日曜が来る度に、安普請の風呂小屋造りに取り組んだ。
それでも3ヵ月もすると、それなりの小屋が建ち上がり念願の槙風呂が据え付けられた。

父から母への、最初で最後の最大のプレゼントだったかも知れない。
ついに我が家に、内風呂開きの日が訪れた。
もう記憶に無いのだが、恐らく父と母は互いに一番風呂を譲り合ったことだろう。
「なんだか槙風呂が懐かしそうやね」。
いつの間にか女将が顔を覗かせ、ぼくに語りかけていた。
「昔はどこもこんな木桶のお風呂やったもんね」。
郡上市八幡町吉野の郡上八幡工芸「たにぐち」。
店内にはズラッと匠の技で仕上げられた工芸品が居並ぶ。
谷口秀子さん(61)は、女将と言うよりも匠の技を語らせたら、ちょっとした工芸館の館長のようだ。
「湯を張ると独特な木の香りに包まれ、何や心も身体も癒されるようでええもんやて」。
秀子さんは昭和22(1947)年に、長良川に架かる法伝橋を渡った村で生まれ、20歳の年に建具師の武一さん(69)の元に嫁いだ。
「知らん間に、親たちが勝手に決めとったんやて」。
やがて二人は一男三女を授かった。
「主人と二人して頑張った甲斐あって、やっと跡取り息子に恵まれたんやて。もう技術はすっかり身に付いて一人前やけど、肝心要の嫁さんの来てがないんやわ。どこかに誰ぞええ人おりませんやろか?」。
母はいつまで経っても、腹を痛めた我が子の行く末を案ずるものだ。
「ここのは、みんな地元産の銘木やに。5年ほどかけて自然乾燥してから、材の特徴に応じて箪笥とか座卓にするんやて。釘一本使わぬ蟻組みの技で組み立て、最後に拭き漆で仕上げれば完成」。
自慢の夫と息子が造り上げる郷土の建具。
秀子館長は心なしか誇らしげに、秋晴れの郡上の空を見上げた。

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たにぐち工芸店、ホテル郡上八幡のすぐ近くで同じ区になります。この区を千虎(チトラ)と呼び当社の名前も千虎観光と命名してあります。
奥美濃に春を告げる3月の「千虎甘酒祭り」も有名です。オカダさんは取材された事はありますか?
当日は仕込んであった甘酒が飲み放題のイベントです。
「千虎甘酒祭り」は存じ上げませんでした。
待ち遠しい春を祝うお祭りですかぁ。
新しい木の香りは良かったですよね。壁はその頃の流行りでしょうかタイルでした。どこかの旅館で気に入ったのか 一角に石の庭園風シャンプー置き場があって牛乳石鹸置き場もありました。
そういえば「ここにはのせんといてくれ」と言われたような気もしてましたけどいつの間にかシャンプー置き場とリンス置き場と石鹸置き場になってました。懐かしいです。
何とも庭園風の家風呂なんて、毎日が温泉気分で豪勢ですねぇ!
ついつい長湯してのぼせそうですよねぇ。
よく2時間とか長風呂する人っているけど
そこまでは長くないけど・・
奥飛騨の焼岳に泊まった時に、立ち湯があって結構、深くって
誰も他に入浴するお客さんが居なかったので
泳いじゃいました。勿論!潜りました。
気持ち良かった!
まだまだ心は少年だねぇ!
焼岳っていいですよねぇ。
ぼくもロケで雪の降る露天風呂に入れていただいたことがありましたねぇ。
大きな湯船の銭湯もいいけれど、やっぱりうち風呂はいいよねぇ。雨降りの心配がいらない。せっかくお風呂に入ったのに帰りに雨に濡れたら元も子もないもんね。
ましてやこんなコロナ禍ですから、家風呂、家メシ、家呑みが益々よくなっちゃいましたぁ!
3, 4歳の頃 滋賀県から刈谷市に引っ越しして最初に住んだ二軒続きの長屋には内風呂が無く 何故か庭先にありました。もちろんトイレも。不思議とも思わず暮らしてたけど 次に引っ越した長屋には トイレもお風呂も家の中!ビックリしたのを覚えてます。でも洗濯機は外でしたけどね!
懐かしいものですよねぇ。
そんな今では考えられない生活様式で、ビクともせず暮らしていた昭和って、やっぱりぼくにとっての心の故郷です!
いまは、プラスチック製の浴槽。20年ほど前からです。それ以前は木の浴槽でした。旧安八郡結町に浴槽を扱うお店がありました。結小学校の旧国道21号線を隔てた斜め東側に、その店がありました。杉の木で拵えた浴槽でした。オカダさんのエッセイにもあるように、とても良い香りがして入浴が最高の息抜きでした。あ〜
木製のお風呂って、とってもホッコリさせられちゃいますものねぇ。
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