
「きっと左が旦那で、右の華奢な方が嫁さんなのかなぁ?」。
健気に寄り添うような長良川源流の名瀑「夫婦滝」。

17㍍の落差で大日岳に清められた聖水が、滝壺へと一直線に注ぎ込む。
一面真っ白な雪化粧、眼前の苔生した岩肌を氷柱が覆い尽くす。

このわずかに上流、長良川源流の碑からほどない場所に、一つ目の橋とされる下ノ叺橋はあった。
だがどこをどう見渡してみても、人っ子一人現われるわけではなく、人家すら一軒も見当らない。
ただ大日岳の清流だけが片時も休まず、寡黙に太平洋を目指し下り続ける。
「父が荘川村からここへ移り住んだ戦後間もない頃は、まだ周りに5~6軒しか家がなかったんやて」。

郡上市高鷲町の分水嶺東側、ペンション・喫茶「わたすげ」を営む直井はるみさんは、テーブルにコーヒーをセットしながら笑った。

はるみさんは昭和25年、営林署に勤務する父の元で一人っ子として誕生。
中学を出ると愛知県木曽川町の繊維関係に就職。
郷里に残した両親を案じながらも、高度経済成長に沸く時代を謳歌しながら娘時代を送った。
昭和46年、隣りの集落から信一さんを婿に迎え、3人の子を生した。
「結婚してしばらくしてから、母と民宿を始めたんやわ。スキー客目当てで、たったの5室やったけど」。

名古屋や関西、遠くは四国からも常連客の学生たちが訪れ、小さな民宿は若者たちの笑い声で賑わった。
「まあちっさな民宿やったで、お客さんもみんな家族みたいなもんやって」。
学生たちもやがて社会人に。
そして結婚。
今度は夫婦や家族ぐるみで訪れるようになった。
「みんなからお母さんお母さんって呼ばれて。本当の母親みたいに慕われるもんやで、ついつい情が移ってねぇ。今では親戚以上の親戚付き合いやわ」。
昭和62年には、老朽化した民宿を建て直し、現在のペンションへと改装を済ませた。
「平成になって間もない頃やったかなぁ?愛知県からスキーに来とった男の子から電話があったんやて。『ぼく結婚することになったで、お母さん仲人しに来てくれんか?』って。最初は戸惑ったけど、これも何かの縁やろし夫婦で仲人させてもらったんやて」。

はるみさんはカウンターの中で、真っ白な湯気を上げながらコーヒーを淹れる夫を見つめた。
ストーブで温まった喫茶店の店内。
窓ガラスを結露が伝い、一筆書きのような奇妙な文字を残しゆっくりと流れ落ちて行く。

降り積もった雪に埋もれる分水嶺公園。
白樺林を縫うような小川が、ここを境に日本海と太平洋とに流れを分かつ。
右へ進路を切れば日本海。

左へ向かえば太平洋。
か細い大日岳の清流は、山を一挙に駆け下りやがて大河となり、それぞれの大海を目指し大いなる旅を続ける。
人の一生もこれまた然り。
何時か何処かで分水嶺のような分岐点に差し掛かかっては、時の勢いや風を読み進路を定める。
善くも悪しくも、流れに抗うことなど叶わぬのが人の道。
「実の子は3人やけど、民宿のおかげで沢山の子を授かった気がするんやわ。だから雪が降り始めると『ただいま~っ!』って声がして、今にも誰かかれかが帰って来る気がしてならんのやて。だからいつ帰って来てもいいように、取って置きの『お帰りっ!』を用意しとかんと。だってわたしはあの子らにとって、雪国の母なんだから」。
長良の源流で出逢ったはるみ母さんは、今夜もスキー客を母の深い慈愛で包み込む。

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『ふたりの長良川』を聴かなきゃね(*^^*)
どうかたまにゃあ聞いてあげてくださいね。
滝って癒されるよね~ぇ!
私の様にくすんだ心が滝の水と一緒に流れて行くようで・・
滝壺には落ちないようにしないとねぇ!
そりゃぁ~さぁ!
66年も生きてると色々あるわさぁ⤴
柳のように風の吹くまま揺らいでいれば良いんだろうけどねぇ!
残りの人生、少しだけ頑張るか~ぁ⤴
そうそう!
頑張り過ぎずに自分らしく自分を信じて頑張りましょうや!
若い頃は、海水浴やスキーで民宿を利用した事があります。ある時、夜行列車でスキー場へ。駅に民宿の車が待っていてくれて民宿へ。到着後、朝早いのにも関わらず食事を用意してくれていたり、スキー場まで送り迎えをしてくれたりと、至れり尽くせりなおもてなしが有り難かったですねぇ(•ө•)♡
民宿って人肌の温もりが感じられて、とっても温かだった気がしますよねぇ。
民宿… 思い出してしまった〜恋バナ♡
短大生の時 社交ダンス部の合宿で肉離れを起こし 2階の部屋に戻るのが毎回困難だった私。その時 憧れの先輩がお姫様抱っこで運んでくれたんです。
心臓の鼓動が先輩に聞こえそうなくらいドキドキしちゃって(笑)
キャ〜!おばさんがキュンキュンしちゃいました(大笑)
懐かしいなぁ〜
アッチャー!
お姫様ダッコですかぁ!
文字通り素敵な青春の一ページですねぇ。