「天職一芸~あの日のPoem 330」

今日の「天職人」は、三重県伊賀市上野の「養肝漬(ようかんづけ)蔵元」。(平成21年7月22日毎日新聞掲載)

伊賀の里からお中元 「養肝漬の箱入りよ」           母は何やら嬉しげに 水屋の奥に仕舞い込む           母が買い物出た隙に 「羊羹(ようかん)?ヅケ」を盗み食い   甘いどころかたまり味 中の餡子(あんこ)も紫蘇(しそ)生姜

三重県伊賀市上野中町で慶応元(1865)年創業の宮崎屋六代目主、宮崎慶一さんを訪ねた。

俳人芭蕉生誕の地、三重県伊賀市上野。

町の中心部を東西に貫く大和街道沿いには、今尚昔ながらの町屋や商家がポツリポツリと点在している。

「『何のレバー、漬けたるんですか?』とか、『やっぱり肝臓にいいんですか?』『羊羹が漬けてあるんですよねぇ』なんて、真顔でお客さんから何度尋ねられたことか」。慶一さんは客の口調を真似て見せた。

そもそも養肝漬とは、白瓜の芯を抜き、そこに刻んだ紫蘇に生姜や胡瓜を詰め、たまり醤油に漬け込んだもの。

「よう若い頃は『何やこの商品名は?説明するのも、一々手間やし』って、父を問い詰めたもんですわ。中には芯に詰めた具を捨ててから、食べるという人もおったほどやし。でも段々とそれが、お客さんとの会話のきっかけになるんやと気付いて」 。

慶一さんは昭和31(1956)年、長男として誕生。

「元々醤油の醸造元やったんです。だから養肝漬はその副産物。でもそれが、やがて独り立ちして今の世へ。だって江戸時代には漬物屋なんてありませんに。家庭で作るのが当たり前やったでな」 。

東京の大学を出ると、食品流通の世界へ飛び込んだ。

商品の開発と市場調査に明け暮れる毎日。

だが流通革命の波に飲み込まれ、問屋や卸業は再編や合併を繰り返す憂き目に。

「東京という街は、仕事にはいいが、とても人の住むとこやないと思うようになって」 。

昭和56年に帰郷。

父の元で家業を継いだ。

「これから先、何を残すべきか、合理化との狭間で相当考え抜いたもんさ。でもしばらくしてやっと気付いた。醤油樽を残す必要性に。だって日本の漬け物の98%弱は、どれもみんな浅漬けばっかり。でも家のは、乳酸発酵とアミノ酸発酵させた古漬けや。それを促進させる固有の菌が、樽には30種以上も永年住み着いとるんさ。蔵の中のひんやりした空気の中にも。ご先祖様から受け継いだ、ありがたい神々の菌や」。

昭和63年、京都出身の郁子さんと結ばれ、三女を授かった。

養肝漬の1年物は「新味」。

2年以上が「昔味」。

いずれもその主役は、先祖代々が改良を重ねた、伊賀特産の白瓜。

まずは芯を刳り貫き、20~22%の濃度で塩漬けし貯蔵。

同様に塩漬けした野菜(紫蘇、生姜、大根、胡瓜)を刻み、塩漬けした瓜の芯に詰め、樽の中で醤油を12~13%注ぎ入れ本漬けへ。

「浸透圧の作用で、醤油が瓜に染み込み、塩分が吐き出されるんやさ」。

そして味の抜けた醤油を抜き取り、新たに醤油を注ぎ込み、真っ暗な樽の中で深い眠りへと誘う。

樽に住まう菌はやがて神となり、洒脱に俳諧味あふれる養肝漬を育む。

かつて「武士の肝っ玉を養う」とまで謳われた、古里の名産として。

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投稿者: okadaminoru

1957年名古屋市生まれ。名古屋在住。 岐阜県飛騨市観光プロモーション大使、しがない物書き、時代遅れのシンガーソングライター。趣味は、冷蔵庫の残り物で編み出す、究極のエコ「残り物クッキング」。 <著書> 「カカポのてがみ(毎日新聞社刊)」「百人の天職一芸(風媒社刊)」「東海の天職一芸(ゆいぽおと刊)」「東海の天職一芸2(ゆいぽおと刊)」「東海の天職一芸3(ゆいぽおと刊)」「長良川鉄道ゆるり旅(ゆいぽおと刊)」

「「天職一芸~あの日のPoem 330」」への10件のフィードバック

  1. 食いしん坊な私としては食べて見たい漬け物ですね。浅漬けは簡単で美味しいから自分でもできるけど昔ながらの漬け物はなかなか出来ませんね。先日、もう一度…食べたいと思った『ばあちゃんの味』に挑戦したけど失敗。失敗作でも自画自讃❓️美味しかった(笑)材料は岐阜にはないので郡上から送ってもらいましたよ。塩ます、干し鰊、麹、ご飯を使って作る『なれずし』です。寒いうちにもう一回挑戦です。

  2. ❖ 養肝漬 ❖

    白いごはんに? お茶漬けに? おかゆに? あっさり味?
    奈良漬好きな私 気になりますね 
      (灬º‿º灬)♡
    日本酒にも合うのかしら〜 ʕ º ᴥ ºʔ

  3. 鉄砲漬けなら食べた事がありますが、養肝漬は初めて聞く名前です。どちらも凄いネーミング⤴️

  4. これは美味しそう!
    あったか〜いご飯や熱燗にピッタリ( ◠‿◠ )
    名前だけ聞くと 一瞬「えっ?」ってなるけど 食べた瞬間の驚きと…
    このギャップがいいんじゃないでしょうかね。

    1. 女性の方は、お漬物がお好きですものねぇ!
      ぼくはついついキュウリの糠漬けや、野沢菜、それに白菜のお漬物といったスタンダードなお漬物に目が行ってしまいます。
      だから食べず嫌いなお漬物ってぇのが、沢山ありますねぇ。

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