「天職一芸~あの日のPoem 382」

今日の「天職人」は、三重県伊勢市二見町の「塩ようかん職人」。(平成22年8月21日毎日新聞掲載)

二見(おき)(たま)浜参宮 大注連縄の夫婦岩             男岩女岩(おいわめいわ)の間から 朝一番のご来光               (みそぎ)落として伊勢詣 二見を後にする前に             ちょいと一服お茶請けは 天の岩戸(いわと)の塩ようかん

三重県伊勢市二見町、大正末創業の五十鈴勢語せいごあん。二代目主の木下しょうさんを訪ねた。

「ありがたいもんですやろ。あの夫婦岩(めおといわ)のご来光。きっと朝一番のご褒美ですに。夏至は夫婦岩の間から、冬至は内宮の宇治橋の、鳥居の真ん中から朝日が上がってきますんやで」。

昌次さんは昭和18(1943)年、5人兄弟の末子として誕生。

大学を出ると、神戸の真珠専門商社で営業の職を得た。

「神戸に行った時から、母が『帰ってきてもうたろか?』と、何べんも父に聞いとったそやわ」。

昭和45年4月、ついに呼び戻されることに。

「それまでは土産物屋をしよって、『戻ったはええが、これから何すんのや』って」。

市内の和菓子屋へと通い、伊勢菓子の教えを請い、試行錯誤を2年繰り返した。

昭和47年、市内に住む幸子さんを妻に迎え、一男一女を授かった。

そして延べ4年の歳月を投じ、主力となる銘菓「伊勢物語」や「貝合せ」が完成。

やっと販売へと漕ぎ付けた。

「親父がいつの間にしとったんか知らんけど、『伊勢物語』も『貝合せ』も、商標が取ってあったんやさ」。

息子の将来のためにと、父はこっそり先手を打っていたのだろう。

―この地の恵みを取り入れた名物を作りたい。この地で生まれた者の務めとして―

そんな想いに光が差したのは平成9年。

「製塩規制が緩和されて、岩戸館の女将が塩を焼き始めたんやさ。その(あま)岩戸(いわと)の塩使って、何か作ろうと1年かけ試行錯誤を繰り返して。各地の塩まんじゅうを参考にしたり。でも隠し味に使うんやなしに、粗塩の旨味を出しとてな」。

翌年、「岩戸の塩ようかん」が完成した。

二見名物となった岩戸の塩ようかん作りは、糸寒天を一晩水に浸け込む仕込みに始まる。

寒天が溶けてから小1時間煮て、砂糖を加え沸騰。

小豆の漉し餡を加え、沸騰させて2時間ほど煮詰め、煮上げる直前に岩戸の塩を入れ再び沸騰。

そして型へと流し込み、1日冷ましてから竿ものや抜きものへと加工。

毎朝5時には作業を始め、1日300本が製造される。

そして竿ものは、孟宗(もうそう)(だけ)の皮で大切に包み、1枚1枚商品名と、屋号を押印した和紙を挟み込む。

「製造から販売まで、みな女房と二人きりでしとんやで、どうせなら印刷したもんより、1つずつ印を押した方が、心まで受け取ってもらえますやろ。そりゃあ少々、見た目は微妙にちごとっても、それが一つの味と違うやろか」。昌次さんが妻を見つめた。

塩辛くは無く、程よい甘味に奥行きが深い。

何より後味が、さらりと小気味いい。

「店でも、お抹茶と塩ようかんを、お出ししますんさ。ちょっとお伊勢さんまで来たゆうて、わざわざ買いに来られる遠方の方もおいでやで。ありがたいこっちゃ」 。

粗塩本来の旨味を活かしながらも、決して出しゃばり過ぎはしない。

コクが命の、天の岩戸の塩ようかん。

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投稿者: okadaminoru

1957年名古屋市生まれ。名古屋在住。 岐阜県飛騨市観光プロモーション大使、しがない物書き、時代遅れのシンガーソングライター。趣味は、冷蔵庫の残り物で編み出す、究極のエコ「残り物クッキング」。 <著書> 「カカポのてがみ(毎日新聞社刊)」「百人の天職一芸(風媒社刊)」「東海の天職一芸(ゆいぽおと刊)」「東海の天職一芸2(ゆいぽおと刊)」「東海の天職一芸3(ゆいぽおと刊)」「長良川鉄道ゆるり旅(ゆいぽおと刊)」

「「天職一芸~あの日のPoem 382」」への8件のフィードバック

  1. 羊羹にちょっと
    渋めのお茶で「プッハァ~⤴」
    ええねぇ!
    まぁ~⤴こんな気持ち・・
    オカダさんには分からんやろうねぇ!
    酒飲みの気持ちが分からんけどねぇ!
    でもなぁ甘いもん食べ過ぎに注意しょう
    小太りっちだからさぁ
    オカダさんも飲み過ぎに注意ですよぉ!

    1. 実はぼくでも、この塩羊羹は、一本丸ごととまでは行きませんが、半分くらいなら一度に食べれましたぁ!
      甘さと塩味の黄金比は、ただただ天晴でしたぁ!

  2. 「天職一芸〜あの日のpoem382」
    「塩ようかん職人」
    先日つまようじでプチって刺して食べる ようかんを見つけて 思わず
    「懐かし〜い」と小さい声で言ってしまい
    最後のひとつを買い求めてしまいました。

    塩ようかん 美味しそう〜です。
    もうそうだけではなく孟宗竹も
    エコで今に通じていて魅力的ですね。

    1. 何とも手作り感があって、作り手の真心まで包み込まれているような、ありがたい羊羹でした!

  3. 甘い物なのに塩を効かせようと考えた人って凄いわぁ⤴️塩っ気が何ともいえぬ旨さ。

    1. そうですとも!
      子どもの頃、糖度の少ないスイカに、お母ちゃんが塩を一振りすると、魔法にかかったかのように甘さが増して、キツネに摘まれたようでしたもの。

  4. この職人さんのお父さんの先手必勝って感じ。いや 先見の明があるのかも( ◠‿◠ )
    「心まで受け取ってもらえますやろ」
    素敵ですよね。こういう考え方。
    きっとそのお人柄が 商品の味わいとして表れているんでしょうね。
    お抹茶と塩羊羹 最高!

    1. 店先でも女将さんの点てた抹茶と塩羊羹が、その場で味わえるんですよ!

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