今日の「天職人」は、愛知県豊橋市の「鋏研師む。(平成22年4月10日毎日新聞掲載)
「なまくら庖丁裁ち鋏 惚れた腫れたは遂げぬ仲 刃物であれば何なりと 研いで見せましょお立会い」 粋な研師の掛け声に 主婦で空き地は人だかり 砥石を滑る欠けた刃が 錆びを落として光り出す
愛知県豊橋市で昭和十年創業の豊橋理器、二代目鋏研師の坂本守男さんを訪ねた。

「東京オリンピックの昭和39年(1964)。豊川大橋の向こうで、結婚披露宴を挙げただ。そしたらもう、新婚旅行の列車の時刻だわ。慌てて着替えに帰ろうとしたら、ちょうど聖火ランナーが大橋を渡る直前とかで、通行止めじゃん。ほだもんで必死で事情話して、モーニング姿のまんま、聖火より先に橋渡っただ。多くの市民が聖火の到着を見守る中…。そりゃあ恥ずかしかったわ」。守男さんが、事務を執る妻を盗み見ながら懐かしそうに微笑んだ。
守男さんは昭和14年、7人兄弟の長男として誕生。
中学を出ると直ぐに家業に就いた。
「中学2年の時に、父が心臓病に倒れて引退したし、6人もおる兄弟養わなかんで」。
父の具合がよさそうな日には、鋏を砥ぐ父の側で、その一挙手一投足を瞼に焼き付けた。
「見よう見真似で、10年はかかったらあ」。
鋏は用途によって、大きさも形も、鋼の硬さまで異なる。
「硬くて厚い、命の通わん物を切る工作鋏に比べ、理美容の鋏は、人間の髪を切るもんだで、その瞬間の感覚が肌に直に伝わるだ」。
刃の厚みや角度を間違うと、髪が刃から逃げてまう。
工作用の鋏は、刃のついたササバの刃角が50度近い。
それに比べ、理美容鋏は40~45度と鋭角。
理美容鋏は正刃に薬指、動刃に親指を添え、親指だけを動かし切り進める。
「若い頃は、当時1本7~8万円もするような、高価な理美容鋏を何本折ったことか。でもそれを越えんと研師にはなれんだ。高い授業料だけど」。
24歳の年に、同県新城市出身の孝子さんと結婚し二男を授かった。
鋏研ぎの作業は、2本の刃が交差する部分の、カナメを外す事に始まる。
そしてまず裏スキ。

「これが肝心。グラインダーで刃の裏側に、反りとスキ捻りを入れ、刃線を細くし、裏刃がよう咬み合うにするだ。蛍光灯の光を当て、捻り具合を確かめながら。だで歳食って目が悪くなって来たもんで、その都度蛍光灯が1つずつ増えてくじゃんねぇ」。
そして人工砥石と天然砥石を使い分けながら、粗目から仕上げへと研磨。
「鋼は粘りがあって、研ぐと反発して跳ね返ってくるだ」。

800粒度のダイヤモンド砥石で刃角を出し、6000粒度の砥石の上に、三河産の白名倉砥石を擦り合わせ、白名倉砥石の砥汁と水を掛け仕上げの研磨。
「研いだまんまだと、砥石の粒子の粗さが残って、髪を切るとカツンカツンとブツ切れになるだ」。
だが昔から刀鍛冶に愛用された白名倉砥石で仕上げれば、粒子が細かく刃の表面が際立つ。

「何でも使い捨ての時代。でも自分の売った鋏は可愛いで、ちゃんと磨き込んでやりさえすれば、また新しい命を注ぎ込めるらあ」。
この道半世紀。
生涯一研師であり続ける男は、蛍光灯に刃を翳した。
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美容院に行って、切れアジの悪い鋏でカットされたら痛くて、後アジが悪いもんね。
ぼくはインドの取材の時、ブッダガヤのホテルの中庭に、丸いパイプ椅子を設えてもらい、床屋さんに来ていただいて髪を切ってもらったことがありました。
当時のレートで30ルピーでしたから、日本円で100円しないほどでした。
しかし!
丸いパイプ椅子には、背もたれも無ければリクライニングも、高さ調節機能だったありません。
だからインド人の床屋さんは、ぼくの頭を乱暴に右に倒したり左に倒したり、有無を言わせず床屋さんのやり方に身を委ねるしか術はありません。
しかも鋏は錆びだらけで刃が掛けた物が一本きり!
そしてあろうことか、櫛も歯が欠けたきちゃあ、ご想像の通りでした。
鋏にまだ髪の毛の切れていない部分があってもお構いなし!
力任せに鋏を引っ張るものだから、ぼくの頭もそっちの方角へ付き従って!
髭も剃ろうかと言われましたが、刃毀れした髭剃りを見て・・・。
流石に辞退いたしました。
もちろん帰国して直ぐに、日本の行き付けの床屋さんで、奇麗に修正していただきました。
落ち武者殿のヘアスタイルだったら、きっとインド人もさぞやビックリしたことでしょうねぇ。
こう見えて、あたしゃぁ~ねぇ⤴
ちゃんとしたヘアーリストさんがいて
3ヵ月に一度「クララさん」にお世話になっているんですぅだぁ!
インド人もビックリ!って
日本のカレーだけじゃなかったんだねぇ⤴
今に見ていろぉ⤴
チーム落武者を作ってやるぅ!
あっ、そうでしたねぇ!
クララ先生という強いお見方をお持ちでしたものねぇ。
でも他の女性客の方と居合わせたら?
しかもその方が、落ち武者殿の髪をカットしたりカラーリングしたりしているお姿を、こっそり間近でごらんになったとしたら???
嗚呼、恐ろしくてとてもぼくには想像を巡らせられません!
❖ ハサミ砥ぎます 包丁砥ぎます ❖ と書かれた看板 見なくなりましたね〜
ちょっと前迄 岐阜駅周辺には あちこちにこの看板を出されいるお宅があったんですけど 最近見なくなりました!
アパレルの会社が郊外に引っ越されたからかも? (๑•﹏•)
私も ちょっと重いんですが、40年くらい前から 同じ羅紗バサミを使っているので、時々お願いしています❣️
ご高齢になられましたが、長年の感なんでしょうね サックサク切れますよ〜
( ◜‿◝ )♡
きっと職人さんは、齢を重ねられても、仕事の間隔を体が覚えているんじゃないでしょうかねぇ。
目だって老眼になったにしても!
そっか〜!
ハサミも研げばいいんだ〜(笑)
そう言えば こういうお店を見かけた事が…。
私は いつも アルミホイルを切ることで 切れ味を復活させてました。その場凌ぎだけど。
でも 包丁もそうだけど ちゃんと研いだほうが 断然切れ味が違いますよ。
ぼくも庖丁を自分で研いでいますが、ホームセンターで買った安物の砥石のせいか、自分の心が曲がっているせいか、砥石が変な風に減ってしまい、もう水平ではなく真ん中あたりが窪んでしまいましたぁ。