今日の「天職人」は、愛知県豊橋市西羽田町の「帆前掛け型彫師」。(平成23年7月16日毎日新聞掲載)
母の手伝い酒屋まで 篭に空き瓶ぶら提げて 酔いもせぬのに千鳥足 陽炎揺れる炎天下 「暑かったろ」とオッチャンが 盥のラムネ取り上げて 「駄賃代わりや飲んでゆけ」 濡れた瓶拭く帆前掛け
愛知県豊橋市西羽田町で昭和8(1933)年創業の山佐染工所。58年(平成23年7月16日時点)勤務し勤務し、いまだ現役で帆前掛けの型彫りを続ける伊藤一士さんを訪ねた。

愛知県の東都、豊橋市。
昭和40年代まで、生糸に玉糸、がら紡と、糸の町として全国に知られた。
その名残の一つが帆前掛けである。
和船の帆にも用いられた、丈夫な帆布を藍染し、清酒名やその意匠を白く染め抜いたものだ。

「丈夫な前掛けだで、酒の入った木箱の角を、腿に宛がって積み下ろししたって、ズボンを傷めたりせんだあ」。一士さんである。
「わしの座右の銘は、『生涯修業』に『臨終定年』だで」。

一士さんは昭和4(1929)年、3人兄弟の長男として誕生。
尋常高等小学校を出ると豊川の海軍工廠へ。
「ちょうど豊川空襲のあった8月7日は、10日続きの夜勤明けじゃって、外出許可をもらって出かけとっただ。そしたら空襲警報が鳴り出すもんで、慌てて牛久保駅の防空壕へ駆け込んだだて」。
終戦後、製綿所へ6年勤務。
その後昭和28年に、山佐染工所へ入社した。
「元々手仕事が好きで、子どもの頃から切り絵とかもやっとっただ」。
同年、製綿所の綿工だった寛子さん(故人)と結ばれ、一男一女を授かった。
やがて時代は高度成長期へ。
大手酒造メーカーからの注文に追われる日々が続いた。
昭和39年、東京五輪が開幕。
その年一士さんは、35歳の若さで工場長に抜擢された。
「あの頃は、まだ先代の親方が型彫りしとっただ」。
昭和54年、50歳になってやっと型彫りを任された。

「染めの工程を全部知らな、型は彫れんらあ。50歳にしてやっと、子どもの頃の切り絵が役に立っただて」。
以来、一士さんは32年に渡り、彫刀(彫刻刀)を揮い続ける。
型彫りの準備作業は、まず施主の要望する意匠を、型紙に黒インクで描き起こす作業から。
「昔は伊勢型紙ばっかだったけど、もう今はどこでも近代的な型紙だらあ」。

そして切り絵の要領で彫刀を入れ、白く染め抜く図柄を彫り進める。
「型紙を彫り上げたら、網目の紗を漆で貼り付けるだ」。
織り屋から仕入れたばかりの白生地を煮て、表裏に型を当て糊引き。
その上から川砂を被せ、硫化釜へ5分ほどドブ浸け。
藍に染まると布地を広げ、空気に触れさせ藍の発色を促す。
そして水洗いで砂と糊を洗い落とし、天日で丸1日乾燥。

「後は、帆前掛け専門の紐屋で織った紐を縫い付ければ出来上がるだ」。
果てしなく深い藍色に、純白に浮かび上がる意匠。
手染めの癖を知り抜いた彫師だからこそ、染め際の彫刀捌きが際立つ。

一士さんの顔の色艶は、御歳82にはとうてい見えぬ。
秘訣を問うて見た。
「平成13年に女房に先立たれてまっただ。それで寂しさ紛らわそと、元々酒好きだで飲みに行っとったじゃん。そしたら店の板前と友達になって、気が付いたらその母親と恋仲になっとっただ」と。
八十路の万年青年の頬が、一際赤らんだ。
このブログのコメント欄には、皆様に開示しても良いコメントをドンドンご掲示いただき、またその他のメッセージにつきましては、minoruokadahitoristudio@gmail.comへメールをいただければ幸いです。
昔は、八百屋へ行くと、店のオジサンがこんな前掛けをしてました。
そう言えば八百屋ってこの辺では見なくなりました。
ハナ垂れっちの頃には町内に、八百屋があったけど
小学校の頃には「主婦の店」なんてスーパーが開店して
やがて八百屋も姿を消して行ったような気がします。
でもさぁ~⤴地元の八百屋ってイイよねぇ
近所の人と、何でもない与太話で盛り上がる!
そんな時代は遠い昔になりました。
いつかオカダさんと与太話で盛り上がりたいもんです。
古典落語の常連、そそっかしくって愚か者の「与太郎」を真似て、何でもない他愛ない話をマスク無しで止めどなく話して、そして騒いでプッハァ!
早くそんな何でもない、ちょっと前の日常が戻って来てくれますように!
近所の酒屋、八百屋のおじさんが、前掛けをしてましたが、ちゃんと『帆前掛け』って言う名前があったのですね。
みんな年季が入ってたなぁ⤴️
帆掛け船の帆にするくらい丈夫な生地だから、それこそ一生モノの前掛けですよねぇ。
「天職一芸〜あの日のpoem 426」
「帆前掛け型彫師」
「 」から天職を導き出すのも好きな楽しみのひとつです。けれども 今日は難しかったです
藍色に惹かれますね。
藍染めに白抜きの昔ながらの屋号が素敵ですよね。
小さい頃 よく行ってたお米屋さんのお兄さんが この帆前掛けを着けてました。背が高くて細身で。なんだか懐かしい。
でも先日 ワークマンで見かけたんですよ。一瞬「えっ?」って思って エプロンをかき分けて暫く見ちゃいました(笑)
酒屋さんがあるから 帆前掛けが販売されてるのも当たり前なんですけどね( ◠‿◠ )
とっても頑丈な、力仕事に最適な昔ながらの前掛けですものねぇ。
これを付けてデイサービスで仕事したらカッコいいだろうなー!
もうお爺ちゃんやらお婆ちゃんの心を、鷲掴みに違いありませんって!