「天職一芸~あの日のPoem 377」

今日の「天職人」は、岐阜県富加町の「関の刀匠」。(平成22年7月10日毎日新聞掲載)

トントンカンと(かな)(どこ)に 赤い火花が弾け飛ぶ           白装束に烏帽子(えぼし)()け ()()の刀匠玉の汗            中心(なかご)に刻む鑢目(やすりめ)の 美濃関鍛冶の鷹羽(たかのは)は             折って鍛えし刀匠の 矜持(きんじ)をかけた一振りよ

岐阜県富加町で明治35(1902)から続く刀匠、三代目丹波兼にわかねのぶさんを訪ねた。

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幣紙(へいし)が垂れる藁縄の結界。

刀匠の聖地、()()では紅蓮の炎が勢いを増す。

「砂鉄から鋼を製鉄する(たた)()の神は、金屋子(かねやご)神と呼ばれる、えらい醜女(しこめ)の姫さんやったんやと。だで昔から、別嬪さんを連れてったらいかんと、言われたもんやて。それに鋼を生む火床を、昔の人は女陰を意味する『(ほと)』と呼んだとか」。兼信さんが、その由来を語った。

兼信さんは昭和28(1953)年、10人兄弟の7男として誕生。

「遅がけの子やったで、いつも父親に付いて回っとったらしい。確か小学5年の頃や。父と客人の話しの中で、跡取り話しが出て。そしたら急に父が『これがやるやろう』と。『お父ちゃん、俺に期待しとるんや』と思ったもんやて」。

大学を出ると、72歳の父に弟子入り。

「先代が病を患うまで16年間、教えていただきました」。

兼信さんは実父に対し、無意識に敬語を使った。

父である前に、今も師である証しだ。

「本当は、『早よ覚えんと死んでまう』と、切羽詰まっとったでな」。

古式日本刀の鍛錬は、刀匠と3人の先手(さきて)による、鋼の折り返し鍛錬に始まる。

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まず刀匠が火床の横に座し、(ふいご)を操り火床の温度を上げる。

そして梃子(てこ)(ぼう)の先に付けた、鋼を火床で沸かし(融点まで熱する)、それを(かな)(どこ)の上に取り出し、1番手から3番手までの先手が順に、大鎚で打ちつける。

刀匠は小鎚で、先手の打つ位置を示す。

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大鎚で打ち、そして折り返し、また火床で鋼を沸かし、不純物を全て焼き尽くす。

「その内に鋼の声が聞こえるんやて。『もういいよ』と。すると鋼の表面が羊羹みたいに滑らかになるんや」。

次は、鍛え上げた鋼の塊を重ねて沸かし、当鎚(あてづち)を打って鍛接する「作り込み」。

続いて刀の長さと身幅、そして厚みを整えながら「素延(すの)べ」。

それを横座(刀匠)が、火床で赤め小鎚で打つ「火造(ひづく)り」へ。

「火造ったままの凸凹を、(せん)(やすり)(なら)す」。

そして刃に焼刃土(やきばつち)を被せ、刃文の文様が出るように、土を薄く掻き取り、850度で10分間焼入れ。

水に浸けて「火取り」し、刃文を硬く仕上げる。

さらに150度で加熱し、「(あい)()り」へ。

「刃先に粘りを出すんやて」。

次に「鍛冶押し」と呼ぶ研ぎを行い、中心(なかご)を鏟と鑢で整え、化粧鑢で美濃地方の特有の鷹羽(たかのは)鑢目(やすりめ)を入れ、(たがね)で表に「兼信」の銘、裏に年号を刻む。

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「刃文は神代(かみよ)の時代から、たったの5種類しかないんやて。神代の直刃(すぐは)、平安末期の小乱(こみだれ)、鎌倉中期の丁子(ちょうじ)、鎌倉末期の()ノ目(のめ)、南北朝の(のたれ)。関の孫六は、尖刃(とがりは)の互ノ目や」。

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この一連の作業で、優に15日以上が費やされる。

 独り身を通した兼信さんに、跡継ぎはない。

「火床も炭を継ぎ足さんと、消え行くのが定め。それと一緒やて」。

刀匠は、己の鍛え上げた業物を、感慨深げに見つめた。

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投稿者: okadaminoru

1957年名古屋市生まれ。名古屋在住。 岐阜県飛騨市観光プロモーション大使、しがない物書き、時代遅れのシンガーソングライター。趣味は、冷蔵庫の残り物で編み出す、究極のエコ「残り物クッキング」。 <著書> 「カカポのてがみ(毎日新聞社刊)」「百人の天職一芸(風媒社刊)」「東海の天職一芸(ゆいぽおと刊)」「東海の天職一芸2(ゆいぽおと刊)」「東海の天職一芸3(ゆいぽおと刊)」「長良川鉄道ゆるり旅(ゆいぽおと刊)」

「「天職一芸~あの日のPoem 377」」への6件のフィードバック

  1. 刀と言えば、今話題の『鬼滅の刃』。
    少しだけ見てみましたが、登場人物の名前、漢字、読み方が難しくて覚えられないのは私だけかしら(¯―¯٥)

    1. 鬼滅の刃のマスクをしている子供を見かけますが、この間随分なオッサンもしていてビックリ!
      ああっ、そう言えば何たら大臣もしてましたねぇ。

  2. 火花散る中 カンカンカンとテンポよく打ちつけている場面は テレビで見た事があります。どこか厳かで まるで火の神が宿っているような… 。
    昔のままなんですよね?
    現代でも刀が造られている事には驚きです。
    美術品となるんでしょうけど。

    1. 人斬り庖丁が、落ち武者殿の生きておられた戦国の世のように、人が人を殺めることなく、美術刀剣として愛でられ続けられなければなりませんよね。

  3. 何を隠そう、ウチの娘は刀剣女子です。遠方まで展示会などへ出かけて行きます~!

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