「天職一芸~あの日のPoem 442」

今日の「天職人」は、岐阜県高山市八軒町の「十二支人形師」。(平成23年11月12日毎日新聞掲載)

 ちゅういんぼうしん未  ) 申(しん)(ゆう)(じゅつ)(がい)」指を折り         神宮暦を繰りながら 母が賜る御神託              飛騨の十二支人形を 年が変われば取り替えて         「家族の皆が健やかで ありますよう」と母の声

岐阜県高山市八軒町で昭和47(1972)年創業の真工芸。二代目十二支人形師の田中秀人さんを訪ねた。

「お宅、辰年?わしゃ寅やて。ってことは、わしのが二つ上やなあ」などと、まだまだ十二支で生まれ年を呼ぶ場合も多い。

()牛虎()()馬羊猿鶏犬()と。

それらの大半は、家畜であったり、里山で共に暮らす動物たちだ。

古代中国の「()(ちゅう)(いん)(ぼう)(しん)()()()(しん)(ゆう)(じゅつ)(がい)」、十二進法である。 

今年の卯年もあと50日足らず。

来年は辰年を迎える。

すると玄関先や居間に、縁起物として飾られた兎も、来年からは辰の登場となる。

「家の辰は、高山祭りの屋台の、木彫りからヒントを得たものです」。秀人さんが、木版で手染めされた、小さな辰のぬいぐるみを差し出した。

「生木綿に木版で染め付け、高温で色止めし、中に籾殻を詰めて手縫いで仕上げたものです」。

素朴な風合いの色使いが、十二支の動物たちの表情をやさしく引き立てる。

秀人さんは昭和39(1964)年に、4人兄弟の長男として誕生。

大学を出ると映画の専門学校へ進んだ。

「映画作りに携わりたくって」。

しかし映画製作への道程は険しい。

平成元年、高校の同級生だった博子さんと結ばれ、やがて二男一女を授かった。

平成3年、一家で帰郷し家業に就いた。

「創業当時から、木版画皿と呼ぶ、小物入れがありましてね。まだ十二支人形が世に出る前のことです。その木版画皿の誕生のきっかけは、今も一緒に仕事をしてくれてる、姉の夏休みの宿題でした。野菜なんかを載せるトレーに、姉が絵を描いたんです。やがてそれが進化して、インド更紗と版画が融合。今では家の定番商品となった十二支人形が誕生したんです」。

十二支人形作りは、まず朴の木の版木の深彫りから。

「家は一版刷りですから、一枚の版木に全ての色の染料を載せ、一度に刷り上げます。だから染料が溜まる箇所とかには、傾斜をつけて工夫したり」。

次に染料を配合し、天竺生木綿を上から被せ、馬簾で一気に刷り上げる。

そして高温で蒸し、発色させて色止めへ。

次に生地を裏返しに縫い上げ、お手玉作りの要領で引っくり返して籾殻を入れ、手縫いで仕上げる。

最後に人畜無害の薬剤で防虫処理を行い、銘を入れれば完成。

それぞれの工程は分業制。

そのため一つの作品の完成までに、のべ8人の職人の16本の手を経なければならない。

「創業当初に作った馬の人形が、昭和53年の午年になると急に売れ出しまして、翌年から干支の人形作りを始めたんです。ですから、今は三周(みまわり)目の真っ最中。1年に1種類ずつ製造しては、次の二周り目で12年掛け、手直しの改良作業をしてきました。ですから今販売中の物は、二周りか三周り目の改良版です」。

十二支が一巡りする度改良を重ねた、人形師親子二代。

その姿勢には、飛騨人の素朴で真摯な生き様があった。

このブログのコメント欄には、皆様に開示しても良いコメントをドンドンご掲示いただき、またその他のメッセージにつきましては、minoruokadahitoristudio@gmail.comへメールをいただければ幸いです。

投稿者: okadaminoru

1957年名古屋市生まれ。名古屋在住。 岐阜県飛騨市観光プロモーション大使、しがない物書き、時代遅れのシンガーソングライター。趣味は、冷蔵庫の残り物で編み出す、究極のエコ「残り物クッキング」。 <著書> 「カカポのてがみ(毎日新聞社刊)」「百人の天職一芸(風媒社刊)」「東海の天職一芸(ゆいぽおと刊)」「東海の天職一芸2(ゆいぽおと刊)」「東海の天職一芸3(ゆいぽおと刊)」「長良川鉄道ゆるり旅(ゆいぽおと刊)」

「「天職一芸~あの日のPoem 442」」への10件のフィードバック

  1. 「天職一芸〜あの日のpoem442」
    「十二支人形師」
    可愛らしい十二支人形ですね。
    心ひかれます。
    飾ってある木版画皿は見たことがありますけれども夏休みの宿題から進化して 定番商品になってゆくなんて まさに天職ですね。

  2. 干支で思い出すのが
    子供の頃、よく言われたのが
    お前は「ひつじ年」だから紙食べるでお金がたまらんな~ぁ⤴
    山羊は聞いた事あるけど?
    羊って食べるのか?
    まぁ~⤴あたしの場合江戸っ子だから「宵越し金は持たんでな」
    あっ!そうそう!
    因みに、あたしは1月生まれの「山羊座」
    どっちみち、紙は大好物らしい!

    1. 山羊さんでしたかぁ!
      一度ヤギに服を食いちぎられそうになって慌てたことがありましたぁ。

  3. この人形達 ちょっぴり顔を上に向けてる気が…。
    自分達の新しい年を良い一年に…と祈りを込めて 見上げてるのかも?
    な〜んてね。( ◠‿◠ )
    辰年の人形の可愛い目に 辰年の私が じっと見つめられてるような(笑)

    1. そうですか!
      夢ちゃんは辰年でしたかぁ!
      家のお母ちゃんも辰年でした。
      って、でも逆算して年齢を数えたりはしていませんよーっ!

  4. 十二支と言うと、『十二支の始まりのお話し』が思い浮かびました。ゴール前で、ねずみが牛の背中から飛び降りて一位になったと言うお話し。ねずみの頭の良さとずる賢さに、あっ晴れ!!

  5. 色鮮やかな十二支の人形ですね 。◕‿◕。

    我が家も 毎年12月30日 玄関に 翌年の干支の置物と鏡餅を飾りますよ ❣️ 

    昨年末 10センチ位の とっても愛らしい 手作りの張り子の牛を見かけ 
    にっこり笑顔に ★  
    愛想の良い牛さんをチョイス (✷‿✷)

    牛は 『大願成就』の意味合いを持つ 招福の縁起物! と 書かれていましたからコロナの終息を 願い★ 飾っています☆ 

    1. 年神様に見守られて、無事に一年が過ごせますようにってお祈りするのって、いいものですよねぇ。

okadaminoru へ返信する コメントをキャンセル

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です