昭和がらくた文庫31話(2013.06.27新聞掲載)~「お互い様の持ちつ持たれつ」

「大きくなったら何になりたい?」。

そう親に問われた記憶は、誰にでもあるだろう。

昭和も半ば、物心が付いた5歳の頃。

いつものように、市場へ母と買い物へ。

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その片隅にあるうどん屋が好きだった。

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旨そうな出汁の香を市場中に振り撒き、つい足止めを食らう。

苦虫を噛み潰したような不機嫌面のオヤジが、黙々と麺打棒で玉になったうどん種を伸ばす。

その巧みな手捌きが好きで、いつも眺めていた。

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そして「大きくなったらうどん屋さんになって、父ちゃんと母ちゃんに、美味しいうどんを作ったげる」と、両親を糠喜びさせたものだ。

話は反れるが…。

昔の市場は、店舗配置が実に巧みだった気がする。

なぜならうどん屋の隣には、必ず天ぷら屋か、肉屋の揚げたてコロッケやハムカツが売られていた。

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うどん屋の鰹出汁の香りと、揚げ物の香りが絶妙に絡み合い、胃袋は本能の(おもむ)くままに騒ぎ始める。

日本人の魂を鷲掴みにする、出汁と揚げ物の黄金コンビの香りに、(あらが)いきれもせず素うどんを注文。

そして急ぎ天ぷらやコロッケを隣から調達し、正々堂々と持ち込んだものだ。

でもそんなことは、うどん屋のオヤジとて先刻承知。

持ち込料がどうのとか、咎め立てたりもしない。

少なくとも、うどん屋が天ぷらやコロッケを揚げ、天ぷら屋や肉屋を敵に回してまで、根こそぎ利を貪るような下卑た輩はいなかった。

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昨今の「アベノなんたら」とか。

それに煽られ、利に聡い者が人を制してまで、更に利を追う。

昭和半ばは、今ほど豊かじゃなかった。

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だが皆一様に、情に(もろ)(ほだ)され易く、互いを緩やかに支え合ったもの。

「お互い様の持ちつ持たれつ」。

庶民はその崇高な精神で、激動の昭和を闊歩し続けたのである。

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投稿者: okadaminoru

1957年名古屋市生まれ。名古屋在住。 岐阜県飛騨市観光プロモーション大使、しがない物書き、時代遅れのシンガーソングライター。趣味は、冷蔵庫の残り物で編み出す、究極のエコ「残り物クッキング」。 <著書> 「カカポのてがみ(毎日新聞社刊)」「百人の天職一芸(風媒社刊)」「東海の天職一芸(ゆいぽおと刊)」「東海の天職一芸2(ゆいぽおと刊)」「東海の天職一芸3(ゆいぽおと刊)」「長良川鉄道ゆるり旅(ゆいぽおと刊)」

「昭和がらくた文庫31話(2013.06.27新聞掲載)~「お互い様の持ちつ持たれつ」」への6件のフィードバック

  1. 最近のスーパーも昔の市場と同じく 食材の配置場所を工夫してあり 献立を考えやすいようにしてあったり 目の前で魚を捌いてくれたり…。
    でも やっぱり昭和の人情あふれる商店街がよかったなぁ〜。結局のところ『人』なのだ。『お互い様』なのだ。
    最近 身近でもの凄く悲しい事件があって つくづく思った。何人もの人がすれ違ったはずなのに なぜ声をかけなかったのか?なぜ気付かなかったのか?
    (なんのこっちゃ…ですよね)
    思いやりやお互い様 何処へ

    1. それでなくとも希薄化していた人間関係が、昨今のコロナでますますギスギスしてきている気がしますものねぇ。
      なぁ~んだか!

  2. 若い頃は「そば」が好きだったけど
    今は「うどん」も好きになった!
    歳を取ると若い頃食べなかったけど
    歳取ると何だか?美味しく食べられる物が増えた気がする。
    変わらないのは「プッハァ~⤴」の魅力が今だに分からない!

    1. 「プッハァ~⤴」の魅力の虜にならなくって、それはそれでよかったのかもしれませんよ~っ!
      ぼくなんてほとんど生活習慣病ですもの。トホホ

  3. これはあれですかね。市場のうどん販売は、自販機が出てきて暖かい食べ物が、お金を入れた手軽に食べられることにより淘汰されてしまったのでしょうか。うどんの自販機も昭和40年後半には登場した気がします。なかなかうまかったものですが。モータリゼーションの広がりで大垣市内にあった水門川沿いの露店もなくなったように思います。その延長線上にあるのが、シャッター街の出現でしょうか。便利さの追求の果てがこれです。

    1. ポン吉さんが仰る通りの変遷をたどって今日があるんでしょうが、その過程での学びが活かされる形跡はなく、ただただ儲けの多寡だけを追い求めた結果が、シャッター街の衰退なんじゃないでしょうか?
      今の大型ショッピングセンターだって、あと数十年後にはどんな姿になり果てている事やら・・・。
      まあそれまで生きてはいないんでしょうけどねぇ。

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