「天職一芸~あの日のPoem 318」

今日の「天職人」は、名古屋市西区の「本田マコロン本舗主」。(平成21年4月21日毎日新聞掲載)

放課後告げるチャイムより 先を競った畦の道          どんなおやつか腹が鳴りゃ 蛙も慌て飛び跳ねる         土間に見知らぬ履物が 客の茶請けは?上物か?         流しの隅で菓子箱を 覗きゃマコロンやったねホイ

名古屋市西区、大正13(1924)年創業の本田マコロン本舗。二代目主の本田輝宜(てるたか)さんを訪ねた。

「この人とデートすると、いっつもマコロンの匂いがしてねぇ。オーデコロンみたいにウットリするような、洒落たもんならええのに」。妻の言葉に夫は苦笑い。

「私の田舎は三河湾の佐久島で、この人が高校の友人7人と毎年キャンプに来とったわけ。高2の時かな?私が海水浴場で貸しボートのバイトしとったら、この人が水道の場所を聞きに来てねぇ。それがきっかけ」。

妻は高校を卒業すると、名古屋の短大へ。

「昔は私がこの人に夢中で追っ駆け。でも今はその逆」。

17歳の夏に芽生えた恋は、7年後に結ばれ二男を授かった。

「今になって思うわ。何で選り取り見取りに7人も男がおったのに、この人にしたんやろかなあって」。

妻はコーヒーと自慢のマコロンを差し出した。

昔ながらの半円球。

こんがり焼き上がった焦げ茶色。

「昔は高級菓子。でも今は駄菓子だわ」。夫が寂しげにつぶやいた。

確かに他の菓子に比べ値段が張り、中々買って貰えなかった代物(しろもの)だ。

懐かしさに一口頬張って見る。

カリッとした表面を噛み砕けば、後はサクッと崩れ出すような食感。

ピーナッツの香ばしさと、上品な甘味が広がる。

「私が子どものころ遠足行く時なんて、6粒だけしか持たせて貰えんくってねぇ。だで嫁に入ったらようけ食べれるわって思ったもんだわ」。

昭和の下町風情を今に残す木造工場。

小路が突き当たる屋根には、町内の安全を屋根神様が見守る。

輝宜さんと妻幸江さんの開口一番。

人懐っこい妻と寡黙な夫の掛け合いに、すっかり引き込まれた。

輝宜さんは昭和25(1950)年、次男として誕生。

高校を出るとそのまま家業に入った。

袋詰めに配達の毎日、やがて22歳で製造へ。

「フランスの焼き菓子マカロンを真似て、父が昭和の初めに作り出したのが和製マコロン。でも肝心の商標を『本田マコロン本舗』で取ってまったもんで、マコロンだけを名乗る類似品は規制できん。そんだで最盛期は名古屋に3軒もあったって」。

昭和の庶民にとって、ちょっと高嶺の花であったマコロンの製造は、落花生の選別に始まる。

まず木屑・鬼皮・小石を取り除き、渋皮を炒り一晩寝かす。

翌日釜で再び炒り、渋皮と芽を落とし粉砕機で細かく潰して、また一晩寝かせる。

翌日、混合機に砂糖・小麦粉・卵・マーガリン・ベーキングパウダー・シナモン(昔はスピリッツを使用)を一緒に入れ、練り上げる。

それを球断機で切り分け表面に粉を塗し、鉄板の上に並べて長さ6間(約10.8㍍)のトンネル罐で焼き上げ、再び粉を振り、缶に入れ一晩寝かせば完成。

昭和の庶民の味マコロンは、この工場で3泊4日じっくり育まれ、平成の世へと生まれ出でる。

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投稿者: okadaminoru

1957年名古屋市生まれ。名古屋在住。 岐阜県飛騨市観光プロモーション大使、しがない物書き、時代遅れのシンガーソングライター。趣味は、冷蔵庫の残り物で編み出す、究極のエコ「残り物クッキング」。 <著書> 「カカポのてがみ(毎日新聞社刊)」「百人の天職一芸(風媒社刊)」「東海の天職一芸(ゆいぽおと刊)」「東海の天職一芸2(ゆいぽおと刊)」「東海の天職一芸3(ゆいぽおと刊)」「長良川鉄道ゆるり旅(ゆいぽおと刊)」

「「天職一芸~あの日のPoem 318」」への13件のフィードバック

  1. 「天職一芸〜あの日のpoem318」
    「本田マコロン本舗主」
    懐かしい!と思ってしまいました。
    食べ心地もこんな感じでしたから
    名古屋に3件あったとしても田舎の田舎に本物が届いていたかは さだかではありませんけれども 美味しかったです。
    台風が来る前に買って貰えるお菓子の横綱の次くらいにマコロンも入っていると嬉しかったです。それからラスクとっと
    言い出したらとまらなくなります。

    1. そうでした、そうでした!
      ちょっとお高いお菓子は、特別な日の特別なお菓子でしたもの。
      普段は徳用袋に入った安売りのお菓子がそりゃもう多かったですよ!

      1. 「美味しかったですよっ!」て伝えたくなり「本田マコロン」のブログがどこだったのかと 探していたらやっとみつかりました。懐かしくって美味しかったです。脳細胞が活性化されて若返ったような いえいえ 食べ過ぎてまんまるくなったような

        1. 妙に懐かしくって、それでもってやさしい気持ちになれちゃう、昭和の銘菓ですものね!

  2. 子供の頃は食べてましたねぇ。唾液でホロホロ溶かしてみたりして。懐かしい味が蘇ってきました⤴️

  3. 今晩は。
    ・本田マコロン本舗主のお話ですね。
    ・マコロンは、職人さんの手作りなのですね。
    ・マコロン美味しそうですね。私は、マコロン好きです。マコロン美味しいですね。

  4. 写真を見たら 懐かし〜いっていう感情が湧いてきました。
    食べた事があります。
    サクッ シュワ〜 って感じ…
    でも 類似品だったかも(笑)
    お菓子コーナーで 昔懐かしのお菓子を探してみようかな⁈

    1. ぼくも皆さん同様に、無性に食べたくなって来てしまいました。
      今度どこかで探して見ようと思っています。

  5. このマコロンをみて、現代の色鮮やかなお菓子、マカロンとの関係を考えると、ルーツは一緒?こちらは「わび・さび」の日本風。それから、関係ないですが、今年も年賀状が余りました。が、出す先がありません! 以前はヤンスタのリクエスト用に使ってたのに~!

  6. このブログを見て、無性にマコロンが食べたくなり、今日スーパーで「本田マコロン」を探して買ってきました!
    午後のおやつに熱い紅茶と共にいただきました
    (*^^*)
    ピーナッツの風味がして、噛むとサクサクしてとてもおいしかったです♪
    なんだかとても懐かしい味がしました★
    ブログを読んだら、一粒一粒がじっくり作られていることを知り、味わいながら食べました!
    もう、花粉も飛びはじめているようで、花粉症の私は一年の内で一番しんどい季節です
    (^_^;)
    コロナ対策もありますが、マスクはますます必需品です!
    オカダさんもくれぐれも気をつけてくださいね★

    1. そうでしたかぁ!
      それはそれは、ありがとうございましたぁ!
      どうかどうか、オータムオキザリスさんご一家も、コロナから身をお守りくださいね!

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