今日の「天職人」は、三重県四日市市の「鯛焼き屋」。(平成20年12月30日毎日新聞掲載)
突っ張り気取る先輩は マンボズボンにリーゼント 同じクラスのマドンナを バス停前で待ち伏せた 待ちくたびれて先輩は 彼女に渡すプレゼント 鯛焼き二枚齧(かじ)り付き 女子高生に後ろ指
三重県四日市市の、たいやき伊藤商店。二代目主の伊藤典正さんを訪ねた。

今川焼きに大判焼き、それに鯛焼き。
いずれも昭和の半ばは、庶民にとって高嶺の花。
少なくとも我が家では、テストが満点とか、運動会で一等の時にしか、めったに口に入らぬご褒美(ほうび)だった。
以来、この国が高度経済成長を遂げる度、鯛焼きはその地位を一つずつ洋菓子に明け渡していった。
「父は何にも遺(のこ)さんくても、お客さんだけ遺してくれたでさ。それだけでええやん。二代続いた宝物なんやで」。典正さんは、年季が入って黒光りする鋏鏝(はさみごて)を返した。

「わし1でええわ。ここで食べさせてもうてくで」。年老いた馴染み客は、手馴れた様子で給茶機から茶を汲み、テーブルに腰掛け、焼きたての鯛焼きをいかにも美味そうに両手で頬張る。

典正さんは昭和17(1942)年に、4人兄妹の長男として誕生。
「父は戦前からアイスまんじゅうの製造を始め、その後、昭和32年から自己流で鯛焼き屋を開業。アイスは夏場の仕事やし、冬んなるとブラブラしてまうもんで」。
アイスまんじゅうの餡子作りから、さらに試行錯誤を繰り返し、鯛焼きにぴったりの餡子を完成させた。
「この鯛焼きの型は、父がこだわって手作りした、家(うち)独自の鋳物製」。
手先の器用だった先代は、焼き場のガスコンロにも一工夫。
左右で火力が異なる。
右手の火力が一番強く、最初に生地を薄く流し入れ、餡子を入れて再び生地を塗り、鏝で挟んで裏返して一つ左側へと鏝ごと移動させる。

順にこの作業を10個分繰り返せば、最初の鏝が1番左端の最も火力の弱いコンロの上へと移動する。
そうすれば1番左端から順に、鯛焼きが焼きあがる仕組みだ。
「コンロの上に鯛焼きが立てて置いてありますやろ。その番線を折り曲げた鯛焼き立ても、父が遺した手作りもんですんさ」。
ここに鯛焼きを立てることで、コンロの余熱で程よく保温された状態が保たれる。
「寝かしたままやと、生地が湿気(しけ)てベタットしますやろ。こうしとけばいつまでもパリッとした食感を、味おうてもらえますで」。
典正さんは高校を上がると、弱電関係の会社へと就職。
昭和49年に社内結婚で弘子さんを妻に迎え、一男二女を授かった。
そして32年間勤め上げ52歳で退職。
「父は80歳超えてましたし」。
年老いた両親の店を引き継いだ。

「父にはえらい仕事やったでしょう。熱いし鏝は1㌔あって重いし、おまけに立ち仕事やし」。
それでも先代は、87歳でこの世を去る直前まで、鏝を握り続けた。
典正さんの朝は早い。
毎朝5時起き。
6時間かけ、小豆に砂糖、そして塩と水飴を加え餡を炊く。
「父が遺したやり方、そのまんまですに」。
典正さんが照れ臭げに笑った。

半世紀を経た伊藤商店の鯛焼きは、紛れも無い昭和半ばのありがたい味がした。
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たい焼きも大判焼きも、オーブントースターで焼いてから食べます。冷蔵庫に入れた物はレンチンしてからオーブントースターへ。パリッ!カリッ!として好き⤴️
皮がパリッとしていて、中がしっとりもっちりなんて、最高な食感ですよねぇ!
出来上がった、たい焼きを立てておく工夫はすごいですね。きめ細やかな対応ですね。写真にある昭和の味がしてきそうな、やや肥えたホッカホッカたい焼きが食べたくなります。ウチには冷凍庫にチンを待つたい焼きがおりますが。
冷凍庫にたい焼きとは、素晴らしい!
酔うと甘い物が無性に食べたくなる時がありますもの。
こんにちは。
鯛焼き屋さんのお話ですね。
・たい焼き,大判焼き,今川焼き好きです。
・私は、たい焼きの具材は、あんこ,カスタードクリーム両方好きです。最近 鯛焼き屋さんで鯛焼きを、買っていませんね。
うちの冷凍庫にも 普通サイズの鯛焼きとミニサイズの鯛焼きが入ってます( ◠‿◠ )
息子のおやつに… 私も小腹が空いた時に。
でも やっぱりお店で買った出来たての鯛焼きが一番美味しいんですよね!
皮パリッと餡子ふわぁ〜。
皮をパリッとさせてるお店って 意外と少ないんですけどね。
たい焼きも生きている証なんでしょうかねぇ。
パリッとして焼き立てのいきのよさと、しんなりとおしとやかな肌触りになったり。
「天職一芸〜あの日のPoem303」
こころ配りの技ですね。
おいしそぅ〜!さりげなくって、お客さんもくつろいでしまいますね。
でしょ!
なんだかホッコリしましたもの。
おはようございます(^-^)
私の近所におばさんがリヤカー屋台で冬は鯛焼き1枚1枚鯛焼きを焼いていました。鯛焼き1枚50円でした。夏はみたらし団子を焼いていました。みたらし団子1本30円でしたよ!小学校の頃はお小遣いが少ないので沢山買えないけど今ならこの安さなら沢山買えるのにね。鯛焼き1枚1枚焼いてお店は少なくなりましたね。ちなみ1枚1枚焼いている鯛焼きが好きで良くおばさんが焼いている姿が好きでいつも見ていました後ろから覗いていましたよ(^-^)
子どもの頃って、働く大人の姿に妙に惹かれたものです。
ぼくもうどんを捏ねる職人さんの手つきなんぞ、見入っていた方です。
行ってきましたよ、オカダさん。今日、名古屋に所用で行った折に近鉄四日市駅前の国道1号線を西に入ったお店を訪れました。16時頃に入ったお店には女性2人連れの先客が鯛焼きの「注文受け」を待っていました。そうです、それほど立て込んでいたのです。僕も15分間ほど店内で待たせていただきました。写真3枚目の机と椅子の佇まいも変わりません。奥の壁上部には、招き猫の時計が掛かっていました。ご夫婦も健在で、鯛焼きを焼いておられました。ビックリは次から次へとお客さんが見えることです。待つ間5人ほど訪れた来客はすべて女性でした。ご主人は80歳になられるのですね。写真と同じオレンジ色の作業着で、鯛焼き作りに奮闘しておられました。帰途、養老鉄道の車中でホカホカの鯛焼きをいただき、幸せいたしました。
そうだったんですかぁ!
時の経つのはなんとも早いものです。
ご主人様も80の齢になられながらも、現役を貫いておられるとのこと、何よりぼく自身勇気をいただけました。
神戸町のイカじじい70様のレポートに、ただただ感謝しきりです。