昭和がらくた文庫89話(2018.04.26新聞掲載)~「古川やんちゃと男酒」

「♪元気を出して ワッショイ!」。

春の氏神様の祭礼を盛り上げる、子ども神輿が漫ろ行く。

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しかしこのところの少子化で、神輿の紅白紐を引く子どもらの数が、とんと少ない。

少なくともぼくが育った昭和半ばは、紅白紐さえ握れない子供もいたと言うのに。

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だが少ないながらも、法被姿に捩じり鉢巻きをした子どもたちの目は、半世紀前のぼくら同様、キラキラと輝きを放っていた。

首から吊るした小さな雷太鼓を打ち鳴らし、胸を張って誇らしげに、神輿のお先手を(つとむ)る子。

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そして嬉々として、拍子木で合の手の()を入れる子。

いずれ劣らぬ、小さいながらの男ぶりだ。

やはりこの国に産まれし、老若男女すべての者たちには、祭囃子に血が騒ぐ、そんな遺伝子が組み込まれているのだろうか。

「わしら飛騨古川の(おとこ)(しゅ)は、一年が起し太鼓のためにあるようなもんやさ」。

と言って、湯呑に注いだ冷酒を、真昼間っから煽るじ様。

若かりし日の(おの)が姿を重ねるように、下帯姿で付け太鼓を大きく揺らす、血気盛んな若衆を見やった。

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「わしらぁは、古川やんちゃやで!」。

4月19日、午後9時。

飛騨市古川町のまつり広場に、下帯だけの裸男たちが数百人も繰り出し、酒臭い息を吐きながら、腹の底から祝い唄を謡い上げる。

ついに起し太鼓の人山が、地鳴りのような大太鼓に煽られ動き出した。

そこを目掛け、町の辻々から付け太鼓を掲げ持った男衆が、町の威信を背負い、大太鼓の櫓に我先に、激しい体当たりを繰り返す。

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これぞ飛騨の古川やんちゃどもの、年に一度男気を鼓舞する、神聖なる春祭りなのだ。

遠巻きに眺める、多くの老若男女が、その迫力にただただ気圧されながら、飛騨古川の夜は深まり、何人もが恋い焦がれた、大いなる春の訪れに酔いしれて行く。

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投稿者: okadaminoru

1957年名古屋市生まれ。名古屋在住。 岐阜県飛騨市観光プロモーション大使、しがない物書き、時代遅れのシンガーソングライター。趣味は、冷蔵庫の残り物で編み出す、究極のエコ「残り物クッキング」。 <著書> 「カカポのてがみ(毎日新聞社刊)」「百人の天職一芸(風媒社刊)」「東海の天職一芸(ゆいぽおと刊)」「東海の天職一芸2(ゆいぽおと刊)」「東海の天職一芸3(ゆいぽおと刊)」「長良川鉄道ゆるり旅(ゆいぽおと刊)」

「昭和がらくた文庫89話(2018.04.26新聞掲載)~「古川やんちゃと男酒」」への14件のフィードバック

  1. 古川起し太鼓を目の前に見た事が有りますよ。以前していた警備の仕事で出掛け夕方5時~明け方5時までの12時間勤務。壮大な太鼓と男衆の重なりあいは眠気も吹っ飛ぶものでしたね。今度は仕事ぬきでゆっくり楽しみたいですね。オカダさんのライブ付きでね(笑)

    1. 大迫力の絵巻物のような一夜ですよねぇ。
      春まだ浅い古川の、あの凛とした空気と冷酒が、起こし太鼓にゃあこれまたピッタリなんですよねぇ。

  2. 私が、御神輿を担いだのは
    後にも先にも、35歳の時に岐阜、本巣のお祭りでした。
    友人に誘われて何て言うお祭りか分かりませんが・・
    あくる日は、肩が痛くて声はガラガラで、ハスキーボイスでした。
    とてもいい思い出になりました。
    友人の実家で食べた手作りの「太巻き」で中にウナギが入っていて
    とても美味しかった!

    1. お祭りの後の直会とでも言いましょうか?そんなご褒美でもあり労いでもあり、いつでも摘める巻きずしなんて、そりゃあもう天下一の美味しさでしたでしょうねぇ。
      ついでに湯呑に冷酒でもありゃあ、申し分ありませんが!

  3. 笛や太鼓の音が聞こえてくるだけでワクワクして、見てるだけでテンションがあがっちゃいます⤴️屋台も大スキ⤴️何を買おうかなぁなんて迷いながら(*^。^*)

    1. お祭りの屋台の夜店なんて、ワクワクドキドキものでしたねぇ。
      今じゃあ条例とやらで、見かけなくなるばかりですが!
      とは言え、屋台を見て回るのは楽しかったものですが、子どもの懐じゃあどれもこれもと手を出すわけにゃあ行きませんでしたねぇ。
      嗚呼、心残りだぁ!

  4. 写真のようなお祭りって 実際に一度も見た事がなくて…。
    心臓の鼓動が速くなっちゃいそう(笑)
    お祭りが大好きで 地元が好きで 仲間が大好きで 一年中お祭りの事を考えてて 少年がそのまま大人になったような ちょっぴりやんちゃさん達なんだろうなぁ〜って 勝手に想像しちゃいました( ◠‿◠ )
    来年こそは どのお祭りも盛大に開催されるといいなぁ。

    1. 古川の方たちにとって「やんちゃ」とは、決して卑下するような意味合いではなく、むしろ最大級男気を称える言葉だとぼくは思っています。

      1. ごめんなさい。
        決して卑下している…という思いは なかったです。
        元気でハツラツとしてて 生き生きしてて 夢浪漫一杯のまま大人になり お酒を酌み交わし お祭りの事を語り合う…
        言葉一つを こんなイメージに捉えたつもりだったんですが。
        ちゃんと考えて載せるべきでしたね。
        言葉の向こうに相手がいる事を忘れずに。

        1. いえいえ、そんな指摘をしたわけじゃありませんよ!
          夢ちやんが捉えていらっしゃる通りの言葉のイメージに相違ありません。
          ぼくのお母ちゃんなんて、「この子は一人っ子でやんちゃなんで!」って、家庭訪問の先生の前でいっつも卑下してましたもの。
          でも先生は「男の子はやんちゃなくらいで丁度いいんですよ」って、フォローされてましたねぇ。

  5. 飛騨古川  といえば  
    ❣️【お酒と起し太鼓】❣️

    今年も 『古川祭り』『どぶろく祭り』も 中止  淋しいですね (。•́︿•̀。)

    どぶろく祭り用に準備していたどぶろくの行き先が? と 今日のニュースで 
     •́ ‿ ,•̀

    さすがに 呑んべえが集まっている
    オカミノファミリーでも 呑み尽くせないですよね 〰〰   ヒロちゃん❣

    オカダさんのライブ 『古川のどぶろくで Cheers !』 なんて ( ◜‿◝ ) ❤

    1. どぶろくはあの何とも言えぬ飲み口に絆され、ついついもう一杯もう一杯と調子に乗って呑んじゃうんですよねぇ。
      しかしその後が大変!
      前後深くで足腰立たず、自分の愚かさを呪うことになりそうですが、それでもあの甘酸っぱい匂いに惹かれちゃうんですよねぇ。
      『古川のどぶろくで Cheers !』なんてぇLiveをやったら、呂律が回りそうにありませんねぇ。

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