「天職一芸~あの日のPoem 373」

今日の「天職人」は、三重県亀山市御幸町の「味噌焼きうどん職人」。(平成22年6月12日毎日新聞掲載)

七輪炙り鉄板で 味噌焼きうどんジュージューと         月に一度の給料日 父はすっかり赤ら顔             味噌の絡んだトンちゃんを せっせと父がほじり出し       うどんキャベツは母とぼく 皆で仲良く突き合う

三重県亀山市御幸町の亀とん食堂、二代目主の村主すぐり浩二さんを訪ねた。

昼時、どこからともなく味噌と脂の焦げる匂いが、商店街の食堂から漂う。

埃だらけのウィンドーに、亀山名物「味噌焼きうどん」の但し書きと蝋細工の見本。

名物ならばその由来はと、発祥の店を探した。

駅の北側をしばらく西へ向うと、「亀とん食堂」なる暖簾を掲げた店を発見。

店の脇から、味噌と脂の匂いが襲い掛かってくる。

店内は既に満席。

まだ昼だというのに、ジョッキ片手の赤ら顔が鉄板を突く。

「ご注文は?」と問われ、迷うことなく、味噌焼きうどんを所望。

すると「何の?」と切り返された。

「・・・何のって?そりゃあ、うどんでしょ」。

あまりの頓珍漢なやりとりを見かね、隣りの客が解説を買って出た。

「ここにはなあ、『味噌焼きうどん』と言うメニューはないんや。まず初めに好きな焼肉を注文するんさ。トンちゃんや牛ホルモンにカルビとか、何でも好きなんを。それとうどん玉を頼んで、肉とキャベツのブツ切り炒め、そこへうどん玉を放り込んだら味噌焼きうどんの出来上がりやさ。これがここらの(もん)が、昔から食べよる本物。それをB級グルメで町興しとか言い出して、あちこちで売り出すようになったんさ」。

そう言うと隣の客は、美味そうにビールを飲み干した。

「はいっ、トンちゃんにうどん玉。お待っとうさん」。浩二さんが、コンロに火を点けた。

浩二さんは昭和15(1940)年、名古屋市で5人兄弟の4番目として誕生。

大学を中退すると楽器販売会社に勤務。

だが昭和37年、父の在所の亀山へ家族で移住。

母がその年に開業した、亀とん食堂を手伝うことに。

「最初は普通の食堂で仕出し弁当とかもしよって。昭和44年からやわ、ホルモン専門店にしたんわ」。

昭和49年、鹿児島出身の千鶴子さんと結ばれた。

「あれが三代目になる、女房の弟の倅や」。

「爺、オイは継ぐなんち、まだ一言も言うとらんとよ」。甥の(はぎ)木場(こば)明さんが、笑いながら打ち消した。

味噌焼きうどんの由来を問うた。

「そんなもん、味噌焼きうどんなんて、決まったもんは無い。知らん間にお客さんが、焼肉にうどん玉放り込むようになっとったんやで。そしたらそれが美味いもんで評判になって。ええっ?味の決めて?そりゃあ肉に絡める味噌やろ」。

亀とんの味噌ダレは、八丁味噌、醤油、砂糖、焼酎、酒、味醂、ニンニク、一味、胡麻油、胡麻を調合。

「それともう一つ、最大の隠し味は何と言ってもこれやさ」。浩二さんは悪戯っ子のような表情を浮かべ、ビールを取り上げた。

「ここが味噌焼きうどん発祥の地かって?元祖は、家よりちょとだけ先にやり出した、この先の兄の店やわ」。

味噌ダレに溶け出した肉の旨味が、真っ白なうどんに纏わり付く絶品の味。

気取らぬ店の、気負わぬ庶民のおご馳走(っつお)

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投稿者: okadaminoru

1957年名古屋市生まれ。名古屋在住。 岐阜県飛騨市観光プロモーション大使、しがない物書き、時代遅れのシンガーソングライター。趣味は、冷蔵庫の残り物で編み出す、究極のエコ「残り物クッキング」。 <著書> 「カカポのてがみ(毎日新聞社刊)」「百人の天職一芸(風媒社刊)」「東海の天職一芸(ゆいぽおと刊)」「東海の天職一芸2(ゆいぽおと刊)」「東海の天職一芸3(ゆいぽおと刊)」「長良川鉄道ゆるり旅(ゆいぽおと刊)」

「「天職一芸~あの日のPoem 373」」への16件のフィードバック

  1. うどんだけど めっちゃパワフルな感じ。朴葉味噌と違って ちょっと濃いめのしっかりとした味わいなのかも。
    焼きうどんが好きなので 一度 市販の味噌焼きうどんを購入して食べた事があるけど やっぱり写真のように 全部合わさっての味噌焼きうどんにしないと駄目みたいです。
    これは間違いなくプッハァ〜ですね(笑)

  2. 以前、B級グルメが食べられる『B1グランプリ』と言うイベントに出掛けて行った事があります。また安心してイベントが出来る世の中に早く戻って欲しいですね。

    1. そうですよねぇ。
      生活様式がコロナによって一変しちゃいましたものねぇ。
      今こそが正念場ですよねぇ。

  3. 「天職一芸〜あの日のpoem373」
    「味噌焼きうどん職人」
    これは 美味しいですよね。
    焼うどんも焼きそばの親戚かと
    思いきや お話を伺うだけで
    読んでいるだけで お腹がすいてきます。

    1. これはやっぱり、うどんじゃなきゃって感じでしたよ。
      でも店を出ると、体中みそ焼きうどんの匂いが纏わり付いちゃってましたが・・・。

  4. 昨日に引き続き「味噌話」
    味噌煮込みうどんは聞いた事がありますが
    「味噌焼うどん」初めて聞いたけど
    「焼きうどん」ってあるから、、味噌焼うどん、あってもいいかぁ~⤴
    その内「焼きそうめん」なんてもんが出来るかも?
    それにしても写真の「味噌焼うどん」美味そ~~う~⤴
    ご飯とうどん「ザ・炭水化物」
    太る事!分かっていても我慢出来なくて食べるよね~ぇ!
    皆さん・・・・メタボが気にならない食べ物ってあるのぉ?
    誰か?教えて!
    オカダさんはメタボ無縁だからイイよねぇ⤴

    1. ぼくだってコロナ引き籠り太りが気になって、一応色々気を付けたりしてんですよ!
      だってお酒だけはお腹一杯呑みたいですからねぇ。

    1. 味噌は煮ても焼いても、万能調味料ですから、是非ともやって見てくださいな!
      さて、高木ともふみ邸の味噌シリーズは、どんな作品となりますやら・・・。

  5. 楽しみに 待ってました (。♡‿♡。)  
    みそ焼きうどんですね〜 ❣️

    そっかー お肉を入れたらもっと美味しかったんですねッ!!   
    私は 冷蔵庫にあった ウインナーにキャベツ、ニンジン、ピーマン、エリンギでしたが、麺と一緒に入っていた味噌ダレは めちゃウマでしたよ \(・◡・)/ 
    いろんな旨味のバランス良く ちょっとピリ辛が 確かに 
    ビールを ぷっファ 〰 と 呑みたくなりますよね 。◕‿◕。

    次は たっぷりのぶつ切りキャベツと飛騨牛を入れて作ってみたいです  
    もちろん  ❖キリン一番搾り❖ もね
    (✿^‿^) 

    1. やっぱりみそ焼きうどんにゃあ、何は無くともキリン一番搾りですものねぇ。

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