今日の「天職人」は、愛知県豊橋市の「アンコ(鮮魚競り人)」。(平成21年10月14日毎日新聞掲載)
父が忘れたお弁当 母と届けに魚河岸へ 濁声響く競り場には バン買いピンピンオイヤッコ 「ほら父さん」と母が指す 眉間に皺の強面(こわおもて) いつもは優しい父なのに 「競りはアンコの戦場(いくさば)」と
愛知県豊橋市、豊橋魚市場のアンコ、石黒政美さんを訪ねた。

午前6時半。
競り場に箱物鮮魚が並ぶ。

「それでは、アサリから売ります」。

野太い男の声が、スピーカーから流れ出した。
一斉に仲買人がアサリを取り囲む。
そこへ分厚いメモ用紙を片手に、アンコ(競り人)が登場。

鐘の音が響き渡る。
「アサリアサリ5㎏、いくらいくら」。
「500、600、バン(800)、買い(1000)、ピンピン(1100)、ジョウ(1500)、オイ(1800)、ニコニコ(2200)、ヤッコ(2500)」。
次々に仲買たちが、値を競り上げる。
「ハイッ、ヤッコ、マルス」。
アンコは落札者の屋号と落札金額を復唱し、直ぐに次の商品へと向う。
再び威勢のいい濁声が飛び交い、熱気を帯びる。
「最初はオイオイって、誰かが呼ばっとるかと思っただ」。政美さんは、競り場の険しい表情とは一転、何とも優しい笑顔だ。
政美さんは昭和32(1957)年、2人兄弟の長男として誕生。
「ガキの頃から、釣りが好きでねぇ」。
水産高校を卒業し、魚市場に入社。
「毎日明けても暮れても、荷降ろしばっか。冷凍マグロを1日に、1000本も手掻きで引っ張り、鉈で尻尾を切って。競り用に1番から50番まで番号入れて、それを20組繰り返すだあ」。

そんな日々が5年は続いた。
「ちったあ魚の名前を覚えてくると、次は先輩が競り落とした箱物への札入れ。仲買の屋号が印刷された紙の札を、誰が落としたか見とって、箱に入れてくだあ。だもんで、仲買の顔と屋号を覚えとらんと、間違うとえらい目だわ」。
入社5年を過ぎた頃には、子どもの頃から好きだった魚釣りが、嫌いになったと言う。
「鯛1匹釣るのに、どんだけ金と時間がかかるか、そう考えたら馬鹿らしなって。買った方が遥かに安いらあ」。
荷降ろし5年で魚の名前と旬の時期を覚え、札入れ2年で仲買の顔と屋号を、体に叩き込んだ。

そして迎えた入社7年目の25歳。
ついにアンコとしての桧舞台に立つ日が訪れた。
「最初はアサリなんかの貝類から。魚と違って、物の良し悪しがあんまり変わらんで、後は値段だけ注意しときゃええだ」。
今でこそ名うてのアンコだが、初陣は緊張の連続。
「とにかく金額書いた字が、チャカチャカになって、自分でも読み返せんだあ」。
仲買人との駆け引きで、苦情が出ることもしばしば。

「『俺が先に鑓(やり)付けただ』って、仲買からぶん殴られそうになるし。でも競り場は、競り人にとっての戦場だで、びびったら負け。だもんで言葉遣いもわりくなるし、性格もきつなるらあ」。
平成7年に豊川市出身の佐織さんと結ばれ、二女を授かった。
「よう女房に叱られたわ。子どもが真似るで、家で『やいっ』とか『オイ』って言うなと」。
名うてのアンコも、家では形無しだ。
1日2時間足らずの競り場という戦場へ、アンコは今日も赴く。
優しい顔に、険しい表情の仮面を着けて。
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競りの様子をテレビで見た事がありますが、『何時 誰が』競り落としたのか早過ぎて全く分かりませんでした。競り人をアンコって言うんですね。
そうなんです!
なんで「アンコ」なのかは、調べていませんでしたが!どうやら東海地方独特の、競り人の呼び方のようです。
知り合いが 岐阜の中央卸売市場にお店を出していたので 何年か前 お正月用に買い出しに行った事が有りますが、すご~い活気でしたね〜❣️
ほんと 何を言ってるかわからないし、手でも何かサインを出されていたような ❖ アンコさん ❖ なんて (◠ᴥ◕ʋ)
アンコ って ⁽⁽ଘ( ˊᵕˋ )ଓ⁾⁾
わ 〰〰 あん肝が食べたくなりました
鰻や鰤 ご馳走が続きましたから 妄想 (◍•ᴗ•◍)❤
岐阜の中央卸売市場のマグロなどの太物の競りを、TVのロケで行ったことがありますが、競り場に飛び交う濁声を識別できるまでには、相当な年月が必要な気がしたものです。
一番良い魚を…と思っての競りだから 声も大きくなりますよね。
あの迫力は凄いですから( ◠‿◠ )
ブログを読んで思い出したんですけど 山口県では フグの競りの時 黒い筒状の布に手を入れた競り人が来ると 仲買人が その布に手を入れて 競り人の手や指に触れて 交渉するんですよ。
(以前テレビで見た事が…)
この場面だけ よ〜く覚えてます。
声が飛び交うか?は 全く覚えてませんけどね(笑)
ぼくもTVで見たことがあります。
そんな競りなら、大声も出さずに済むので、コロナの心配も少なくなりそうですよねぇ。