「天職一芸~あの日のPoem 338」

今日の「天職人」は、三重県松阪市中町の「呂色(ろいろ)位牌商」。(平成21年9月23日毎日新聞掲載)

野辺一輪の花を摘み 飯事(ままごと)道具掻き回し       君が水汲む欠け湯呑み 野の花活けてご満悦           仏壇前に正座して 「ジイジこの花綺麗やろ」          君は小さな手を合わす 父の漆のお位牌に

三重県松阪市中町で、会津塗の呂色位牌を扱う、明治三十九(一九〇六)年創業の佛英堂。四代目主の野呂英史さんを訪ねた。

何処までも限りなく深い、呂色仕立ての漆黒。

会津塗の位牌を見つめていると、まるで魂までもが吸い込まれる気になる。

職人が指紋をすり減らし、鏡のように磨き上げた光沢。

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漆黒の闇の中に、在りし日の父母の顔が浮かぶ。

もしかしたらこの闇は、あの世へと通ずる心の入り口なのだろうか。

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「塗師の手ごこしい(手の込んだ)、見事な仕事振りですやろ」。

「近江の日野城主、蒲生氏郷は秀吉から伊勢松ヶ島十二万石を与えられ、天正16(1588)年に松坂城(現・松阪城)を築城し、日野から多くの職人を連れて来たんやさ。ところが2年後、今度は陸奥黒川城主として42万石の大領を与えられ、会津へと国替えやさ。それで職人や商人らが、皆連れてかれて。そん中で塗師の技が花開いて、今の会津塗として受け継がれたんやさ」。

英史さんは昭和30(1955)年、2人兄妹の長男として誕生。

大学を出ると京都で、お鈴(りん)などの鳴り物を専門とする仏具の製造元に勤めた。

「まあ修業も兼ねてやけど。お鈴も鈴虫鈴とか、都鈴とかあって、銅や亜鉛、それに錫の配合や形状で、鈴の音もちごてくるんやで」。

それから2年、仏具の営業や運搬に明け暮れ、昭和54年に帰郷し家業に入った。

「まだそんな頃は、ようけ職人がおりましてな。この地特有の初盆棚を、こつこつと作りよった時代でしたんさ。初盆棚とは須弥壇(しゅみだん)を模り、白木の杉や檜で拵えた三段重ねのものなんさ。それでお盆が来ると、窓辺に提灯吊るして『ここに帰って来てや』ゆうて、亡くなった方をお迎えするんですに」。

以来、郷土に根付いた仏事を通し、先祖供養を陰で支え続ける。

昭和58年、絵画教室で出逢った雅子さんと結ばれ、一男一女を授かった。

「絵が好きでしてなあ。私が油絵習いに行っとった教室に、後から妻が来るようんなって」。英史さんは照れ臭げに、店の奥を盗み見ながら笑った。

「お仏壇や仏様ももちろん大事やけど、それ以上にお位牌が一番肝心。ご先祖様の戒名を刻み込んだ、ご先祖様そのものなんやで。せやでこの地とも縁の深い、会津塗りのお位牌をお薦めしとるんやさ。会津塗りの中でも、呂色仕上げが最上級。これはまず、朴の木の下地に胡粉(ごふん)を真っ白に塗り、塗面を炭で磨き、油分を含んでない呂色漆を塗っては磨き、塗っては磨きを何10回と繰り返すんやさ。角粉(つのこ)ゆうてな、鹿の角を焼いた磨き粉と油を付け、職人の指先で磨き上げるんさ。だから呂色仕上げの職人は、指紋が消えてもうてあれへんのやに」。

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英史さんは、先祖の縁(えにし)を誇らしそうに語った。

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今日は彼岸の中日。

だが忙しさにかまけ、父母の墓前に花を手向けることも叶わず仕舞い。

せめて心の中の、父母の位牌に合掌。

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投稿者: okadaminoru

1957年名古屋市生まれ。名古屋在住。 岐阜県飛騨市観光プロモーション大使、しがない物書き、時代遅れのシンガーソングライター。趣味は、冷蔵庫の残り物で編み出す、究極のエコ「残り物クッキング」。 <著書> 「カカポのてがみ(毎日新聞社刊)」「百人の天職一芸(風媒社刊)」「東海の天職一芸(ゆいぽおと刊)」「東海の天職一芸2(ゆいぽおと刊)」「東海の天職一芸3(ゆいぽおと刊)」「長良川鉄道ゆるり旅(ゆいぽおと刊)」

「「天職一芸~あの日のPoem 338」」への5件のフィードバック

  1. 『仏壇も大事だけど、それ以上にお位牌が一番肝心』人と一緒ですね。外見より中身•̀.̫•́✧

    1. 仰る通り!
      ♪ボロは着てても 心の錦 どんな花より 奇麗だぜ♪ですよねぇ。

  2. 魂の新たな居場所…と称したらいいのか。
    毎朝「今日も一日よろしくお願いします」と手を合わせ スタートする毎日。
    お位牌の向こうには 一人じゃなくて何人ものご先祖様がいらっしゃる気がしています。
    時には お願い事もしてしまうので 呆れられてるかも知れません(笑)

    1. そうそう!
      ついつい強欲になって、あれもこれもと願ったり祈ったり!
      だから神様や仏様も、きっと呆れ返っちゃってんだろうなぁ(笑)
      ぼくの場合ですが(トホホ)

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